52.シスコン悪役令嬢、妹の魔力
すいません、仕事が早いため寝ないといけないので少し早めに投下します。
良い考え、とは往々にして悪い結果になってしまうフラグのような印象がある。勿論フィアナのことを信用していないわけじゃない。
「えっと、それで具体的に何をするの?」
夕食後の時間、私の部屋にフィアナと二人きりになっていた。これはいつもの光景だったりするのだが、今日は談笑しているわけじゃない。
「お姉様は魔力を他人から受け取れることが出来るって知ってますか?」
「……あー、うん。一応知ってるよ」
「やっぱり高等部になると習うんですね! それなら話が早いです!」
魔力の譲渡。これは習ったとか勉強していたとかではなくて、ゲームで知ったことだ。
覚醒したフィアナの魔力量はかなり多くなっており、それを表すスキルとして他者に対してその魔力を分けることが出来るのだ。
ゲームでは攻略対象に使うことでバフと好感度を得ることが出来る中々有能な物だった。
「実は魔法院に泊まった時、私の魔力量なら問題なく出来るだろうってその話があったんです」
「もしかして、それを使って練習するの?」
私の問いにフィアナは大きく頷いた。
「その通りです! お姉様のあの大きな魔法は魔力量もバランスも両方必要だと思います。だから私が魔力量を補って、お姉様はバランスに集中すれば完成するんじゃないかって」
それを聞いて少し納得しそうになったが、一つだけ疑問が残る。
「でもさ……それってフィアナの力を借りる必要があるし、実際の試験じゃ意味ないんじゃない?」
「いえいえ、一度完成した物を体が覚えることが重要なんです!」
確かにフィアナの言う事も正しいかもしれない。一度でも完成形を覚えることは近道にもなるし、足りない日数ではそれもありだと思えた。
「でも、今日はもう出来ないよ?」
そう言って外を見れば既に真っ暗闇。今から魔法の練習をしたいなんて言っても言語道断だろう。フィアナもそれはわかっているらしく、少し自信なさそうに口を開く。
「そうですね……ですので、とりあえず魔力をお姉様に移すのだけやってみたいと思います。私も提案しておいてなんですが、やったことはないので……」
自信がなさげなのはそういう理由だった。そりゃそうだろうと思う。元々その技は攻略対象に使うものでゲームで私に使うなんてことはない。
まあ今回は私が貰うことになる予定なんだけど!
「じゃあせっかくだし、早速やってみようか」
「は、はい。じゃあ流してみるのでお姉様も集中してみてください」
「りょうかーい。それじゃ……」
ソファーに座ったままお互いに向き合う。何だかこうして静かに面と向かうのは少し緊張する。フィアナは私の両手をゆっくりと握るとそのまま目を閉じた。
たぶん集中しているんだろうけど、私は逆でその握られた手に心を乱されていた。
(フィアナの手、めっちゃ柔らかぁい……)
抱き着いたりすることはあるが、こうして包むようにギュッと手を握られたのは初めてで、その生々しいまでの感触に私は少しだけ動悸を激しくする。
フィアナの手は柔らかいこともだが、驚くほど白く綺麗でスベスベで……許される限り握り続けていたい手だった。
「ぁ、んっ……! あ、あの、おねえ、さま。ちょっと、くすぐったい、です……!」
だから自然と彼女の手の感触を楽しもうと、手をワキワキさせてしまったのは不可抗力だった。
思いもしない艶のある声がフィアナから聞こえて、私はハッとなる。そして目の前で少し顔を赤らめている彼女に慌てて謝った。
「あ、ご、ごめん! 無意識に動かしちゃってた……」
「その、お姉様も集中してくださいね? 私だけじゃダメなので……」
「はい、ごめんなさい……」
指摘されてまた謝罪しながら更に頭を下げる。あまりにも煩悩が過ぎた。次は集中しよう。それで全部終わったら存分に手を堪能させてもらおうとまで勝手に決めた。
