36.シスコン悪役令嬢、城のメイド事情を知る
バリスは頭に立派なたんこぶを二つ作っていた。流石にそこまでくると哀れみが勝り流石に笑えなかった。
「一体俺が何をしたって言うんだよ……」
「まあまあ、他人にメイドになれって強要したわけだしね?」
「し・て・ね・ぇ!」
そんなわけで今、私とフィアナは彼に連れられてとある一室を目指していた。
「大体お前な、一応俺は第二王子で王族なんだぞ。だというのに言葉遣い含めだいぶ不敬じゃないか?」
「だって、貴方はそういうの嫌いでしょ」
「お、おう、よく知ってんな……まぁ確かにそれはどうでもいいことなんだけどよ。なんか癪に障るんだよなぁ」
ここら辺はゲームの知識が役に立っている。彼はそういった王族として特別扱いされることを心底嫌っているのだ。
「で、その目的地とやらにはいつ着くの?」
「たった今着いたよ」
前の前のバリスはたった先ほどもう一度父から大目玉を食らったが、その時に何かヒソヒソと話をしていた。そして結局国王はため息をついて言ったのだ。
『まぁ、やれるだけやってみろ。ただ、その件は任すが絶対に迷惑は掛けるなよ』
それがどういう意味を示しているのかはわからないが、とりあえず素直に案内されているわけである。
何も情報がないから気味悪いがバリスは何かそういう悪知恵を働かせるほど頭が強そうには見えないから大丈夫だろう。
「おい、何か失礼なことを考えなかったか?」
「……いいえ?」
しかし勘は鋭いらしい。要注意だ。
「ったく、とりあえずここだ」
彼は部屋の扉の前に立つとノックをして口を開く。
「イリサ、俺だ。今いいか?」
すると、中でゴソゴソと何かが動いたような音がすると同時に透き通るような声が返ってきた。
「お坊っちゃまですか? どうぞ、散らかってますが」
女性の声だったがそれよりもバリスの呼ばれ方にまたツボに入りそうになる。
「お坊っちゃまだって……フィアナ、聞いた?」
「だ、ダメですよ笑っちゃ……」
「ぐぐぐ……」
中からの返事に対してからかう様な反応を見せるとバリスは顔を赤くして怒憤った。が、何とかそれを飲み込んだのかグッと堪えて扉を開けた。
「邪魔するぞ」
「はぁ、それはいいのですが……おや、後ろの方々は?」
そこにいたのは一人のメイドさんだった。髪は銀髪の長髪を後ろで邪魔にならないように綺麗にまとめている。
「エトセリア公爵家のセリーネとフィアナだ」
「まぁまぁまぁ、お坊っちゃまも気づけばそういう年頃ですか。そんなお綺麗な方々をお連れして……」
「違う!! 前話したことを忘れたのか!?」
「前、前と言いますとえっと……すみません、最近は忙しかったものでどのことか……」
「だから、メイド不足の件だよ。全く……どうせちゃんと寝てないんだろ? こんなに書類の山を溜め込んでからに……」
「まぁ、私の仕事ですから」
イリサと呼ばれた女性はバリスとそんな話をしながら立ち上がるとこちらを向いた。
「先程は失礼な勘違いを……ご容赦くださいませ。王城にてメイド長を務めさせて頂いているイリサです。以後お見知りおきを」
そういって優雅なカーテシーを決める。見事すぎるほどのメイドさんだとは一目でわかった。だって完璧にメイド服に調和してるし話し方も所作も全てが一流メイドのそれだ。いや、評論ぶれるほどメイド通ではないんだけども。
「わぁ……」
私と同じようにフィアナもそんな彼女に尊敬の眼差しを送っていた……その気持ちはわかるが何か悔しい。
「それで、何でここに私達を?」
「前にも言っただろう。今城はメイド不足なんだ」
「それは聞いたけど。だったらたくさん雇えばいい話じゃないの? 募集すればたくさん集まるでしょ」
「それがそうにもいかないんだよ」
そこからバリスは説明をしてくれた。
「一応王城だからな、誰でも彼でも雇えるわけではない。それこそ腹に一物ある奴を雇ったら大変なことになるからな」
なるほど、確かに彼の言う通りだ。私の家は比較的信用がある人を雇っているようだけど、王城ではそう簡単な話ではないのだろう。
「だから基本的に身分がある身元が確かな奴じゃないとダメなんだよ」
「それって家名を持ってる人ってこと?」
「そうだ。それこそイリサだって元子爵家令嬢だ」
「元?」
私の疑問にはイリサさん本人が答えてくれた。
「今、もう家はありません。私の家は子爵家でしたが色々と不運が重なってしまいまして、それで稼ぎのためにこちらにメイドとして雇われていたんです」
「家がなくなったって、両親は……」
「いなくなりましたねぇ。まぁ昔の話です」
そんなあっさり言われると逆に反応出来なかった。両親がいない件に関してはフィアナも思うところがあるのか、少しだけ表情を曇らせていた。
何だか重くなった場の空気を崩すようにバリスが咳ばらいをした。
「ゴホン! とにかくな、この城で雇えるメイドには条件があるってのはわかっただろう?」
「ええ、それはわかったけど。私がメイドになる理由は?」
そう、確かに私も公爵家の令嬢で後ろめたいものは何もない至って普通の元女子高生だ。だけど一日だけメイドをしたところで何も解決にはならない。
「大体わかるだろう。一番メイド候補のいる場所が」
「もしかして学園のこと?」
「そうだよ。学園の生徒なら身元ははっきりしているし、しかも家によっては王城で働くというのは利益にもなる」
「だったら学園で募集すればいいじゃない」
私がそう言うと彼はため息をついた。
「してないわけじゃないが、来ないんだよ」
「なんで?」
「詳しくはわからんが、やはり王城でメイドするということが敷居が高いって認識があるんだと思う。実際はそんなことはないんだが……しかし、それを俺が説明してもしょうがないんだよ」
そういうものなのか。確かに実際のメイドさんじゃなくて王族である彼が言っても信じきれないのだろう。
ん? つまり?
「私が体験して、それを言いふらせってこと?」
「そうだよ。お前が出来るってなれば大体の奴も出来そうだって思うだろ?」
「ちょっと」
言い方が悪い。まるで私が家事を何もできない令嬢みたいじゃないか。といっても確かにゲーム内のセリーネは面倒くさい全てのことを他人任せにするから間違いではないのかもしれない。
「……まぁ、わかったわよ。試合に負けたのは事実だし、その策に乗ってあげるわ」
「そう言ってもらえれば助かる。イリサも今の話でいいか?」
「はい、問題ありません。一日程度なら大丈夫でしょうし、ですがいつですか?」
「学園のある日は無理だから、次の休みの日だな」
「次の休み、ね。わかったわ」
「その日にまた馬車を寄越すから準備だけはしておいてくれ」
それじゃ、と話が決まりそうになった、その時だった。
「あ、あの!」
「ん?」
その声はさっきから黙っていたフィアナだった。彼女は何かを考えていたようだが、意を決したように口を開いたのだ。
「どうしたのフィアナ?」
「わ、私も、出来ますか!? 一日メイド!」
「え?」
その一言はその場にいた全員を驚かせた。
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