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28.シスコン悪役令嬢、必死に戦う

「う……うぅ」


 シンと静まり返った訓練場で膝をついている人間が一人。


「驚いたな。ここまで戦えるとは正直予想外だよ」


 そして赤髪の男は剣を構えながら勝ち誇ったように立っていた。


「な、なんで……」


 まぁ、消去法で膝をついているのは私ということになるんですけど。


 いや、確かに最初はよかった。というか最初だけよかった。バリスの攻撃を見切って(知っていただけ)魔法を繰り出したのだが、彼はそれを炎の壁を作り出してあっさりと弾いたのだ。

 私の行動に驚いて固まっていたわけではなく、対処出来るから動かなかっただけということは今になってやっとわかった。


「まぁ、そのセンスは認めてやるよ。ただ経験の差があったな」


「うぐぐ……」


 実際、バリスの動きはわかっていた。初手だけではなく魔法の詠唱さえあれば、どんな物が飛んでくるかは判断できるのだ。


 ただ、それを躱せるかどうかは別問題なことに私は気づいていなかった。そう、ここはゲームの世界ではない。例え相手の攻撃がわかっていても自分の身体がちゃんと動かないと躱せないのだ。


 だけどわかってほしい。実際に目の前に巨大な炎の渦が迫ってきたら身が竦むのはしょうがないと思う。あんな熱気に晒されて精神的にも平気なわけはない。


 私は勝ち誇っているバリスに何とか牙を剝く。


「ま、まだ結界石は壊れてないわ!」


「そうだな。そうこなくちゃな。こちらもやりがいがないってもんだ」


 私は頭の中でイメージをして氷の杖を作り出し、それを支えに立ち上がる。


 しかし、打つ手は殆どない。何故なら私の使える魔法は極端に少ないからだ。


 「アイス・ストレート」は私が考えた魔法。といってもそれは至ってシンプルで、鋭く尖った氷を相手にぶつけるだけの凝っているものじゃない。

 それともう一つが「アイス・ウォール」だ。これは防御用で氷の壁を作り出して身を守る魔法である。


 悲しいことに私が使える魔法はこの二つだけだ。他にも大きな雹を降らすだとか、当たり一面を凍らすとか考えてはみたのだが、いくら練習しても出来なかった。

 ゲームではセリーネが使っていた他の氷魔法も試してみたが駄目だった。理由はわからないが、結局私はいまだシンプルな魔法しか使えないわけである。


(何か策を考えないと……)


 既にこっちはボロボロだ。いくら結界で守られているとはいえ苛烈な炎に襲われて制服はだいぶボロボロだし、髪だって荒れている。あ、ちなみに訓練用の服とか体操服は持ってきていなかった。だから制服だ。これって替えあるのかな。


「それじゃ、まだまだ行くぞ!」


 そんな現実逃避めいたことを考えていたら、バリスが剣を構えながら魔法を唱える。


「巻き起これ炎の渦よ! ヴァル・サイクロン!」


 さっきも使われた巨大な炎の渦を作り出す技だ。しかし、それは一度目よりもさらに大きく激しくなっていた。


(まだ調子を上げてくるの!?)


 焦る気持ちを悟られないよう心の中だけで驚く。とりあえず私は慌てて氷の壁を作り出した。


 しかし……


「う、うそっ!? 壁が……」


 さっきは何とか防げた氷の壁が急激な速さで融け始めていた。今更だけど炎と氷って思いっきり相性が悪い。


「お、お願い、何とか耐えて……!」


 溶けていく氷の壁を修復しながら祈る。流石にこの炎の渦に巻き込まれたら結界石は壊れるだろう。今の段階で私の結界石にはヒビが入っていたのだ。きっとあと一撃でもまともに貰えば割れてしまう。


 そして、炎の渦が消え去った後には物凄く薄い氷の壁だけが残っていた。


「……よく耐えたな」


「はぁ、はぁ……」


 炎の嵐は何とか耐えたが、私は肩で息をしながら辛うじて立っている状態だった。魔法をたくさん使ってみてわかったことだが、これってかなり疲れる。例えるなら長距離走を全力で走らされた後のような疲労だ。


(恐らくまともに魔法を使えるのはあと数回が限界……)


 所謂MP切れという概念だ。精神力に依存しているのでそうなってしまうと気絶する人もいるらしい。


(だったらチマチマやってたってMPが切れた時点で私の負け。バリスの状態は……)


 そう思って彼を見ると全然余裕そうに剣を構えていた。まだまだ力は有り余っていそうだ。


(やるしか、ない)


