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32.シスコン悪役令嬢、慌てまくる

「ちょっと! どういうことなのよ!!」


「あぁあぁあ、お嬢様ぁ、あまり揺らさないでくださいぃいぃいぃいぃ……」


 現在、私はアイカの肩を掴んで滅茶苦茶に揺さぶっていた。豊かな胸が不必要に大きく弾んでいるが今はそれどころではなかった。


「フィアナが家から出て行くかもしれないって、どういうことなの!?」




 私がそれを知ったのは試合の翌日の、疲れからかぐっすりと眠った後の朝であった。何でもフィアナが魔法院の方にある住居に移る可能性があるらしい。


「こら、落ち着きなさい」


 それを聞いてヒートアップした私に戒めるような声が掛かる。


「だって、お父さn……お父様もお母様もフィアナがいなくなっていいんですか!?」


「まだいなくなると決まった訳じゃないわよ。だからね、少し落ち着いて」


 宥めるような母の声だが、私の脳内は荒れっぱなしで嵐が吹き荒れているぐらいだった。そんな思考では物騒なことしか思い浮かばず──


「そうだ、最悪魔法院に突撃すれば……いったぁい!?」


 最悪であり最後の手段を口にした私に父の拳が降ってきた。割りと痛いし、というか父ってそういうことするキャラだったっけ? もっと何か娘に甘く周りに甘い感じだったんだけど。


「落ち着きなさい。あくまでそういう例があるっていう話でしかなく、どちらにせよフィアナは一度は帰ってくるんだぞ」


「う、うううぅぅ」


 それでも不安だった。その時母の温かい手が頭の上にポンと置かれた。


「大事なのはわかるけど今は待ちましょう。ね?」


 流石にここまで両親に言われて暴れるほど子供ではない。私は頭に母の柔らかい手の感触を感じながら頷いた。


「は、はぁい……」


 そこで漸くずっと掴んでいたアイカから手を離した。


「ふぅ……びっくりしましたよー」


 アイカは乱れたメイド服をすぐに整えた。元はと言えば「フィアナが魔法院の方で生活するかもしれない」という情報を教えてくれたのは彼女だったりするわけだから申し訳ないが因果応報ということにしておいて欲しい。


「ねぇアイカぁ……大丈夫だよね? フィアナは帰ってくるよね? 引っ越したりしないよね?」


「大丈夫ですよー。セリーネお嬢様は心配性ですねぇ」


「誰のせいだと思ってるのよ……」


 時刻は既に正午に差し掛かろうとしていた。まだフィアナに関しての情報は一つも入ってきていなかった。


「とにかく今は冷静に待ってなさい。くれぐれも考え無しに突っ走らないように。もしもまた変なことをしたら……」


「わ、わかってるわよ。もう暴走はしないから!」


 昨日の長時間に及ぶ説教を思い出して、慌てて姿勢を正した。一応両親は昨日の件も踏まえて私の具合を看に来てくれたはずなのに酷い仕打ちだ。


「見た感じ元気そうだし、私達は戻るからな。何かあればすぐ呼びなさい。アイカも不甲斐ない娘だが頼んだよ」


「はい~」


 え、不甲斐ない娘って何!? 私のこと!? 原作ではあんなに溺愛していたのに何で!?


