26.シスコン悪役令嬢、準備する
その秘策とは一体? という二人の心配そうな視線が刺さったがとりあえず今は内緒にしておいた。
その日のその後は普通に過ごし、学校から帰ったところですぐにお父様に呼ばれた。
「な、なぁセリーネよ。お父さんな、変な噂を聞いたんだが」
お父様は何だか落ち着かない様子だった。というかいつもこの時間は仕事なのにどうしたのだろうか。
そのことを聞きたかったが、まずはその噂を聞くことにする。
「噂? どんな?」
「何でもお前とバリス第二王子がな、決闘をするとか何とかなんだか……質の悪い冗談だよな? な?」
決闘? そんな約束をした覚えはない。だから私は正直に答えた。
「ええ、決闘なんてしませんよ?」
「だ、だよな。いやぁびっくりした──」
だってバリスと約束したのは決闘ではなく……
「決闘じゃなくて模擬試合ですもの。あ、ちゃんとエトセリア家に恥じない試合にするからね」
「…………は、はああああ!?」
お父様は殆ど絶叫に近い声を出した。というかこんな反応する人なんだ。割と厳格なイメージがあったからそのことに驚いた。
それにしても今日の昼頃の話なのにどこから広まったのだろう。確かにあの場にはたくさんの生徒がいたし、そこからどんどん伝わっていったのかもしれない。貴族界隈のそうした情報のやり取りは早いからなぁ。
「話はそれだけなの?」
しかし、まさかこのために呼んだのだろうか。そういう思いを滲ませてお父様に聞くと、彼はひたすら困惑していた。
「え? それだけ? いやいやいや待ちなさいセリーネ。な、なんでバリス王子とそんなことになったんだ?」
「何でって、彼がフィアナを怖がらせたからよ。だから謝ってもらおうって思ったらそういう話になったわ」
「なんでだ!? なんでそうなった!? お、お前は相手が誰だかわかっているのか!?」
第二王子でしょ。というのはやめておいた。一応相手の立場とかはすべてが終わってから理解した。でも学生という身分だし模擬試合だしね! 大丈夫大丈夫!
「わかってるわよ。でも安心して、勝算はあるから」
「い、いや、そういうことでは……」
「お父様は朗報を期待してお待ち下さい!」
そろそろ話が長くなりそうなことを察した私は半ば強制的に会話を切った。たぶんお母様にも後で呼ばれそうな気もするし、諸々謝るのはそこでしよう。
「あ、こら、待ちなさい! セリーネ!」
ごめんねお父様。今は説教よりも作戦を立てないといけないの。だから今だけは放っておいてください。
「セリーネお嬢様!? ど、どういうことですか! 決闘だなんて!?」
と思ってたら目の前にシグネがやってきた。さてはフィアナから聞いたな。
結局それからアイカにもやんわり問い詰められたり、当然お母様にも呼ばれたりと説教オンパレードだったが、もう今更引くことの出来ない状況である。
決闘ではなく模擬試合なんだから問題はないという方向で納得してもらうことにしたが、勿論勝敗で賭けをしていることは話していない。
さて、私も一週間でやることをやらなくては。
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そして時はあっという間に過ぎて試合当日になった。
「本当に、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、フィアナはいつも心配性ねぇ」
「いや、誰でも心配に……なると思う……」
バリスと会ってから一週間後の放課後、私達は訓練場に向かっていた。
この訓練場という施設はその名の通り生徒が魔法とかの訓練で使うのが主だ。
万が一魔法が暴発しても大丈夫なように結界が張ってあったり、もしも事故があった時の為に常に一人は治癒魔法に心得のある職員がいるのが特徴である。
そこへ向かっているのだが……
「何か多くない?」
放課後にそこを利用する生徒はいるのだろうが、それにしても数が多い。
「何でだろう? こんな来たら試合するスペースないんじゃない?」
困ったなぁと思っていたら、隣に並んでいたアクシアが盛大にため息をついた。
「どう考えても……見学者、だよ」
「え?」
「だって、皆手ぶらだし……訓練用の道具も持ってない……」
「あ、ほんとだ」
というか、すれ違う生徒達はあからさまに私達を見ているのはわかった。何だか有名人になった気分だ。
「セリーネ様……本当に怪我だけはしないでください。元はと言えば私のせいでもありますし……」
「もう、何度も言ってるじゃない。悪いのはあっち、そして謝るのもあっちなんだからフィアナは堂々としてていいのよ」
「でも……」
「というかどうして……試合でバリス様に勝つ、つもりでいるんですか……」
フィアナを元気付けていたら、横からアクシアが入ってくる。
「強いのは知ってるわよ。でも、こっちにも秘策があるの」
「また、秘策……そろそろ教えてくれても……」
「あ、それは私も気になります」
「それは、始まったらわかるわよ」
二人の好奇心と心配の混じった目に心配ないよう笑顔で返す。
この一週間、私は魔法の練習を中心に動いていた。それはとある秘策を成功させる為だ。
その秘策とは、至極単純なものなのだが、まだ誰にも話していない。
というより話しても信じてもらえないから言わないだけである。
「じゃあ、フィアナとアクシアはここでお別れね」
「本当に気を付けてくださいね」
「……幸運を、祈る」
訓練場には模擬試合用の広いスペースがある。それを見学する用の観覧席まであるから中々に立派な場所だ。
これから私は訓練場という名前の闘技場へ、フィアナ達は観覧席へ行った。
「さて、行きますか!」
私の頭の中にある100%成功する秘策を遂に発動させるべく、訓練場の中心に足を進めるのであった。
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