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54.シスコン悪役令嬢、食堂へ

 フロールの言葉は決して過言ではなく、食堂はそれはそれは混雑していた。


「うへ……こんな多いの……?」


「何を驚いてますの? いつもこんな感じではありませんか」


「え? あ、ああ、いや相変わらずだなぁって思って」


 フロールにそう怪しまれて慌てて訂正する。


 そうだった、セリーネはこの食堂を利用していたのだ。美幸としては初めてだけどそれを悟られるわけにはいかない。


「フロール様!」


 フロールから若干訝し気な目線が飛んでくるのを何とか躱していると、彼女の取り巻きの一人が食堂の中からやってきた。


「ちょうどテーブルが空いてましたので、こちらにどうぞ!」


 どうやら席を取りに行っていたらしい彼女の案内で、遂に私はゲームでしか知らない食堂に足を踏み入れた。


「わぁ……」


 私の感嘆とした声は食堂の賑わいに掻き消されることになったが、それでも私は庶民らしくその高過ぎる天井を眺めることになった。

 ゲーム内でも豪華な背景絵もあったし、テキストの描写でもそれは書かれていた。しかし、実際に見てみるとやはり圧巻であった。


 あまりにも高すぎる天井、豪華な装飾のシャンデリア、大きな窓に綺麗なガラス、テーブルや椅子だって明らかに高級品だってわかる。


「何をボーっとしてますの? 行きますわよ」


「あ、ああ、うん」


 色んな生徒が昼食とおしゃべりを楽しんでいるが、現れた私達の方に注目している生徒も大勢いるようだった。


「あら、中々いい所が空いてましたわね」


 しかし、そんな視線には慣れているのかフロールはズンズンと進んでいく。

 私達のテーブルは入口から一番遠い角のテーブルでかなり良い場所だった。本当に偶然空いていたのか、まさか変に権力を使ったのでは……と思ったけど、フロールはたぶんそういうことはしないだろうし、させないだろう。短い付き合いだけどそれは何となくわかる。


「さ、座りましょう」


 今回は私を含めて五人で席に座る。私とセリーネ、それと取り巻の名前も知らない三人だ。


「お待たせしました。ご注文をどうぞ」


 席に座るとすぐに給仕がやってきた。この食堂は高級志向なのか、食券などというシステムはなく、普通のレストランのように注文を取りに来る。それはゲーム内と同じだ。

 しかし、これだけごった返しているのだから給仕も大変そうだ。そんな中フロールは渡されたメニューを見ることなく私たちに声を掛けた。


「そうですわね。特に皆さんが頼みたいものがなければシェフのオススメにしようかと思っているのですが、よろしいかしら」


 シェフのオススメとはゲーム内でも聞いたことがあるけど、その名の通り日によって変わる所謂、定食屋の日替わりランチのようなものだ。

 私もこんな混雑している状況の中でじっくり選ぶ気はないし、これだけ忙しい中凝った注文をすると時間がかかりそうだと判断し、フロールに賛同すると取り巻きの三人が少し意外そうな顔をしてから同じように賛同する。


「では、シェフのオススメを5つ、お願いしますわ」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 給仕の人は頭を下げると足早に厨房に戻っていった。私は先に置かれていたお冷に口をつける。


 するとフロールがこちらをじーっと見ていることに気が付いた。


「……どうしたの?」


「うーん、やはり気になりますわね……」


「気になる?」


 フロールは疑惑の表情を全く隠さないままに、私にハッキリと言ってきた。


「セリーネさん、貴女ここ最近で何か変わりすぎじゃありませんこと?」


 それを聞いた私の心臓が、ドクンと大きく脈打った。


「な、なななんのこと……?」


 あからさまに動揺してしまい、益々フロールは疑うように目を細める。


「なんのこと? ではありませんわ。貴女が病を治して学園に戻ってきてからずっと疑っていましたもの」


「ずっと……?」


「ええ。こう言っては失礼だとはわかっていますが以前の貴女は悪い評判が流れるほど傲慢で理不尽でした。そんな貴女の行動は大体私の耳に届いていましたの。それがここ最近おかしなことになっていますのよ」


 彼女曰く。突然性格が穏やかになり理不尽なことや我儘を言わなくなった。かと思えば第二王子に喧嘩を売るなど滅茶苦茶な行動をしたり、魔法を使ってぶっ倒れたり、とにかく予測できないことをするようになった……ということが耳に飛び込んできていたらしい。