「じゃあね、セリーネ。大事をとって安静にしてるのよ」


「は、はーい」


「よしよし、いい子いい子」


 お母様はとんでもないレベルで私を子供扱いする。一体どうなってるの……


「はぁ、思うようにならないものね……」


 両親が出ていった扉を見つめながらの一言は、私だけにしか届かなかった。



#####



 そもそもゲームでのイベントではこんなことはなかった。


 フィアナが覚醒してそれを検査するというところまではあるのだが、魔法院に住居を持つ話なんてなかったはずだ。


「落ち着かないぃぃ」


「だめですよー。学園もお休みもらってるんですから大人しくしてないとー」


「ううぅぅぅ」


 そう、今日の私は大事を取って学園を休んでいる。それはフィアナも同じだった。

 聞くところによれば学園でも今回の件は割りと大きな問題になっちゃったらしく、私とバリスの試合は噂に噂を経てだいぶ広まっているらしい。


「学園に行きづらくなったなぁ」


「そりゃ王子と決闘なんてしたら広がりますよー。私も見たかったですー」


「決闘じゃなくて模擬試合! はぁ……フィアナは遠くに行っちゃうし、私は倒れるし。良いことないわ本当……」


「フィアナお嬢様はまだ出ていく訳じゃないですよー?」


「でも魔法院でしょ? 魔法使いなら誰もが憧れる場所らしいじゃない」


「そうですねー。かなりの才能と血が滲むような努力が必要と言われてるぐらいですからー」


 魔法院は全ての魔法使いの憧れ、それはこの世界で一般常識だ。まぁ私には関係ない話だが、フィアナにとってはどうだろうか。


「もしもさ、そんなとこに試験もなくいきなり来てくれって言われたら行きたくならない?」


「……たしかにー」


「でっしょー!? はぁ、こうなる前に一度くらいお姉ちゃんって呼ばせておけばよかった……」


「でもフィアナお嬢様が仮にその選択を出されても私は……」


 アイカが何かを言葉にしようとした瞬間、家の門が開くおとがした。


「っ!」


 窓から身を乗り出すように確認! 私の視界にはエトセリア家の使う馬車が映っていた。それは昨日フィアナとシグネを乗せた馬車で間違いなかった。


「うわ、お嬢様早いですよー!」


 アイカの言葉を背に部屋から物凄い勢いで飛び出した。途中何人かのメイド達とすれ違いギョッとした目を向けられたが気にする余裕もなかった。


「……フィアナ!」


 家の扉を勢いよく開けてそのまま入ってきた馬車の前まで走る。御者は私の走ってくる姿にメイドと同じようにギョッとして慌てて馬車を停めた。


「はぁ、はぁ……」


 私のせいで停まった馬車だったが、どうやらそのままそこで降ろすことに決めたらしい。驚かせた御者と馬にはあとで謝っておこう。


 それよりも問題は降りてくる人物だった。


 まずは一人、いつものメイド服ではなく私服が新鮮すぎる私の元お付きメイド。


「…………シグネ」


 彼女は馬車から降りて私を見ると、馬車が敷地の途中で停まった理由がわかったらしく盛大にため息をついた。しかし、いつもとは違いそこから彼女は僅かに微笑むと、馬車の中に手を差し出した。


 そして降りてきた人物を見た瞬間、私はタックルする勢いで飛び込んでいた。


「フィアナぁっ!!」


「すみません、わざわざ手を、きゃあっ!?!?!」


 突然の飛び付きに金髪ショートが可愛い私の妹、フィアナは驚いた声をあげながらも私を受け止める、筈だったが身長やらなんやら私が上なので盛大に倒れてしまった。


「せ、セリーネお姉様!? ど、どうしたんですか!?」


「うわあああああん、よかったああああ、帰ってきてくれたああああああ」


「え、ええ……?」


 泣きじゃくる私に戸惑うフィアナとドン引きのシグネが目に入った。アイカは私のことを哀れんだのか代わりに説明をしてくれた。


「確かに魔法院の人にそういうことは言われましたが……」


「うぇええ!? やっぱりフィアナ行っちゃうの……?」


 やはり魔法院に行きたいと思うのが普通だろうか、そりゃフィアナが行きたいなら止める権利はないけど……


 そう思っていたら彼女は慌てて首を振った。


「い、行きませんよ! 別に魔法院に行きたいわけでもないですし、それに……」


「……それに?」


 フィアナは何か言い淀んでいたが、その時ちょうどのタイミングで両親が姿を現した。


「おお、お帰りフィアナ! セリーネが慌てて走り抜けていったと聞いてな」


 人をインターホンみたいに言わないで欲しい。確かに合図にはなったかもだけど。

 父も母も帰ってきたフィアナに優しくハグをして迎える。彼女も最初の頃のぎこちなさはすっかりなくなっており、素直に応じてハグをする。仲睦まじい様子は素晴らしい。私もしたい。


「それで、検査はどうだったかな?」


 やはり結果が気になるのか父は単刀直入に尋ねた。


「あー、ご主人様。それについては少し長くなるので中の方がよろしいかと」


 しかし、シグネが横から割って入った。どうやら色々とあったらしいことは伺える。父もそれを感じ取ったのかシグネの提案に頷いて答えた。


「そうか。それでは一度中に入ろう。そこで詳しく聞かせてくれ」


「は、はい!」


 お父様の一言でゾロゾロと皆が戻っていく。その後ろ姿を見ながら私はとあることを考えていた。


(あれ……そういえば私、セリーネお姉様って呼ばれなかった? 聞き間違い? あれ???)


 今までフィアナはセリーネ様と呼んでいたはずだ。それが急に? 幻聴じゃないよね?


「セリーネお嬢様ー行きますよー?」


「え、あ、ああすぐ行くわ!」


 ただ、そんな混乱した思考はアイカの呼び声に掻き消されてしまった。私は自然と呼ばれたお姉様という言葉に少しだけ胸を躍らせながら皆の後を追っていった。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!


いつも投稿が遅れたり、また誤字報告なども本当にありがとうございます!この場を借りてお礼致します。


次回は明日の11時頃を予定しております!どうぞよろしくお願いいたします!




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