 だから行動に出た。


「アイス・ウォール!」


 私は気力を振り絞ってもう一度氷の壁を作る。バリスはそれを見て嘲笑してきた。


「おいおい、こっちは何もしていないのに壁を作るのか?」


「うるさ、いわね……! こっち、は、必死なの、よ!」


 挑発するよう声色に思わず憤る。その気持ちを乗せるように氷の壁に魔力をどんどん注いでいく。今、私が出来る大技はこれぐらいしかないからだ。


「一体何をするつもりだ……?」


 バリスは私の意味不明な行動を見守るつもりらしい。それがどうなるか、この後味わってもらわなくては……


「うぐぐぐ……」


 氷の壁を大きく、厚くしていく。簡単には融けないようにどんどん魔力を流していくと、体が疲労によって悲鳴を上げる。思わず膝から崩れそうになって慌てて氷の杖を支えにした。


「ヴァル・ファイア!」


 バリスは様子見なのか、初歩的な火の魔法を唱えた。炎の塊は私の作った壁に当たったが、氷の壁を前に弾けて消えた。


「ほう」


 ニヤリ、とバリスが笑う。本当に戦いが好きなんだろう。それも相手が強ければ強い程燃えるタイプだ。間違いなく乙女ゲームという舞台には少し似合っていない性格だ。


「その余裕……打ち砕いてやる、わよ……!」


 そして、私は漸く氷の壁を作り切った。高さはなんと約10メートルもある厚い氷の壁だ。大体三階建てぐらいの高さの氷は陽の光を反射して美しさすらある。


「後悔しなさい……! これを食らって!」


 私はそのまま魔力を集中させて、氷の壁に干渉する。動かし方は氷の壁を前に倒すだけ。それだけだ。


「なるほど……そういうの嫌いじゃないぜ」


 バリスは不敵に笑うと、炎の魔法を集中して唱え始める。


「どっちが上か決めようじゃねぇか!」


 どうやら真っ向から受け止めるつもりらしい。それでこそ、自分に少しでも有利に動いてくれるはずだ。


 私はそのまま限界まで魔力を込めながら、バリスに向けて声を荒げた。


「ぐ、うう……食らいなさい! この脳筋バ──」


 しかし


「あっ!?」


 後は前に倒すだけだったというのに、とんでもないタイミングで氷の杖がバキッと折れた。私は支えを突然に失って情けなく前に転んだ。そのまま私の身体は限界だったのか動けなくなってしまう。


 しかも、悪いことは続く。


「お、おい!」


「や、やばっ……」


 支えを失ったのは私だけではなかったのだ。


「そっちに倒れるぞ! 避けろ!」


「も、もう体が……!」


 それは氷の壁だった。今まで前に受けていた勢いが突然消えたせいでこちらに向かって倒れ始めていたのだ。


 バリスのまだ余裕のある結界石なら、氷の壁が倒れてきても肩代わりしてくれたかもしれないが、私の壊れかけのだと耐えきれないかもしれない。どうしようと思っていたら、地面になにか青い石が散らばっていた。


「……え? 結界石……? うそでしょ……?」


 それはネックレスについていた結界石だった。なんと転んだ時の衝撃で寿命を迎えたらしく、その破片が地面に落ちていたのだ。


 つまり今壁が倒れてきたら、私はやばい……


「くそ! まずい!」


 バリスが走ってくるのが見える。彼の攻撃魔法ではこちらに倒れてくる速度を後押しするだけだからそうしているのだろうが、何より距離的に間に合わない。


(し、死んじゃうの? 私……)


 厚い壁が倒れながら迫ってくる。それが嫌にスローモーションで私は倒れたまま、それを無気力にボーっと眺めていた。

 意外と恐怖心はなく、寧ろこんなものなのかと思っていた。もしかしたら現実が受け止められていないだけかもしれない。


(フィアナ、ごめんなさい……折角、少しだけ仲良くなれたのに……)


 私は最愛の妹に心の中で謝って目を閉じた。どうか、奇跡が起きてせめて一命は取り留めますようにと、絶望的なお願いをしながら。


「お、お姉様!!」


 しかし、私が目を閉じてすぐに大きく響いた、とある愛しの声によってパッと目を見開くことになる。


「……え?」


 そして見開いた目の先では、私の氷の壁が細かくバラバラに切り裂かれていくというあり得ない光景が広がっていた。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!

明日の投稿は11時頃を予定しております。(遅れるかもしれません……)


どうぞよろしくお願いします!

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