35.シスコン悪役令嬢、国王に会う
お城に仕える使用人に連れられて私とフィアナはとある大きな扉の前にいた。
(これってどう考えても玉座への扉だよね……)
隣でいまだに私の服を掴んでいるフィアナもそれがわかっているのか顔を強張らせていた。
というか緊張し過ぎてたぶん服を掴んでるの気づいていないんだろうなぁ、年相応でそれがまた可愛らしい。
「しばらくお待ち下さい」
そんな風に心の中だけでにやついていたら使用人から待つように声がかかった。
いや、よく考えたらいきなりの状況にしてはおかしすぎる。普通城に招く時はまず何らかの手段で知らせるものじゃないか。こんな緊急で呼ばれることは普通ないはずだ。
「お待たせしました。どうぞお進みください」
しかし、そんな私の疑問が解決される前に扉が開いてしまった。フィアナの服を握る力が一層強くなったのを感じる。
「フィアナ、怖かったら後ろに隠れていいからね」
「うぅ、すいません……」
私はこの世界のことを知っているし、ゲームと同じという認識があるせいか過度に緊張はしていないのだがフィアナは違う。
彼女は元平民であり、本来であればこの城に招かれて入ることなんて考えもつかないはずだ。だからここまで緊張してるのも頷ける。
(まぁ、こういう時こそ頼れるお姉様を演じるチャンスってもんよね!)
心細いフィアナに優しく寄り添うお姉様……これにときめかないことはないだろう。お姉ちゃん点数を稼ぐチャンスである
「どうぞお進みください。ご主人様は既にお待ちしておりますので」
フィアナの様子が特に咎められることもなかったのでそのまま進むことにする。
といっても玉座だ。変に入り組んでいるわけもなくまっすぐ歩けばすぐにそのご主人様とご対面することになった。
しかし、そこで私にある試練が突然課せられた。
「エトセリア公爵家令嬢セリーネ様とフィアナ様でございます」
使用人が深々と頭を下げると、国王は片手を上げて応える。
「うむ、ご苦労であった。下がってよい」
その人物はゲームでは存在することをテキストだけで語られた現国王である。そしてその横にはつい先日、模擬試合をした相手がいたのだが……
「急にこちらから招いて申し訳なかった。セリーネ嬢にフィアナ嬢」
「いえ、その……と、とんでもありません。ですが、くっ……一つだけ聞きたいことが、あるのですが……ふぷっ」
そう、何が問題かって国王の横にいたバリスは頭に立派なたんこぶと明らかに叩かれた後だと言わんばかりに頬に手形を作っていたのだ。
「えっと、そちらの、ふふ、方は一体何が……」
厳粛な場だというのにその場違い感のギャップがやばい。正直笑いを堪えるせいで緊張も糞もなかった。
それだというのに第二王子はこちらを見て追撃と言わんばかりにしょんぼり口を開いた。
「笑いたきゃ笑えよ」
それがトドメになった。
「ぷっ、あは、あはははは! な、なにそれ! なんでそんな見事なたんこぶ……く、くくくっ!」
「お、お姉様!?」
完全にツボに入ってしまった私は今いる場所のことも忘れて大爆笑した。もう堪えるのが限界だった。
「くっ、そこまで笑わなくてもいいだろ!?」
「だ、だって、無理、ほんと勘弁して……ぷくくっ……」
「ぐぬぬ……」
笑い転げる私、戸惑うフィアナ、悔しそうなバリス。妙な空気となったところに厳かな声が響いた。
「セリーネ嬢、フィアナ嬢」
もちろん声の主は国王だ。流石にその重い声には笑い続けるわけにはいかず、私は何とか平静を取り戻しつつ、なおかつ視界にバリスを入れないようにする。見たらたぶん笑うから。
「今回お主達を呼んだのは他でもない、このバカ息子が大変な迷惑を掛けて本当に申し訳なかった」
「え?」
そう言って国王は私達に対して頭を下げた。
「え、ええ……!?」
フィアナは驚いているが私も当然驚いた。単純に国王だとかそういう身分の高い物は何となく傲慢なイメージがあったっていう話なのだが。
「えっと……?」
これどう反応したらいいんだろうと思っていたら、国王は隣にいたバリスにも口を開く。
「こら、お前も謝らんか。どれだけ迷惑を掛けたと思っとるんだ」
「ぐぬぬ……今回はその、申し訳なかった。元平民が学園にいるって聞いて気になっただけなんだ。だが、あの接し方は悪かった。本当にすまない」
バリスもフィアナに対して頭を下げた。こういうところを見ればまあ悪い奴ではないのかなと思う。ゲームではひたすら俺様系だったから余計にそう感じる。頭にこぶ作るシーンなんてなかったしね。
さて、そんなわけで彼が謝罪をしたのはフィアナに対してだ。
それを受けて彼女は私の後ろから横に出てくる。掴んでいた手が離れたのは少し寂しい。
「……あの時は少し怖かったですけど、セリーネお姉様もアクシア様もいてくれましたし、もう大丈夫ですので気にしないでください」
「そう言ってもらえれば助かる。今回の件は本当にすまなかった」
とりあえずこれでこの騒ぎは終幕だろう。フィアナへの謝罪もあったし、これで学園で怖がるようなこともなくなる。
そう満足げに思っていたら彼はこちらの方にも頭を下げてきた。
「セリーネ嬢にも迷惑を掛けてすまなかった。いくら試合形式とはいえ、危険な状況になったのはこちらの責任だ。申し訳ない」
「いや、あれはこちらから挑んだようなものだから、それこそ気にしないで。私はフィアナに謝ってもらえればそれでいいからさ」
「……すまない、恩にきる」
何はともあれこれで万事解決、一件落着である。国王もどこか安心したような面持ちだ。
「わざわざ学園のある日にすまなかったな。だが我が王族と公爵家であるお主達との間にわだかまりがあっては問題でな。それですぐにでも解消する必要があったのだ」
あー、だから朝一で馬車を寄越したわけか。でも、それなら別にあんな急がなくても、ちゃんと手順を踏めば良かったのにとそう思い、そのまま伝えたのだが、何でも貴族間の問題は色々と大変なケースになることが多いらしく、かなり警戒しているとのことだった。ややこしい話だ。
「あ、それよりも一つ聞きたいんですけど」
「ん? なんだ、何でも申してみよ」
とりあえずその話は置いておいて私はずっと気にしていたことを口にする。
「あの、バリス第二王子との試合でこちらが負けたらメイドになるとかって話はどうすれば?」
「は?」
「あっ、ちょっと待て、その話は今は……」
しばらく和らいだ国王の雰囲気がさっきよりも重苦しくなり、横にいた第二王子は途端に慌て出す。
しかし、私はそれに気づかず普通に話してしまった。
「いえ、ですから試合に負けたら王城のメイドになれって話は……」
「待て、違う……そんな風には……!」
そしてその瞬間、バリスの父親の大声が玉座に響いた。
「このバカ息子があああああ!」
そして第二王子は頭の上にもう一つ大きなたんこぶを増やすことになったのだった。
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