50.シスコン悪役令嬢、レベルアップする
「セリーネさん!」
「んげっ」
「げ、とはなんですの!」
試験まで一週間を切った。
何故かここ最近は放課後になると大体この令嬢&その取り巻きがエンカウントするんだけど、何か目を付けられている気がする。ライバルだからか?
そのフロール令嬢は桃色の髪を靡かせながら捲し立ててくる。
「遂に試験まであと一週間! 絶対に負けませんわよ!」
「あー、うん。頑張ってね」
「何で他人事ですの!?」
何というか凄い元気な子だ。ゲームでの知識が通用しない相手なので警戒していたのだが、しばらく接していたら何となく対応がわかってきた。あれだ、悪い奴じゃないけどまともに相手すると疲れるタイプ。
「ふ、ふん。まあいいですわ。今回は魔法の試験だって負けませんから!」
「魔法の試験、かぁ……」
それを聞いて少し憂鬱になった。そう、試験一週間前の今日、つい先程魔法の試験内容が発表されたのである。
「既に私は『創作魔法』の目処もつけておりますのよ!」
そう、今回の高等部三年の魔法試験は彼女の言う『創作魔法』であった。
内容はその名の通り個人で自由に魔法を考えてそれを披露するものだ。例えば私が以前、バリスに使ったアイスシュートだとか氷の壁とかは、氷の魔法として既に認知されているので使ってはならず、私が考えた私だけの魔法を見せないといけないわけだ。
「……難しいなぁ」
そう、これもまた高い壁だった。
フィアナの様に覚醒しているわけでもないから、それこそ短い期間で実際に考えて練習までしないといけない。
以前に一回魔法を使い過ぎてぶっ倒れた経歴もあるので、それを再現したら試験どころじゃない。
「そういえば、貴女はバリス様と決闘した時に倒れましたわね」
「ん、まぁ、そうね……」
ちょうど心を読まれたようにフロールに指摘される。どうやら彼女もあの場にいたらしいが、それをバカにするつもりだろうか。
しかし、違った。
「それで、もう体調は大丈夫ですの???」
「……ふぇ?」
彼女はバカにするというよりは逆に心配そうに私を見ていた。そして私が意外そうにしているのを見て色々と察したのか、途端に語気を強める。
「べ、別に心配しているわけではありませんよ!? ただ、体調が悪いと試験で勝っても意味がありませんから!!」
(……たぶんいい子なんだよなぁ)
大体何度か話していると、その人となりがわかってくるが、彼女は根っから悪い奴じゃないということは確証を得た。
取り巻きも引き連れているが、基本的に静かにしているし、その彼女らもどこかフロール自身を慕っている感じで、決して彼女の持つ権力になついている感じではない。
ゲームでのセリーネの取り巻きはその逆という感じだったから、きっとそれは彼女の人柄なのだろう。
あ、ちなみに私の取り巻きは今はいなくなっている。色々と無茶してたらいつのまにかいなくなっていただけという話なのだが。(そっちの方が個人的にはありがたい)
「心配してくれてありがとう。でも体調はもう大丈夫だから気にしないで」
「だ、だから心配などっ! ま、まあ、それならいいですわ! 勝利を掴むのは私ですから精々首を洗って待ってなさい!!」
そんな捨て台詞を残して、彼女は踵を返した。それと同時に取り巻きもついていく。
「さ、帰って勉強しますわよ!」
「フロール様、今日は何をするんですか?」
「何をって……確か貴女は歴史が苦手だと言っていたじゃない! 今日はその対策を皆でするわよ!!」
「え、で、でも……私なんかの為に……」
「何言ってますの! 皆で良い成績を収めてこそでしょう! さ、行きますわよ!」
「ふ、フロール様……!!」
やっぱりいい奴かよ……と思いながら私は彼女らを見送った。
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さて、そんな実は良い人っぽいフロールの事はさておいて、自分の事に集中しなくてはいけない。
「うんうん、大体わかってきたようですねー」
「正直、自分でも驚いてる……」
時間はあっという間に過ぎて夜。いつも通りフィアナと楽しい時間を過ごしたあと、私は寝るまでの時間をアイカ先生と勉強に費やしていた。
そして、その勉強の効果が凄い。いや、アイカの教え方が上手いのだ。
「この前までわからなかったのがここまで出来るようになるなんて……」
「まあお嬢様は元々頭が良かったですし、多少の遅れならこんなものですよー」
筆記試験対策用の問題集を解いた私はその殆どが正解だったことに自分でビビっている。というかアイカから教えて貰っていると不思議と脳が勝手に理解していくようなそんな感覚になるのだ。
(もしかして記憶が戻ってきてるのかしら……)
アクシアとの出会いがきっかけで過去のことも思い出せたし、もしかしたらこの勉強もきっかけになっているのだろうか。それとも単純にセリーネの頭脳を借りているか。
(どっちにしろこれならいけるかもしれない……!)
不安の元凶であるのは魔法学だけだ。これが出来るならかなり余裕を持つことも出来る。それこそ魔法試験の方にも力をいれないといけないのだから。
「じゃあ今日はここまでにしましょー。明日はまた応用からやっていきましょうねー」
「うん! ありがとうアイカ! それと……ごめんね夜遅くまで残ってもらっちゃって」
「いえいえ、お気になさらずー。私も楽しくてやってますのでー」
そう、実はアイカにはお願いして仕事終わりに残ってもらっているのだ。長い時間ではないとはいえ、彼女の時間を奪っていることには確かで私は申し訳なさで一杯である。
「何か私に出来ることはない? なんでも……は無理だけど」
「まあまあ、お嬢様が試験で良い成績を取ることが一番のお返しですので。今は勉強を頑張りましょー」
「アイカぁ……」
出来たメイドを持って私は幸せだ。いつか絶対に何か恩返しするからと誓って、その日は別れた。
(試験まで時間はない……頑張らなきゃ)
試験まで残り一週間……
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