51.シスコン悪役令嬢、妹と魔法の練習をする
後書きにて今後の更新に関するお知らせがありますので、良かったらご確認ください。
時間の経過というものは慌てているほど早い気がする。だって気がつけば既に試験まで三日となっているのだから。
「それではセリーネさん、ごきげんよう!」
「あー、ご、ごきげんようー?」
既に日課となった令嬢エンカウントを済ました私はそのまま正門に向かう。何かここ最近は普通に話しているだけな気がするけど深くは考えない。
すれ違う生徒と軽く挨拶を交えながらしながら正門まで来ると、とある声が響いた。
「あ、お姉様ー!」
凄いヒーリング効果のある声だ。一日の疲れが一瞬で吹っ飛んでしまいそうである。ただ流石に他の生徒の目があるので顔を緩めることはしなかった。危なかったけど。
「フィアナ、待っていてくれたの?」
「はい! そろそろだろうと思ったので待っちゃいました♪」
んぐっ、とその無邪気な可愛さに精神を持っていかれそうになったが何とか耐えた。こんな風に最初の頃の遠慮だとか、警戒心がなくなったフィアナはある意味で脅威だった。
「さ、シグネ達も待っていますから。行きましょう!」
いつの間にかシグネに対してもさん付けじゃなくなっているし、私以外との関係も良好に進んでいるようでお姉ちゃんは少し安心する。
そんな彼女と迎えの馬車まで歩きながら話す。
「今日も帰ったらするんですか?」
「そうね。そのつもりよ」
「それなら私もお手伝いします!」
「それは嬉しいけど……でもフィアナは試験大丈夫なの?」
私の問いにフィアナは頷いて答えた。筆記試験に関してはシグネから学んだりアクシアと勉強したりで問題なし。魔法試験に関しては……その様子から見て問題はないんだろう。
それでも少し引け目に感じていたら、彼女はわざわざ下から覗き込むような姿勢を作って尋ねてくる。
「それに、お姉様の力になりたいんです。ね、いいですよね?」
「うん、いいよ!」
ああ無理だ。その可愛さに抗えない!
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何を手伝って貰っているのかといえば、当たり前だが魔法の試験対策である。高等部三年は自分で考えた創作魔法の披露であり、中々難易度は高い。
ちなみにフィアナの所属する中等部一年は自身に適性のある魔法の初級クラスを使用することらしい。
「じゃあフィアナは楽勝って感じかー」
「楽勝……ま、まあ、そうですかね」
「いいなぁー」
学園が終わってすぐに帰ってきたのでまだ日は沈んでいない。そんな時間に私とフィアナは家の裏庭にいた。当たり前だけどこの家の庭は滅茶苦茶に広いので、今日みたいな魔法の練習にはもってこいだ。
大体こういった魔法の練習は学園の修練場(私とバリスが戦った場所)などを借りてするのが普通らしいが、この広大な敷地のおかげで集中して練習できる環境にあるのはありがたい。
(たぶん私が修練場で魔法の練習したら注目されるだろうしなぁ)
元からエトセリア家のセリーネ嬢といえば悪い意味で目立っていたらしいが、私が目覚めてからその評判は色んな方向にいつの間にか伸びてしまっているらしく、若干名物めいてきているらしいのだ。
(まあ悪評一辺倒よりはマシだと思うけどさ……)
ふぅ、と息を整える。魔法を使用するには集中力が第一だ。そしてその次に大事なのは使いたい魔法の想像力である。
「じゃあ、昨日と同じくやってみましょうか」
フィアナの促しに頷いて気合を入れなおす。
「……よし」
魔法に関する教師はフィアナだ。
彼女はあの決闘の一幕で魔法の素質に覚醒しており、高い水準で自由に魔法を使えることが出来る。というわけでそんな彼女からアドバイスを貰うのが私の狙いであり、彼女を先生と仰ぐ理由だ。
聞けば、フィアナは集中すれば魔力の流れも感じることが出来るようで、私が魔法を使う際にどれだけ乱れているかとか、魔力のバランスとかを教えてくれる。それで魔力の込め方もある程度目安がつくので凄く助かっている。
「じゃあ、行くわよ……!」
「はい、頑張ってくださいっ」
フィアナの声援を聞いてから私はグッと集中する。するとすぐに身体の中を冷気が駆け巡るような感触に襲われる。
