44.シスコン悪役令嬢、料理をする……?
風邪の時には温かくて栄養のある料理に限る。そこに愛を込めてしまえば一発で治るに違いない。
そう、そこで今回私が作るのは風邪で寝込んだときによく作ってもらった『卵粥』だ!
「というわけで厨房を借りたいんだけど!」
「いや、まぁ、それはいいのですが……」
休日の朝。家にある厨房に私の姿は会った。対応をしてくれたのは中年の女性だったが彼女が料理長みたいな人なのだろうか。
とりあえず昼まではまだ結構時間はあるし、邪魔にはならないはずという算段で来たが、厨房にはそれなりに人がいた。彼らは突然現れた私達に少しだけ騒然としていたが、そりゃ日頃顔を出さないようなお嬢様が来たらそうなるのも頷ける。
私がここに来た理由を聞いて中年の女性は少しだけ困ったように言う。
「一応刃物もあるのでそういうことでしたら、私どもにお任せいただければとは思うのですが……」
「だ、大丈夫よ! もう子供じゃないし、それにアイカも付くから!」
「は、はぁ」
やはり立場上どうしても快くは引き受けてくれないようだ。しかし、そこでアイカが間に入ってくれる。
「まあまあ、怪我とか火元には十分注意しますのでー。そんな大層な料理をするつもりもないんで少しだけ貸してもらえませんか?」
「……わかりました。私どももいますので何かあれば呼んでください」
どちらにせよ私の意志は固いと踏んだのか、その女性は漸く許可をくれた。私事で場所を作ってもらって何だか申し訳ないが妹の為だ、許してください。
「ありがとう! 助かるわ!」
とにもかくにもこれで準備は整った。
「ところで、お嬢様って料理出来るんですかー?」
「ふふふ、甘く見ないでよ。これでも腕には自信ありよ!」
「そうだったんですかー。そんな話初めて聞きましたけどー……」
「まぁまぁ見てなさいって」
ふふん、と腕まくりをする。別に料理が大得意というわけではないが、風邪の時に食べるようなお粥とかそういうのぐらいなら作れるだろうという算段だ。
それも当然、セリーネではなく美幸としての記憶を頼っての事だった。
そして、それが悪い方向になるなんてよく考えればわかりそうなことだったのに……
「うええぇぇ、難しいいいいよおおぉぉ……」
「やっぱりダメじゃないですかぁ……」
料理開始から少し経つ頃、私はえぐえぐと泣いていた。上手く調理が出来ないからである。
「そうだよね……IHコンロとかそういうの何もないんだよね……」
「あいえいち? 何ですかそれ?」
「んん、こっちの話……」
この世界、見た目は洋風の造りになっているが料理に関しては大体日本と同じだ。
米だってあるし、各種の調味料もある。勿論この世界特有の食材もあるのだが、とにかくお粥を作るには材料の面で心配する必要はなかった。
しかし、調理環境の考慮をしていなかったのである。
「まさか火から何まで手動とは……」
確かに文明の利器であるコンロや冷蔵庫、レンジやトースターがここにあっては違和感があるが、まさか全て自分でやる必要があるとは思っていなかったのだ。
「火を作るのはいいにしても火加減も難しいし……」
お粥で大事なこと、というか料理全体にいえることだがそれは火加減だ。
特にお粥はお米を用意して火にかけてから弱火にしないといけないのだが、調節ってどうするんだろう。
「まあまあ、それじゃ一緒にやりましょうー」
「うう、で、出来ないわけじゃないんだからね……!」
「わかってますよー」
ああ、明らかに子供を相手にしている口調だ。たぶん下の子をあやすときこんな感じなんだろう。
「って、私子供じゃないからね!?」
「はいはーい」
ぐぬぬぬぬ、しかし慣れていると思われるアイカに手伝ってもらうしかないので反抗するのはやめておいた。
「それじゃお昼の時間に合わせて出来上がるようにしましょー。で、何を作るんですか?」
「卵粥にしようと思うんだけど……」
「卵粥、ですか? ああ、お粥に卵を落とすんですねぇ。それじゃあ火は私が扱いますから、お嬢様はお米の準備をお願いしますー」
「う、うん。わかった」
とりあえず役割分担だ。そのうち火の使い方とかそこら辺の事も学ぶ必要があるかもしれない。
我が家はまだ裕福な方で、厨房も広いし設備だって他のところと比べればきっと充実はしている方だろうが、それでも不便を感じるのは現代日本人だからだろうか。
(普通の家庭だったら生活できなかったかもしれない……)
そんなことを考えながら米を洗う。そういえばここって卵は生で食べれるんだろうか。卵ご飯とか結構手軽に作れて好きなんだけど。
「んー、たぶん大丈夫だとは思いますけどー。卵を生で食べる人は私は見たことがないですねー」
「そっかぁ……」
米とかはあるけどそこら辺の卵事情はちょっと怪しい。学園でも生卵関連は食堂のメニューになかったし、無理に食べない方がいいだろう。
卵粥は一応加熱するしたぶん大丈夫だよね……
「よし、これぐらいかな」
「じゃあ、こちらにそれをくださいー。作るのはこれだけですか?」
「風邪の時って他に何か作ったりするの?」
「そうですね。お嬢様の時もでしたけど温かくて消化に良いスープとかは作りますねぇ」
「ああ、あれかー」
熱が治まってから初めて口にした食事がそれだった。確かに食べやすかったし、あれが汁物としてあってもいいかもしれない。
「それってすぐに作れるの?」
「はいー。そんなに時間は掛かりませんし、準備さえすればすぐにできると思いますよー」
「じゃあ、それも作りましょう! 栄養は大事だし」
「わかりましたー」
それからしばらくは厨房で悪戦苦闘しつつ何とか料理をする。それまでは知らなかったけどアイカは料理も得意だった。というか手際がいい。毎朝私の髪をしっかり整えてくれるし、何かと器用なんだろうか。
「まぁ、色々とお世話したりしてますからねー。それにこれぐらい出来ないとメイドとして雇ってもらえませんからー」
「そんなことはないと思うけど……」
聞いてみたらやはり何でも出来るような物言いだ。ただ、何だか最後の方には含みを感じたのだが気のせいだろうか……
その時、ちょうど厨房にシグネがやってきた。
「すみません。フィアナ様の昼食なのですが……って、何してるんですか?」
彼女は厨房に私達がいることを驚いているようだった。そういえば何も言ってなかったことを思い出して説明をする。
「そうだったんですか。というかセリーネお嬢様は料理できたんですね……でも、それならちょうどよかったです。昼食は食べやすい物をとお願いしにきたので」
「フィアナは大丈夫なの?」
「ええ、結構汗を掻いたりしましたが、そのおかげで熱もだいぶ下がって今は静かに寝ています。たぶん明日には大丈夫でしょう」
「そう……それなら良かったわ」
「じゃあ、フィアナ様が目覚められたらまた来ます。それでは」
シグネはそう言って厨房の人達と軽く会話をしてから去っていった。
「じゃあ、こっちもいつでも持っていけるように準備しときましょうかー」
起きるのはいつわからなかったが、幸いにして料理が出来上がってからすぐシグネが報告に来てくれた。
「フィアナ、今行くわよ!」
「そんな意気込まなくてもいいと思いますけど……」
「苦労して作りましたからねぇ」
「それは言わなくてもいいよ! 環境に戸惑っただけだし!」
とにかく今はフィアナに会いたい。その思いで作った料理が載った盆を私は持ちながら彼女の部屋に向かうのであった。
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次回の投稿は明日の23時頃を予定しております(遅れるかもしれませんが……)
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