34.シスコン悪役令嬢、約束を思い出す
フィアナの覚醒イベントは終わった。ゲームでは魔物が学園を襲撃したことがきっかけだったが、今回のは完全に私が原因だ。
「まあ終わりよければ全て良しっていうし、オッケーだよね!」
そんなお気楽気分な私は朝食を終えてアイカにいつも通り髪を整えてもらい制服に身を包む。
そのまま彼女を従えて玄関まで向かえばそこには既にフィアナとシグネが待っていた。
「ごめん、待たせたわね」
「セリーネお嬢様の髪は弄っていて楽しいんですけど、時間が掛かるのがあれですねー」
しょうがないでしょ。折角の長い金髪を短く揃えるのは何か勿体ないし……あ、でもフィアナとお揃いにするのはいいんじゃないか。
「わ、私達も今きたばかりなので……ね、シグネさん」
「まぁ、そうですね。そんなに待ってないのでお気になさらないでください」
「そう? それじゃ行くわよ」
フィアナとは昨日の夜にちょこっと仲が進展してから、だいぶ距離が縮まった気がする。何だか今まで他人行儀なところが少し減ったというか、物理的にも少し距離が近づいた気がする。
「何だか学園に行くのが少しだけ怖いです。昨日のこともありますし……」
「え? ああ……そうねぇ。フィアナのことは既に広まってるでしょうし」
今だって割とピッタリと横に付いてくれている。これってだいぶ信頼してくれたってことじゃないかな!
「でも大丈夫よ。何があっても私がそばにいるからね」
「は、はい!」
おお、妹のキラキラした瞳が眩しい……! 思わずあまりの愛しさに抱きつきそうになったのは何とか理性で防いだ。
さて、ここまでは中々理想的な流れで来ていると思う。ゲームではセリーネは一方的にフィアナを嫌い、その仲は最悪に近かったことを考えるとある意味酷いゲーム崩壊である。
(まぁ、今ここはゲームの世界であってゲームではないんだけどね……)
思えば何でこんなことになったのだろうかと振り返る。数日前までは普通の女子高生だったはずなのに。
「セリーネお姉様? どうしました?」
「ん、ああ、ごめんなさいちょっと考え事をね。さ、遅刻する前に出ましょ」
と、少し物思いに耽っていたらフィアナに心配をされてしまった。姉として頼りない所は見せれないので、少し無理矢理に話を変えた。
しかし、その時だった。
「た、大変です! セリーネお嬢様、フィアナお嬢様!」
お付きではない普通のメイドさんが物凄く慌てながら走ってきた。どうしたんだろうか、基本的にこの家で働いているメイドさん達はメイド長の指導が行き届いているのかよっぽどのことがないと騒がないはずなのに。
あ、つまりよっぽどのことがあったのか。
「落ち着いてください。何があったんですか?」
対応はシグネが受け取った。走ってきたメイドさんは息を切らせながら興奮したまま──
「王城からお嬢様達をお迎えに馬車が来てるんです!」
よっぽどのことだった!
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それで現在私とフィアナは学園ではなく、王城に向かっていた。エトセリア家のよりも豪華な馬車に揺られながら。
「……お姉様」
「だ、大丈夫よ。別に悪いことしたわけじゃないんだから」
流石に王城の中は招かれた者しか入れないらしく、シグネとアイカはここにはいない。勿論両親にもその話は伝わり、卒倒しそうになっていた。
『とにかく無礼のないように、そして無事に戻ってくるんだぞ……』
顔を青くしたお父様の言葉を思い出す。無事にってまさかバリスに喧嘩を売ったからって断罪されるとかないよね。だったらフィアナも一緒に呼ぶ必要はないはずだ。
「ですが、何でしょうか。私達を呼ぶ理由って」
「うーん、思い当たる節が試合をしたことぐらいしか思い浮かばないなぁ。フィアナも何かあったわけじゃないよね?」
「は、はい。私もあの時声を掛けられたのが初めてですから」
だよねぇ、と外を眺める。そこはいつもの見慣れた風景ではなくて王城に向かう途中の貴族たちがメインに住んでいる区画で、明らかに造りが豪華な家々が並んでいた。
「うーん、だとしたら何だろう。そういえば何か忘れているような」
「何か、ですか? あ、そういえばあの約束ってどうなったんでしょうね……」
「約束? なんかあったっけ?」
フィアナの言葉に何かが引っかかった。そういえば啖呵を切ったときに何か賭けをしたような、賭け?
「ああ! 一日メイドさん!!」
「ひゃあっ!?」
すっかり忘れていた賭けの内容を思い出して私は大声を出して立ち上がって馬車を揺らす。それに驚いてフィアナが悲鳴を上げた。
「あ、ご、ごめんね。急に大声出して」
「い、いえ、それはいいんですけど。約束、忘れてたんですか?」
「色々あって完全に忘れてたわ……それなら王城に呼ばれた理由にもなるわね」
それにしては急すぎるというか、何でフィアナも一緒なのか疑問は残る。
ま、まさかフィアナもメイドにさせる気か!?
『セリーネお嬢様、おはようございます。もう朝ですよ、そろそろ起きないと……』
メイド服に身を包んだフィアナがベッドで寝ている私を優しく起こす。その姿を見て私は彼女の腰に手をまわした。
『え、きゃあっ!?』
そのまんま、ベッドの中にフィアナを引きずりこんだ。
『お、お嬢様!? だ、だめです! 服に皺が、それに遅刻しちゃいます……!』
『学園なんていいよ、このまま一日ベッドでゆっくりしよ、ね』
『あ、ああ、セリーネお嬢様ぁ……』
「うへ、うへへへ、メイドさんもいいなぁ」
「あ、あのお姉様? 何だか凄く変な顔してますけど、大丈夫ですか? 着いちゃいましたけど」
「……ハッ」
馬車の動きが止まって、そこで現実に引き戻された。ちょっと妄想の世界に入り浸り過ぎた。
(でもメイドなんて大変だし、フィアナにやらせるわけにもいかないよね。もしも王城に呼ばれたのがその件だったら、私だけがやるようにしないと)
御者が着いたことを告げたので、そのまま馬車から降りる。そしてそこには既に数人の使用人が控えていた。
「セリーネ様、フィアナ様。お待ちしておりました。ご案内いたします」
随分とご丁重なお迎えだ。試合をしたことを咎める内容ではなさそうだが、油断はしない方がいいだろう。
「今更引き返すわけにもいかないか……フィアナ、離れないでね」
「は、はい」
流石にフィアナも気圧されたのか、私の服の端をギュッと握ってきた。あ、可愛い。
そのまま私達は案内に従って城の中に入っていった。
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