「……よし、咲きなさい!」
冷気が一段と強くなった瞬間、頭の中のイメージをそのまま外に押し出すように私は手を突き出した。
その瞬間、地面から巨大な氷の薔薇が咲いた。
『ブルーローズ』……それはゲームでセリーネと衝突して戦うときに彼女が最後に使用する切り札である。
それは巨大な氷の薔薇から、無数とも言える鋭い氷の棘をあたり一面に放ち、パーティ全員に凶悪なダメージを与えるものだ。
私はそれを創作魔法にしようとしている。ゲーム内で出来るなら素質はあるだろうし、何より想像しやすかったからだ。
しかし。
「あ、やばっ……」
ガキ、とヒビが入るような……いや、実際に薔薇の根元部分にヒビが走った。それはすぐに大きく広がっていく。
そしてそのままバキンと根が折れて、そのまま花の部分がそのまんま崩れてくる。そう、発動者である私に向かって──
「……お姉様!!」
押し潰される、そう思って腕で頭を庇って目を閉じた瞬間、私を呼ぶ声と同時に暴風が舞った。
それに気づいて目を開けると、私に落ちてこようかとしていた薔薇は、無残にもバラバラに引き裂かれ、私の周りに小さな音を立てながら落ちてきていた。
フィアナの風魔法だとはすぐに察しがいった。
「また失敗か……ごめんねまた助けてもらって」
「い、いえ、それよりも怪我はありませんか!?」
「……ん、フィアナのおかげで大丈夫よ。ありがとう」
「良かったぁ」
フィアナはホッと胸を撫で下ろす。その姿も可愛いけど今は自分のことだ。
このブルーローズという魔法は今のように何とか形は作れても、すぐに崩れてしまうのだ。
さっきも謝ったが、実は今日みたいに失敗してフィアナに助けられるのは数回目だったりする。何とも情けない姉である。
「うまくいかないなぁ。今のどこかおかしかった?」
「うーん、魔力が上の方に集中している感じでした。だから根が折れちゃったんじゃないかと」
「やっぱりバランスかぁ」
そして課題も最初から変わっていない。
今日とは逆で魔力を根っこに集中しすぎて30頭身ぐらいの不格好な巨大な氷薔薇を作ってしまったこともあり、魔力のコントロールはずっと私の課題だった。
「魔力のバランスをとるのって難しいなぁ」
フィアナみたいに自由に使えればいいのだろうが、生憎私は一般令嬢だ。フィアナのように覚醒出来ればいいのだが、そんなイベントはないだろう。少し羨ましくなってフィアナを見ると、彼女は何故か悲しそうな顔をしていた。
「ごめんなさい……あまりお役に立てなくて」
「そ、そんなことないわよ! 貴女のおかげで凄く助かってるもの」
「でも……」
フィアナが泣きそうになりながらそう言うのを私は慌てて否定する。彼女がいなければ課題もわかっていなかっただろうし、その功績は大きい。
「お嬢様方ー! 夕食の準備が整いましたよー!」
どう言えばいいだろうかと思っていたら、ちょうどシグネが私達を呼びに来た。私はナイスタイミング! と思いながらフィアナに声を掛ける。
「今日はありがとうフィアナ。まだ数日あるし練習すればきっと大丈夫よ。さ、ご飯に……」
行きましょう。そう言おうとしたけど止まる。フィアナが俯いたまま動かななくなっていたからだ。
「フィアナ?」
どうしたのだろうと思わず心配になって声を掛ける。すると彼女はバッと顔を上げて、私を見据えた。
その瞳には決意の色が濃く出ている。
「お姉様、食事の後に部屋に行ってもいいですか?」
「え? う、うん、全然いいけど。というか大体いつも来てない……?」
そんな私のツッコミをスルーして、彼女は目を輝かせながら言った。
「私に良い考えがあります!」
何だか凄く嫌な予感を初めてフィアナから感じた私だった。
ブックマークや評価、感想、誤字報告などありがとうございます!誤字脱字が多くてすみませんorz
今後の更新に関してなのですが、個人的にやりたいことと、仕事の方が多忙となっており時間が作れないため三日おきの更新に変更したいと思います。
私事で申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。
次回の投稿は6/2の23時頃を予定しております。どうぞよろしくお願い致します!
 




