47.シスコン悪役令嬢、ライバル(?)が現れる
新キャラ登場です。今回のお話の重要人物になる……かもしれません
とりあえず私に許された時間は二週間。魔法実技試験は一週間前に内容がわかるから保留にするとして、パーティーに関してもテストが終わってからだということを考慮すれば……まずは筆記の対策が先だ。
「といってもねぇ……」
例えば歴史。これに関して言えば暗記でだいぶ補える。幸いにして一時的に頭の中に必要な単語を詰めることは得意なので(勿論必要がなくなったら一瞬で消え去る)そこは無理矢理勉強すれば良い。
「でも魔法学はなぁ……」
しかし魔法学とかいう教科はそれが通用しない。この教科は基礎的な知識が前提の、例えるとするなら数学みたいなものだろうか。公式を知らないと問題が解けないあの感じに近い。
(……憂鬱だわ)
フィアナ達と優雅(?)な昼休みを終えて私は今、教室に戻る途中だ。午後からの授業はちょうど魔法学があるおかげであんまり良い気分ではない。
(一番いいのは誰かに教えてもらうことだけど……それも難しい)
誰か同学年に仲の良い友人がいれば教えてもらったりできたかもしれないが、何せセリーネだ。そのプライドの高さから同学年に対等な友人がいるとは思えない。
(誰か、誰かいないかしら……私と関わりがあって教えてくれそうな人)
そんな風にウンウンと考え込みながら廊下を歩いていたその時だった。
「あれ、セリーネ様?」
「ん……? ってミリじゃない」
「こんにちは。もう昼休み終わりますよ?」
私の前に現れたのは以前、メイド体験の時にお世話になったミリだ。クラスが違うのであれから巡り合わせが悪かったのか会えていなかった。
「今更だけどあの時はありがとう。良い経験だったわ」
「いえそんな! 途中で抜けちゃいましたしお礼なんてとんでもないです! それよりもどうですか? あれから少し経ちましたけどメイド候補見つかりそうです?」
「…………」
「あれ?」
ミリの言葉に私は固まった。完全に忘れていたわけではないのだが、色々とやることが多過ぎて全然取り掛かれていないのだ。
「い、いやー、探してはいるんだけどねー? 中々私のお眼鏡に叶う相手がねー」
「…………」
ミリは微妙な表情になる。間違いなく「うわ絶対嘘ついてるよ」と言いたいのだが、お互いの立場上言えないだけだろう。
何だか申し訳なくなり、潔く頭を下げた。
「ごめん、実はまだ全然……」
「あ、いやっ、すいません。責めるつもりじゃなくて……! え、えーと、大丈夫ですよ! ゆっくりと探してもらえれば!」
そういえば私ってフィアナも含め色んな人に気を使わせているなぁと思う。別に完璧な令嬢を目指したいわけじゃないが公爵家の者として私の振る舞いはどうなんだろう。だらしなくないだろうか。
「情けない……勉強も魔法も姉力もないなんて……」
「大丈夫ですか……?」
とここで、目の前にいるミリが同じ学年であることに気づく。もしかして実はかなりの秀才だったりしないだろうか。
「あのさ、そういえばそろそろ試験だけどミリは大丈夫?」
「え? 試験ですか? まあ自信はないですけど、やれるだけやるって感じですねぇ」
そう聞いたら無難な回答が返ってきた。まあ流石に「自信はあります!」なんて素直に言う人は少ないだろう。
「ちなみに誰かに教えるぐらいのレベルだったりは……しない?」
「しませんしません! どちらかというと教えられる側ですよ!」
「そ、そうなんだぁ。あはは、私も頑張らないとなぁー」
そして残念ながら当ては外れた。私は内心焦っているのがバレないように笑って合わせる。しかし──
「何言ってるんですか。セリーネ様はいつも最高評価を貰っているじゃないですか」
「はうっ!」
またいらない事実を聞いてしまった。いや、セリーネの成績が良い設定なのは知ってるけどさ!
「じゃあ、そろそろ授業が始まるので失礼しますね。メイドさん候補とか決まったらぜひ教えてくださいね!」
「あ、あぁ、はい……」
そして結局何も進まないまま、時間だけが過ぎていく……
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そんなわけで現在、私は謎の美人さんに絡まれている。学園の屋上で。
「遂にこの時が来ましたわね! 今回こそは私が勝ちますわよ!」
誰この人? 特徴的なのはハーフアップにした淡い桃色の長髪と、私と同じくらいの身長に、そして自信満々で勝気そうな瞳だ。
大体ピンクの髪のキャラクターっておっとり系のイメージだけど、目の前の彼女は随分と強気な印象を抱く。ゲームでのとんがったセリーネのような感じだ。
当然だけど、ゲームには出演していない。わかっているのは、彼女に屋上に呼び出され宣戦布告されていることだけだ。
「いつもいつもいつも貴女に負かされ続けてきたけど今回は絶対に私が勝つわよ! そう、このカロレア公爵家のフロールがね!」
「は、はぁ……」
そういって彼女は長髪をぶわりと靡かせた。とにもかくにもこのフロールという令嬢。私と同じく公爵令嬢の身分らしく、話しぶりからすると恐らく私と競っている間柄のようだ。
「悪いけど今回は本気よ! 全ての分野で貴女を越して見せるわ!」
「う、うーん……」
たぶん今のままだとあっさり越せますよ。何て頭の中で思ってみる。実際のところそれは事実であるのだが、彼女にはどうやら私の反応が間違って伝わってしまったらしい。
「な、なんですのその反応……! どうせ勝つなんて余裕だと思っているんでしょう!? 今回ばかりは絶対に負けませんからね! 覚えてなさい!」
そしてひとしきり喚くと彼女は踵を返して颯爽と屋上から出て行った。何なんだ一体……こっちは平均が取れるかどうか怪しいぐらいなのに……
「というか何で屋上に呼び出すのよ……喧嘩でもするのかと思ったわ……」
何だか今回も色々と大変なことが起こりそうだと、私は誰もいない放課後の屋上で盛大にため息をついた。
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