24.シスコン悪役令嬢、宣戦布告する
投稿が遅れて申し訳ありません。
また誤字報告ありがとうございます。多すぎて未熟なのを痛感してます。
フィアナとの楽しい勉強会はいつの間にか終わっていた。どうやらいつの間にか居眠りしていたらしい。
シグネの授業はかなりわかりやすかったようで、フィアナは達成感に満ち溢れた顔をしていた。私もちゃんと聞けばよかった……まさか眠ってしまうとは。
まあ今更悔いてもしょうがない。勉強は……うん、近いうちに何とかしよう。
とにかくそんなこんなで楽しい休日は終わり、今日からまた一週間の始まりである。
「セリーネ様、おはようございます!」
「お、おはよう……」
教室について席に座った途端に、数人の生徒がすぐに私を囲んだ。
まだ公爵家令嬢としての扱われ方には慣れていない面が多い。想像して欲しいのだが同学年の生徒から敬語で丁寧に接せられるとその対応が中々に難しいのだ。
さらりとそれを受けて令嬢スマイルを作れるほど、まだ私はセリーネになれていない。
それでも今日も今日とて私の周りには取り巻きの面々がいる。今日は四人の令嬢に囲まれていたが当然全員に面識はない。名札をつける義務とか突然発生しないだろうか。
そんな中の一人が話題を振ってきた。
「休みの日は何をしてたんですか?」
「え? 何ってフィアナと勉強したりしてたけど」
休日明けの王道な質問に素直に答えると、その令嬢は僅かに顔を曇らせる。
「勉強、ですか? そういえばその引き取られたというフィアナ……さんてどうなんですか? 何でも平民出身らしいですけど、ちゃんと貴族としての礼儀作法とかは大丈夫なのでしょうか」
「え? フィアナ? 可愛いよ?」
「え?」
「え?」
私の言葉に令嬢は首を傾げていた。何故だろうか……あ、そうか。ちゃんと妹について一から説明しないとわからないのだろう。しょうがない、朝の授業開始までじっくりゆっくりフィアナについて……
『それだけは本当に勘弁して』
しかし、その時だった。妹愛を語ろうとした瞬間に、ジト目でドン引きしている一人の友人の姿が脳裏に浮かびあがったのである。
(そ、そうだった! 普通に語ったら引かれるんだった! 危ない危ない……)
そう、私は学習出来る公爵家令嬢だ。アクシアから教えて貰ったのだが、妹愛を語る私の姿はどうやら彼女の知るセリーネとはかけ離れているらしく、絶対に表に出さない方がいいと言われたのだ。
「セリーネ様? どうしました?」
「ああ、いえ……フィアナは確かに平民出身かもしれないけど、今は私の妹だし、それに凄く努力家なの」
「そ、そうなんですか。セリーネ様から見てそう思われるならそうなんでしょうね……」
「ええ、とってもいい子だから皆も会うことがあったら、是非よろしくね」
「は、はい!」
うーん、こんなものだろうか。あまりイメージ崩壊を招かないように立ち回るのは難しいものだ。
そんなことを悶々と考えていたら廊下の方が急に賑やかになった。何だろうと見ていると、大きな人の群れがゾロゾロと歩いていく。
「セリーネ様、王太子様ですよ!」
「え、あ、ああ……そうなのね」
取り巻きの一人が興奮したように教えてくれた。どうやら攻略対象の一人であるアランだったようだ。しかし流石王族、取り巻きの量が違う。
張り合う訳じゃないけど私だって教室に来るまでそれなりに囲まれたが、彼のそれは比ではない。
(そりゃ疲れるわね……)
アランは貴族としても人としても立派で模範的な人物だ。ただ、その完璧さを常に求められる彼は、彼自身も知らないうちに心身ともに疲弊しているのだ。
そんな彼の癒しとなるのが我が愛しのフィアナであるのだが今回はどうなるのだろうか。
勿論フィアナは誰にも渡したくないし、渡すつもりもない。もしも彼女自身がいずれ誰かを好きになったなら、それを望むなら……その時は大号泣して見送る覚悟はある。
