5.シスコン悪役令嬢、お付きのメイドと接触する
キリがいいところまで毎日投稿で駆け抜けたいと思います。
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※4/11
アイカの台詞周りを改稿
ふと目が覚めたら部屋の中は明るかった。照明的な明かりではなく太陽の光が差し込んでいるらしく、もう朝なのか下手したら既に昼かもしれない。
「んん、あれ……? 私、寝て……?」
どうやら昨日はフィアナと話し疲れ(泣き疲れ)たのか、眠ってしまったらしい。
ぼんやりとした思考の中で目を覚ました私はゆっくりと起き上がる。目に映る光景は一人用とは思えないほど広い豪華な部屋で、住み慣れた自分の狭い部屋ではなかった。
「やっぱり夢落ちーなんて簡単な話じゃないよね……」
窓に薄く映った自分の姿を見てため息をつく。そこにいたのはやっぱりセリーネだった。
「う、うーん……っ」
ゆっくりと伸びをしてみる。体の方はだいぶ調子が戻ってきたのか、少しだけ力が入らない感じもあるが動く分には問題なさそうだ。
「誰もいないのかしら……」
ベッドから起き上がった私は部屋の中を軽くうろついてみる。あるのは化粧台だとか大きな机、あとは大きな本棚と豪華なクローゼット。
それぞれが非常に高価そうな装飾をされているので、きっと良い物に違いない。クローゼットの中を確認してみたが、少し装飾のうるさいドレスなどが多くちょっとウヘーとなった。
「それにしてもやっぱりどう見てもセリーネだなぁ……」
私は化粧台に備え付けられている鏡で自分の姿を再確認していた。
その鏡の中には『朝倉美幸』の姿はなく、代わりに金髪の悪役令嬢が映っていた。私の主観だがセリーネは、美人という顔つきに少しだけ鋭い目つきで、腰ほどまで伸びた金髪は長く寝ていたせいか少しだけ荒れていたが、それでも美しさを感じるほど綺麗だ。
化粧台に櫛が置いてあったので少し整えたくもなったが、時間も掛かりそうだしまだ確認したいことがあったのでとりあえずそれは後回しにすることにした。
「バルコニーのある部屋って凄いね……流石お嬢様」
確認したかったのは大きな窓だ。そこを開けてバルコニーに出ると日は既に高く昇っており、その光に若干の眩しさを感じながら、私は思わず感嘆とした感想を漏らした。
「おおー、壮観だ……」
眼下に広がる光景は、それはそれは広く大きな街だった。それも本当にファンタジーの世界だとか外国の旅番組で見るような石造りの街みたいなのがずっと広がっている。
「あっちが街で、あの高いのはたぶん学校かなぁ。名物の鐘っぽいのがあるし。それであの大きなのは城、かなぁ?」
まさか映画でしか見れないような光景を直に見ることが出来るなんて、そう感動しながらしばらくボーっと心奪われるように街を眺めていた。
「機会があれば散策してみたいけど……あっ、フィアナと行けばいいんじゃない!? デートみたいな!」
ゲーム内でも好感度の高い相手との街中デートっていうイベントもあったし、だったらその相手が私でも何の問題もないはずだ! 天才か!
後でお父様に許可を貰ってみようと、そう心に決めたその瞬間に後ろから突然声が掛かった。
「あ、あの、セリーネお嬢様ー?」
「ぴゃあああっ!?」
完全に無警戒だった私は突然の聞き慣れない声に驚き飛び上がった。危うくバルコニーから転落しそうになるほどだったが、それを何とか堪えて慌てて振り返る。
「だ、誰!?」
「す、すみません驚かしてしまってー。そんなつもりは微塵もなかったのですが……」
そこにいたのは一人のメイドだった。肩ほどまでの赤い髪をウェーブにしていてどこかおっとりとした抜けた雰囲気を感じる女性だ。当然、ゲーム内では見たことがない人物である。
というか物凄くスタイルがいいな。別にメイド服が小さいわけでもないのにバッチリ出ているところは出ているそのスタイルに思わず嫉妬してしまいそうなほどだ。別に私のスタイルが悪いわけではないが……
え? 朝倉美幸はどうだったのかって? ま、まぁいいじゃない、今はそんなことより突然現れたメイドのことを確かめないといけないんだから!
