30.純粋無垢な妹、覚醒する
魔法省を魔法院に変更しました。よろしくお願いします。
元を辿れば全て私のせいでした。
あの日、バリス第二王子にいきなり話しかけられなければこんなことにはならなかったはずなのに……
「じゃあ、フィアナとアクシアはここでお別れね」
セリーネ様はそう言って訓練場に設けられている闘技場のような場所に向かっていってしまいました。
「だ、大丈夫でしょうか……」
「……たぶん、大丈夫……かと……いや、勝てるかはちょっと……あれだけど」
一緒に付いてきてくれたアクシアさんという方は、私の問いにちょっと挙動不審になりながらも答えてくれました。
彼女はセリーネ様の昔からの友人らしく、セリーネ様と話す時は特に普通なのですが、あまり交流のない私なんかでは固くなってしまうようです。
それでもアクシアさんは私を観覧席まで案内してくれました。きっと根は心優しい方なんだと思います。同じ学年で違うクラスらしいので仲良くなりたいと思いますが……
「あ、セリーネ様……」
そんなことを考えていたら、セリーネ様が無駄なくらい堂々と現れました。
その顔は不思議と自信に満ち溢れているようですが、それでも私は不安でした。バリス第二王子は聞くところによればかなり力を持っている方らしく、武術も魔法にも精通しているらしいからです。
セリーネ様も氷の魔法に関してはそれなりに使えることは知っていますが、それだけでは敵う相手ではないことぐらい判断できない人ではないはずです。
そんなセリーネ様がどうして……
「も、元より、セリーネは貴女のことしか、考えてない……」
「え?」
観覧席で不安に駆られていた私に、横から声が掛かります。アクシア様は私の方は見ないままに言葉を続けました。
「セリーネに……どういう心境の変化があったのかは、わからないけど……会うたびにひたすら、貴女のことをじっくり、じっくり、聞かされた……それはもう、うんざりするぐらい……」
「そ、それは、えっと、すいません……?」
何だか勘弁してくれというようなニュアンスを感じて私は戸惑いながら謝ります。するとアクシア様は小さなため息のようなものをつきました。
「結局……良い所を見せたいだけかも、しれない……ずっと「お姉様とか、お姉ちゃんとか呼ばれたい!」ってひたすら嘆いてたから……」
「えぇ……」
私がセリーネ様をお姉様と呼んだのは、彼女が病気から目覚めた日の一度限りの話でした。私なんかがセリーネ様の妹なんて似つかわしくないと、そう思ったからです。だから、相応しくなるまで控えようとしていました。
だと言うのに、セリーネ様がそんな風に考えていたなんて……
もしかすると、今回の件だってそのことが関係しているのかもしれません。そうだとしたら私が変に思い込んでいたのは間違っていたのでは──
「っ!!」
そう悔やんでいたら俄かに会場が盛り上がり始めました。どうやら本格的に試合が始まったようです。
アクシア様も今は無言になり、じっとしながら試合の行く末を案じているようでした。
私も一体どうなるのかわからないこの試合を見届けなくてはと、目を向けます。
しかし……
「あ、危ない!」
試合の流れは殆ど一方的でした。やはり相手のバリス第二王子の方が戦い慣れしているのか余裕があるようでした。
でも、セリーネ様の方も意外でしたが善戦はしていました。こういう試合経験があるのか、相手の攻撃に対してまるで動き方がわかっているような戦いをしているのです。
ただ、それでも優勢なのは相手でした。最初のうちは良い試合でしたが次第にセリーネ様は追い込まれていきます。
「あわ、わわわ……!」
幾重にも連なる炎の渦や、巨大な熱線、大きな火球。とにもかくにも普通に見るにはそれは危なっかしすぎて直視出来ない程でした。
「あ、あのアクシア様……!」
「な、なに……?」
「セリーネ様は大丈夫なんでしょうか!? わ、私なんかのせいでこんなことに……」
アクシア様は必死に戦っているセリーネ様を見ながら答えます。
「正直よく戦えているとは思うけど……たぶん、難しい。バリス様の方が何倍も強いし上手だから……」
「そ、そんな……」
「……本当にバカな人」
「え?」
