25.シスコン悪役令嬢、勝負を挑む
いつも投稿遅れてすみませんorz
啖呵をきった私に対してバリスは余裕の構えだった。なんだか癪に触るな……!
「で、勝負ってのは何をするんだ?」
そんな彼の言葉に私は強気に答える。少しでも臆してるところを見せると調子に乗りそうだからだ。
「貴方が一番好きな物でいいわ。そうね、例えば模擬試合とか」
「ほう、俺が試合好きってよく知ってるな」
そりゃゲームやってましたからね。とは言えない。言ったところで、だけど。
「んで、賭けるものは?」
「賭け?」
その言葉に私が問い返すと彼は鼻で笑った。
「そりゃそうだろう。お前が勝てば俺は謝る。それはいいが俺が勝った場合に何もないのは勝負としてフェアじゃない。そうだろう?」
「……それもそうね」
彼の言い分にも理はある。といっても賭けるものと言われてもパッと思い浮かばない。一応こんな力馬鹿でも王族だし欲しいものは何でも手に入るだろう。
「うーん……」
私がしばらく頭を捻っていると遂に痺れを切らしたのか、彼からある提案してきた。
「何も浮かばないっていうなら、俺の言うことを一つ聞いてもらうのはどうだ?」
その瞬間、私の顔は冷えきった物になる。こいつは真顔で何を言っているんだ。
「うわ最悪。言うに事欠いてそういうこと言っちゃう? フィアナ、絶対にあんな風に育ったら駄目だからね」
「え? ええ、はい……?」
突然振られたフィアナは困惑して返事をする。そして非難の目を向けた私の様子に彼はちょっと憤慨しているようだ。
「ちょっと待て、お前変なこと考えてないだろうな!?」
「変なことって何よ。言い出したのはそっちでしょ? 何でも言うことを聞けなんてそんな欲望をさらけ出しといて……」
「そういう風には言ってない! 勘違いするな!」
「じゃあ何なのよ?」
「俺が言いたいのは『王城で一日メイド』だよ!」
……少しだけ空気が静まり返って、私はフィアナの肩を抱き寄せて回れ右をした。
「行きましょうフィアナ。まさかこんな変態だなんて知らなかったわ」
「えっ、へ、変態さんだったんですか?」
「こんな奴にさん付けなんていらないわよ。さ、早くここから──」
「待・ち・や・が・れ! 絶対誤解してるだろ!? おい、何でお前らまで変な目で見てるんだ!? ち、違うぞ!!」
周りも若干引いていることに気づいたのかバリスは声を荒げさせていた。にしてもこいつがこんなに変態だったとは──
「その冷めた目をやめろ! 違うって言ってるだろ!? これには事情があるんだよ!!」
「……聞きたくない事情だったら本当に帰りますからね」
「何で今更敬語に……ま、まあいい、とにかく今、王城はメイド不足なんだよ!」
「メイド不足?」
なんだその言葉と思い、少し詳しく聞いてみると何でも王城で雇われているメイドさんの数が足りなくなり、様々な業務に支障が出てきているらしい。
この世界のメイドさんというのは、家事を仕切る存在である。彼女らのおかげで雇っている貴族は基本的な生活が成り立っていると言われてもいいと思う。
そんなメイドさんが足りてないと彼は言う。
「メイドがいないわけじゃない。ただ王城は広すぎて人手が全く足りてないんだよ」
「だったらもっと雇えばいいじゃない。お金だってあるでしょ? それに仮に私が一日メイドしたところで何か変わるの?」
「それにはちょっと問題があるし、俺だって色々考えてるんだ。とにかく! その条件でいいだろう?」
「……まあどんな思惑があるのか知らないけど、まぁいいわよ。それで受けて立つ!」
「それじゃすぐにでも、と言いたいところだが、お互い準備もいるだろうし、一週間後に学園の訓練場ってことでいいな」
「ええ、いいわよ。今のうちに謝る言葉を考えてなさい」
「お前こそ、今のうちに家事の練習でもしておくんだな」
バリスはそう言って、一度彼の発言に引いていた取り巻きをゾロゾロと連れて去っていった。そしてその場には私とフィアナ、後は……
「な、なんてことをして…!?」
いつぞやの人見知り令嬢が顔を青くして立っていた。
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「そもそもあっちが悪いわよ。だってフィアナは何もしてないんでしょ」
「はい……急に囲まれて」
「怖かったでしょ……ほら、おいでおいで」
少し時間が過ぎた昼休み。いつもの場所でフィアナに加えて今日はアクシアと一緒に昼食をとっていた。
不安げなフィアナをいつもより横に寄せながら購買で買ったパンを食べる。
どうでもいいけどこの学園の購買は基本タダだということを最近知った。何でも学費にそういうの含め入っているらしい。流石貴族の学園。
「いや、第二王子であるバリス様に喧嘩を売るのはいくらなんでもやりすぎ……」
アクシアは呆れと驚きが混じった表情でそう言った。するとフィアナが申し訳なさそうに私に謝ってくる。
「すいません、私のせいでこんなことに……」
「フィアナは悪くないわよ。あんなに集団で囲む方が悪いわ! 話があるなら一人で来るべきでしょ!」
「あれほど暴走は止めてっていったのに……はぁ」
アクシアはため息ついたが、フィアナはそんな彼女を不思議そうに見つめていた。
「あの、ところで……貴女は?」
「え? あ、そっか。フィアナには紹介してなかったわね」
そういえばこの二人は初対面だったんだ。怒りのせいですっかり忘れてた。
「こちらはチュリア伯爵家令嬢のアクシアよ。昔馴染みなの」
「そ、そうだったんですか。挨拶が遅れてすみません……えっと、フィアナです」
「…………」
「アクシア?」
フィアナが挨拶をしたのだが、何故かアクシアは無言だった。いや、これは無言というよりも……
「ハ、ハジメマシテ……」
「人見知り発動してる!?」
何故かアクシアのことを説明するのは私の役目になってしまった。というかこんな人見知りの状態で学園では大丈夫なのだろうか。
「え、えっと、それじゃ学年も同じらしいですし、よろしくお願いしますね……?」
「こ、ここ、こちらこそ、よよよろしく……」
初対面の人に緊張するのはわかるけどこれは中々重症だ。寧ろよくセリーネには慣れたと思う。よっぽど性格きついのに。自分で言うのはおかしい気はするけど。
「そ、それでどうするの……? 一週間後って言ってたけど……」
「そ、そうですよ。セリーネ様、本当に模擬試合をするんですか?」
二人ともかなり心配しているようだが、その理由もわかる。前述したとおりバリスは力馬鹿であるが、その強さは本物だ。
ゲームでのバリスルートではフィアナとしてひたすら魔法の訓練を行い強くなる必要がある。彼との行動は何かとそういう要素が付き纏うからだ。
彼自身の好みが強い人という単純な話でもあるのだが、デートと称して国の外にある森に行けば魔物に襲われたりするし、何故か学園に魔物が侵入してくる事件が発生したりとそういうことばかり起きる。
そうしたときにフィアナ自身が強さを証明できれば好感度が上がるのだ。ちなみにフィアナの魔法属性は風で、バリスは炎である。二人で組み合わせた技とかもあったりしてちょっと羨ましい。
と、少し話が逸れたがとにかく彼は強いのだ。しかし、私だって何も考えなしに勝負を挑んだわけでは決してない。
「二人とも大丈夫よ。何せ私には秘策があるからね!」
『秘策?』
二人の声の重なりを聞きながら私は不敵に笑うのだった。
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