43.シスコン悪役令嬢、風邪を引く
中々時間が取れなくていつも投稿時間が遅れて申し訳ありません。
風邪を引いた。
「っくしゅん……! うぅ……」
私ではなくフィアナが。
「ごめんねフィアナ、私があんなところで寝たばっかりに……うええぇぇぇ」
つい昨日のことだった。ソファーで横になって眠ってしまった私とフィアナだったが、よっぽど疲れていたのかそのまま起きることはなかった。
しかし、その翌朝。私はフィアナのくしゃみで目を覚まして事の重大さを知ることになる。
「少し熱があるみたいですね。具合の方はどうですか?」
横になっているフィアナの横でシグネが尋ねる。フィアナは少しだるそうにしながら答える。
「少しだけボーっとします……でも、そんなに辛いわけでは……」
「フィアナぁ、ごめんねぇ……私が、私がぁ……!」
何でよりによって私じゃなくてフィアナが風邪を引いてしまったのだろう。同じ条件だったのに神様は理不尽だ。
「お姉様のせいじゃ、ないですよ。私が先に寝ちゃったのが悪いですし……けほ、けほっ」
「とりあえず重い風邪ではなさそうなので、今日は安静にして様子を見ましょう。とりあえず水と薬を用意してきます。それまですみませんが様子を見ていてください」
シグネはそう言って部屋から出ていった。そうなるとフィアナの私室で二人きりとなる。
「何て謝ればいいか……」
「大丈夫ですよ……そこまで辛いわけじゃないので、すぐ治ると思います」
「でも……」
あの時眠気に負けずせめてベッドまで運ぶべきだった。後悔してもしきれない。
幸いなことに今日は休日なので学園を休む必要がなかったのは良かった。私もこうしてそばにいれるし。(仮に休日じゃなくても学園を休んで看病はしたとは思うが)
「ちょっとおでこ触ってもいい?」
軽い熱とシグネは言ったが心配だ。一度断りを入れてフィアナが小さく頷くのを見てから彼女の額に手を添える。
「んっ……」
ほんの少しだけ汗ばんでいる額に置いた手に、じんわりと熱を感じる。確かに熱があるようだ。
「すぐにシグネが来るからね」
「は、はい」
そして額に置いていた手を戻すと、フィアナは「あっ」と声を上げた。
「え?」
気のせいでなければ何だか名残惜しさの混じった声だった気がする。これはもしかして……
「……んんっ」
導かれるようにもう一度ゆっくりと額に手を置くとフィアナは少しだけ心地良さそうにしていた。
「お姉様の手、ひんやりしていて心地いいです……」
「そ、そう? 気持ちいいならいいんだけど……」
熱でボーッとしているのか、フィアナは目を閉じて私の手の感触を受け入れている。そんな彼女はそのまま小さく口を開く。
「そのお姉様、一つだけお願いがあるんですけど……」
「お願い!? 何でも言っていいよ! 何でもするから!」
「そ、そこまでですか……? その、嫌じゃなければ頭を撫でてもらえませんか……」
控えめなそのお願いを断る理由はない。それどころか喜んでやらせて頂くぐらいだ。
「じゃ、じゃあ失礼して……」
額に置いていた手をそのまま頭に移動させて、ゆったりと愛でるように撫でる。フィアナは目を閉じたままうっとりとしているようだった。
たぶん風邪のせいで少し甘えん坊になっているのかもしれない。それかこれが彼女の素の部分なのかもしれない。
今までもそしてゲームでも彼女は一貫して13歳とは思えないほど大人びている。それはきっと甘えのきかない環境がそうさせたのかもしれない。
それなら、せめて私の前だけでは年相応になって欲しい。
「んん、きもちぃです……」
なでなでとゆっくりと落ち着かせるように撫でる。フィアナにも気に入って貰えたようだ。
「こうしていると昔のことを思い出します……」
そのまま優しく撫でていたらフィアナが呟く。
「昔?」
「はい。私が夜眠れない時とか、今日みたいに病気になったとき、お母さんがよく撫でてくれたんです」
「そうだったんだ……良いお母さんなんだね」
「はい……いつも穏やかで笑っていて優しいお母さんでした……」
少しずつ語尾に力がなくなっていく。気づいたらフィアナはウトウトと寝そうになっていた。
「……お母さん、会いたいなぁ……」
その叶わぬ願いにどう反応していいか、どうしたらいいかわからなかった。幸いなことにフィアナは頭を撫でられているうちに寝息を立てていた。
「お母さん、か」
フィアナにとってはエトセリア家は第二の家族ではあるのだが、やはり本当の両親の代わりなんているわけがないのだろう。彼女の閉じた瞳から零れる一筋の涙を私は指で掬った。
「私にも一応両親いるんだよね……」
私は確かにセリーネ・エトセリアだ。父も母も血は繋がっているし本当の両親の筈だ。しかし、私の中にはもう一組日本に住んでいる両親の記憶もある。
「結局、私の事は何もわかってないままか……」
すぅすぅ、と寝ているフィアナを起こさないようにゆっくりと撫で続けながらそんなことを考えていた。
「お待たせしまし……あら」
シグネはすぐに戻ってきたが、その頃にはフィアナはぐっすりだった。
「寝てしまわれたんですね……」
「うん」
起こさないように小声で会話をする。
「それなら後は私が看ていますのでお嬢様は部屋にお戻りください。一応移らないという保証もないので」
「え、でも……」
「また起きたらお知らせしますので、それまでは部屋の方でお待ちください」
出来ればつきっきりで看病したかったが、シグネに断られてしまった。確かに過去に私も熱を出して寝込んでいたこともあるので、そのことも考えての事だろう。
「わかった……じゃあ部屋にいるね」
「はい。お嬢様も疲れは溜まっていると思うので今日はゆっくりお過ごしください」
「うん、ありがとう」
そして私はフィアナの部屋を後にして、自室に戻った。すると部屋の中に見知った人物がいた。
「あら、お嬢様。おはようございますー」
「アイカ? おはよう、今来たの?」
「はいー、お姿が見えなかったので掃除をしていたのですが、どちらに行かれていたのですかー?」
そう、お付きメイドのアイカだ。彼女はどうやら私のいない間に部屋の掃除をしていたらしい。
私はアイカにもフィアナの事や経緯を説明する。
「そうだったんですか……でもお嬢様まで気に病む必要はないですよー。それこそ風邪なんて誰でも引くものですし」
「そうかもしれないけど……私にも責任はあると思うとね」
「なるほど……それじゃあ、何か用意してあげるのはどうですか?」
「用意?」
アイカの提案に私は首を傾げる。
「そうですよー。風邪の時は理由もなく寂しくなったりしますから、何か……そうですねぇ、食べやすいご飯とかそういうのを作ってあげたりすると凄く嬉しくなるんじゃないですかね」
「な、なるほど……」
「私も下の子が熱を出したりすると特製のお粥とか用意してあげると凄く喜んでくれるんですよー」
確かにそれは良い案かもしれない。フィアナは今寝ているから起きるのは昼頃になるだろう。それまでに時間はあるし、何か食べやすい物を用意出来れば喜んでくれるかもしれない。
「アイカ、ありがとう! 良い事を聞いたわ!」
「お役に立てたようで何よりですー。本当は部屋の掃除をしたいんでしばらく空けて欲しかっただけなんですけどねー」
「……それは言わなくてもいいよね?」
えへへーと悪気もなく笑うお付きメイドに私も軽く笑い返した。とりあえず掃除の邪魔らしいことはわかったので、私は食堂に向かうことに決めた。
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