「えっと……貴女は?」
私がそう尋ねると彼女はびっくりしたように目を見開いた。
「ええー……お嬢様、アイカをお忘れになったのですか? 確かにお嬢様が大変な時にお休みを頂いてしまいましたが……それでも忘れるなんて……ぐすん。あ、もしかしてクビの暗喩だったりしますー?」
「あっ、ああ、いえ、その冗談よ、冗談! 忘れてなんてないわよ」
誰が見ても嘘泣きだとわかる演技をする彼女に私は慌てて取り繕う。しまった、彼女が私お付きのメイドであるアイカだったのか。シグネから特徴ぐらい聞いておけばよかった。
やはりセリーネの交流関係がある程度わかるまでは大人しくしていたほうがよかったかもしれない。今となってはとっくに過ぎたことなのだが。
とりあえず情報収集の為、当たり障りないように探りを入れることにする。
「で、でも貴女の方は大丈夫だったの? えっと急用だったかしら?」
「あ、母の方は大丈夫でしたー。ただの風邪だったみたいで……ただ、父が今家にいないので下の子達の面倒が見れるのが私しかいなかったんですー」
ふむふむ、つまりこのアイカというメイドは母が病気で休みを貰ったということか、ついでに恐らく弟か妹がいると推測される。我ながら言葉を選んでうまく情報を引き出せたことに感心する。というか妹いるとしたら羨ましい。
「そうだったの……まあ、何もなかったのならよかったわ。家族が病気になると大変ですものね」
「……は、はぁ」
私の返答に何故かアイカは困ったような返事をする。大体わかってきたが、たぶん普通のセリーネだったら恐らく酷く高慢ちきなことを言って困らせていたに違いない。つくづく反応からしてひどいな!
「そ、それでどうしたのかしら」
とにかく微妙な空気を流そうと彼女が来た理由を尋ねることにする。アイカもハッと思い出したようにポンと手を叩いた。ちょっと抜けた子のなのかな。
「そうでしたー。そろそろ正午なので具合はどうかと確認に来たんです。朝はまだ寝ていらっしゃったのでー」
「あ、あぁ、そうだったの」
太陽の昇り具合から見てそうじゃないかと思っていたが、やっぱり既にお昼時だったらしい。幸いにも体は昨日よりはずっといいのでそれを表すように大きく伸びをした。
「もうこの通り大丈夫よ。まだ少し力が入りにくいけど」
「そうでしたかー、それはよかったです。それなら昼食はどうしましょう? よろしければすぐにでも持ってきますけど」
そう言われて途端に空腹をお腹が訴えてきた。思えば昨日の夜はスープと果物、あとはフィアナからの尊い差し入れホットミルクしか飲んでない。そもそも三日寝込んでいたから色々と栄養も不足しているだろう。
「じゃあ、お願いしてもいいかしら」
「はーい。それではすぐにお持ちしますー」
アイカはそう言って頭を下げるとゆったりと戻っていった。偉いマイペースな娘だなぁ、と思っていたら小さな情けない悲鳴と転んだような音が聞こえた。ドジっ娘属性も持っているのか……?
「あの人が私お付きのメイドなのね……」
シグネからその存在は知らされていたがちょっとイメージと違っていた。まあ物静かな完璧メイドより少し抜けているぐらいが精神的にもちょうどいいかもしれないと、バルコニーから部屋に戻りながらそんなことをぼんやりと考えていた。
「アイカから色々聞けそうだし、そうね今日は情報集めに徹しよう、そうしよう……」
まさかこんなことになるなんて予想できるわけもないが、もう少しゲームをやりこんでおくべきだったかもしれない。フィアナ視点での情報はそこそこあるのだが、セリーネとしての情報は0に近いのは非常によろしくない。
「セリーネお嬢様、昼食をお持ちしましたー」
「はーい、どうぞー」
「…………」
「ん? 開いてるわよー」
扉の向こうから聞こえてきたアイカの声に答えたが入ってくる気配がない。どうしたのだろうとしばらく様子を見ていると情けない声が聞こえてきた。
「お嬢様ー、両手が塞がってて扉が開けないですー……」
「い、今開けるから待って!」
うーん、これは本当にドジっ娘っぽいぞ。
ちゃんとアイカから情報収集が出来るのか少し不安に感じながら、私は慌てて部屋の扉を開けるのであった。
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