「さっきも言ったけど……あの人は貴女の為だけにあそこに立っている。普通は王族に立ち向かおうなんて、思わない……」
「…………」
「でも、今更どうこう言ってもしょうがないから……とりあえず、貴女は諸々終わったらセリーネの妹として、ちゃんと接して上げれば、それで彼女は満足すると思う……」
「妹として……」
その時でした。急に会場がヒンヤリとした鋭い冷気に包まれます。
「え?」
なんだろう、と思ったらセリーネ様は氷の杖をつきながら、氷の壁に魔力を注いでひたすら大きくしていました。
一体何を、そう思っている間にも壁はどんどん大きくなり、私の住んでいた家ぐらいの高さをあっという間に超えます。
「セリーネ、何を……?」
アクシア様もその行動の意味がわからなかったようで、疑問符を浮かべながら見つめていました。もしかしてこのまま壁で押し潰すつもりなのでしょうか。
確かに躱す隙間もないくらいの魔法かもしれませんが、それにしては何だか不安定なような……
「お、おい、壁が……!」
「ちょっと、大丈夫なの!?」
そう思っていたら悪い予感が的中しました。何と壁を作っていたセリーネ様が突然パタリと倒れてしまったのです。観客に生徒達はそれを見て騒ぎ始めました。
「魔力切れ……!」
そんな中、アクシア様の言葉で何が起こったか私は理解しました。そして理解すると同時に支えを失った氷の壁はあろうことかセリーネ様の方に倒れ始めたのです。
(そ、そんな、お姉様が!)
私は慌てました。彼女らが結界石と呼ばれる多少の衝撃をカバーしてくれる石を持っていることはアクシア様から説明を受けていたのですが、あんな大きな氷の壁に潰されたらそれに関係なく怪我をするに違いありません。
(どうしよう! 何か、何かないの!?)
周りがざわつき始めて、そして対戦相手のバリス第二王子も事態に気づいたのか慌てて駆け出すのが見えました。
危険な状況だと、そう思った瞬間。
「お姉様」
自然と私は何かに導かれるように立ち上がっていました。胸の奥からジュクジュクと燃えたぎるような熱い何かが溢れ出すのを感じながら。
「フィアナ、さん……?」
アクシア様が突然立ち上がった私に声を掛けてきましたが、今の私には何も聞こえていませんでした。
そのまま、一度息をついて私は手を目の前に掲げました。イメージするのはセリーネお姉様を助け出す魔法。どうすればいいか、どんな魔法をアレにぶつければいいのか、瞬時に脳が全てを理解しました。
「お姉様!」
そして、私は溢れ出す力を氷の壁に向かって放ったのでした……
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「それが、今日起こった出来事、ということですね?」
「は、はい……」
あれから私は気が付いたら魔法院という場所に来ていました。セリーネお姉様は倒れてしまいましたが命や体に別状はなく、すぐに目を覚ますだろうということは聞いていましたので、焦ってはいません。
正直、私の状況に戸惑ってはいるのですが。
私はあの時あり得ないほど強力な魔法を使いました。分厚く大きい氷の壁を微塵に割いてしまうような風の魔法です。
こういった魔法の覚醒というのは、きっかけは様々ですが起こりうることらしく、ただいきなり覚醒すると人体に影響を受ける人もいるらしく、だからこうして私は検査を受けることになったのでした。
「では、引き続き魔力の検査に入りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
魔法院に勤める女性の方が声を掛けてきます。一度後ろの方で控えていてくれるシグネさんに目を向けると彼女は頷いて答えてくれました。
「はい。よろしくお願いします……」
早くセリーネお姉様の無事な姿を見たいのですが、とにかく今は検査を早く終えるしか方法はありませんでした。
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明日の投稿は11時頃を予定しておりますが、遅くなるのかもしれませんので予めご了承ください。
少しフィアナ視点が続く予定ですが、よろしくお願いします!