「じゃ、行きますよ……」
もう一度、とフィアナが手を握って集中する。それと同じように今度は私もフィアナの手ではなく魔力に集中して受け入れる準備をする。
「ん、んん……」
すると、フィアナの手から何か温かい物が伝わってくる。それは体温の温かさではなく内側の血管を巡っていくような不慣れな感覚で、私は小さく呻いてしまう。
「おねえさま……どうですか……?」
小声でフィアナが尋ねてくる。
「ん、なんか……あったかいのが流れてきてる……」
たぶんこれがフィアナの魔力なんだろう。使う魔法属性は違えど根本的には魔力という所は一緒だ。だからフィアナの魔力を受け取っても風の魔法は使えないというのは少し残念だった。
とにかく、魔力は溜まってきているようで徐々に体が熱を持ち始める。これが魔力を持つという事なのだろうか。
何だか興奮しているような感覚に陥りそうになっていた時にフィアナの手がゆっくり離れた。
「ど、どうですか?」
「はぁ、はぁ……ん、なんか体が熱いかも」
風邪を引いたときの熱とは明らかに違い、昂っているのは確かだ。一種の興奮状態みたいなものだろうか。
「これなら魔力の量は十分だと思います。明日やってみましょう!」
「う、うん。それはいいんだけどさ……」
「はい?」
「この火照りはどうしたらいいの……?」
「あ……」
身体中を巡る熱に耐えながら聞くと、フィアナは一言発して固まった。その後のことは何も考えていなかったらしい。
熟々と体が煮えているような感覚。呼吸も自然と荒くなるし、思考にはボヤーっと靄が掛かる。
そんな働かなくなっている思考の中で私は当然といえる案を出す。
「あ、そうだ……またフィアナに返せばいいんじゃないかな……」
「え?」
フィアナが何かを言う前に彼女の手をガシッと握った。何だか上手く思考がまとまらない。とりあえず手を離さないようにしないと……あと堪能しつつ、魔力を返して……堪能しつつ、堪能……
「あ、あああの、お姉様!?」
何だか嫌な予感がしたのだろう、フィアナが私を慌てて呼ぶがもう私には届いていなかった。
「い、今、返すからね……」
さっきと同じように……否、さっきよりもより厭らしい動きでワキワキと手が動き出す。よりねちっこく、より繊細に、フィアナの手というよりも指を一本ずつじっくりと味わうような、そんな動き。
「ひゃ、あっ! ま、待って、おねえさま、それ、だめっ……!! くすぐった──」
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そこから詳しくは覚えていないんだけど、諸々の熱が冷めたことに気づいた時には、私に手を握られながらゼーハーと荒い呼吸を繰り返しているフィアナがいた。
「あれ?」
「お、おねえさまぁ……て、手、離してくださぁい……」
「わ、わああ、ごめんごめん!」
いきなり涙目でそう言われたら離さずにはいられない。あれ、さっきまで魔力の移しをやっていたはずなのに……あれ?
「と、とりあえず魔力を移すのは成功したみたいなので……あ、明日また庭でやってみましょう……ね」
「あ、う、うん」
フィアナは自分の手を見つめながら僅かに顔を紅潮させていた。どうしたんだろう、やっぱり手を握るのは恥ずかしかったのだろうか。
「じゃ、じゃあ、私は部屋に戻ります。おやすみ、なさい」
「お、おやすみ……」
そのままフィアナはフラフラと部屋から出て行ってしまった。やっぱりまだ慣れていないから疲れが来たのかもしれない。
私も何だか記憶が曖昧だ。たぶん同じように
慣れていないからに違いない。
「私も寝よう……」
既に時間は日を跨いでいた。いつの間に……と思いもしたが、それよりも重く大きな眠気に襲われて、私は誘われるようにベッドに沈んだ。
試験まで後二日……
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