「しかも、それぞれの話題の影にはある共通の人物が必ず現れていますのよ」


「共通の人物って……」


 それぐらいはいくら私でも察しがつく。フロールはフフンと済ました顔で私が思った通りの名前を口に出した。


「それは貴女の家に引き取られたフィアナさんですわ!」


 いやまあわかってたけどね。と心の中で呟いた。だけどそれが何だというのだろうか。


「それで……結局何が言いたいの?」


「……はい?」


 私が素直にそう尋ねるとフロールは首を傾げた。いや、何か言いたいことがあったからその話題を出したのではないか。


 しかし、彼女はキョトン顔であっさり答える。


「別に何もありませんわよ?」


「は?」


「まあたしかに! その言葉遣いやら殿下方々への態度などなどなど、同じ公爵家令嬢としては看過は出来ないところはありますが!」


 そういって目を鋭くする彼女に私はぐうの音も出ない。


 以前、私は周囲にはお嬢様っぽく振る舞おうなどと張り切っていた時期があったが、中身は結局はただの庶民だ。気がつけば言葉遣いや立ち振舞いなんか一般的女子高生のそれで、しかも別に直さなくてもいいやとまで思っていた。


 しかし、やっぱりそれは不自然だったらしい。


「それとも、それが貴女の素ということかしら?」


「うーん、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない……」


 フロールの問いに煮え切らない答えを返す。実際に美幸としてならその通りだが、身体はセリーネなのだから判断が難しいのだ。


 その答えを受けてフロールは大きくため息をついた。


「本当に変わりましたのね……いや、別にそれが悪いとは言っておりませんよ!? 実際、ここ最近貴女の悪い噂は聞かなくなりましたし、同じ公爵家令嬢として恥をかかずにすんでますから!」


 以前の評判がどれくらい悪いのか、色んな人が言っていたから余程ひどかったのだろう。


 私自身、そういうのはあまり気にしないがそこからフィアナのことも悪く思われたらとんでもないので減っているならありがたい話だ。


 一応話に一段落ついたのか、会話が途切れたタイミングで今度は私から口を開く。


「あのさ」


「はい?」


「私も聞きたいことがあるんだけど」


 それはフロールに対しての純粋な疑問だった。


「なんでしょう? 私に答えられることなら何でもどうぞ?」


「どうして今日はわざわざ誘ってくれたの?」


「へっ」


 そう、いくら評判が変わったとしても、傲慢で理不尽な令嬢と名高い私をこうして食事に誘うものだろうか。


 アクシアから聞いた情報ならフロールに対して試験の結果もバカにしていたみたいだし、きっと彼女にもそれなりに嫌な思いをさせたはずだ。


「それなのになんでかなーって」


「そ、それは……」


 さっきまで落ち着いていたフロールが今は慌てることになった。そこから察するに、どうやら今回のこれは何か理由があるようだ。


「じーっ」


「う……ぅ」


 しどろもどろになっているフロールをじっと睨むと彼女は目を逸らしながら必死に答える。


「そ、それはっ、公爵令嬢でもあるセリーネさんが一人で席待ちするのが可哀想だっただけですわ!」


 そう言いながらも目を泳がせるフロール。嘘のつけないタイプだなぁ、と思う。正直嫌いじゃないけど。


 しかし、私には言えない理由があるのだろうか、そう思っていると取り巻きの一人が諦めるように言った。


「フロール様、やはり正直に話した方がよいのではないでしょうか。今のセリーネ様ならきっとわかってくれますよ」


「で、ですが……」


 それに続くようにもう一人も励ますように声を掛ける。私抜きで何かが始まったぞ。


「大丈夫です。勇気を持ってください! フロール様なら出来ます!」


 そんな風に鼓舞されたフロールは少しだけ間を置いてから、突然決心したように立ち上がった。


 なんだろう、何をする気なんだろうと思っていたら、彼女は何度か深呼吸をしたあと、意を決したように私に片手を差し出した。

 それに呆気に取られた私が見るとフロールは顔を真っ赤にしながら口を開いた。


「せ、セリーネさん! わ、私と……友人になってくださいまし!」


「…………ほえ?」

ブックマークや評価、感想、誤字報告などありがとうございます!

次回の投稿は6/10の22時頃を予定しております!

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