だけどやっぱり離れて欲しくはないなぁ。というのが贅沢な本音だ。
バレないように小さなため息をつくと、取り巻きの一人がそっと耳打ちしてきた。
「セリーネ様は挨拶に行かれないんですか?」
「挨拶?」
「ええ、前までは積極的に行ってましたよね……?」
ま、まじか。そういえば彼のルートではセリーネはかなり邪魔してきたし、たぶん彼の隣をずっと狙っていたのだろう。
確かに王族である彼と婚姻を結ぶということはそれなりの権力を得ることにもなるし、公爵家令嬢であれば立場的にそれが叶わない位置でもないだろう。
「うーん、別にいいわ。あれだけ囲まれてたら挨拶するだけでも大変だろうし」
「そうですか……セリーネ様がいいならいいんですけど……」
取り巻きの反応からすれば、たぶんかなりしつこかったんじゃなかろうか。アランには心の中で謝っておこう。
それから少し時間がすぎて授業が始まった。さて、取り巻きへの対応よりもある意味辛い時間の始まりだ。
早く昼休みにならないかなぁ。
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とまぁ、昼休みを迎えるまではまだよかったのだが。
「グルルルル……」
「せ、セリーネ様……」
現在私は獣のように唸って威嚇していた。とある赤髪の男に対してだ。
「……お前、確か公爵家の奴、だったか?」
昼休み。その日、私はフィアナと待ち合わせをしていた。
先週は教室まで迎えに行っていたのだがそれがフィアナにとっては申し訳なく、そして恥ずかしいようで、中等部と高等部の棟の間で待ち合わせすることに二人で決めたのだ。
しかし、その場所で私はとんでもない物を目撃することになる。
「ん……?」
ちょうど待ち合わせの場所に妙な人だかりが出来ていた。そしてその中心でフィアナが怯えたように立ち竦んでいるのが見えた。その彼女の前には赤髪をいい感じに荒れさせた男が立っている。
「あいつは……!」
その男にはゲームで見覚えがあった。バリス=エステイト、家名から察する通り、アランの弟であり高等部一年の生徒だ。「一凛の花」で熱狂的なファンがいる、所謂コテコテの俺様キャラである。
フィアナとの初めての出会いはまさに今の状況だ。彼は俺様系でもあり、また実力主義でもある。政治や勉強よりは、戦いの訓練だとか闘技大会とかそういう類が大好きな人間で、強者が正義だとマジで思っているタイプだ。
彼は元より平民出身であるフィアナに関心を持っていた。平民からこの学園に通う彼女がどんな人間か気になっていたのだ。
最初の接触では、常にオドオドしている気弱なフィアナに勝手に幻滅する彼だが、次第に彼女の芯の強さに気づき少しずつ距離が縮まっていく相手である。強気な性格ゆえ、強引なところもあるがそれが良いというファンが多数いる。
まあ、全部要約するならば、今そのイベントストーリーが起きているということである。
「フィアナ!!」
ただ、それを遠目から静観するつもりなど毛頭ない。大体現段階で二人の距離が近すぎる。清純なフィアナに近づくなこの獣野郎!
「せ、セリーネ様……!」
人混みを分けて入ってきた私を見たフィアナは、泣きそうだった瞳を少しだけ明るくさせた。大丈夫だからね、お姉ちゃんがついてるから!私は無理矢理二人の間に入り込む形で立ち塞がった。
「ちょっと、貴方どういうつもりよ……!」
フィアナを背中に庇いながら対峙する。ちなみにこの段階で相手の立場とかそういうところは頭からすべて吹っ飛んでいるのであしからず。
「どういうつもり? ただ気になったから話しかけたんだよ」
彼は悪びれもせずにそう言って笑った。私は指摘するように声を尖らせた。
「取り巻きで囲んで逃げられないように? 随分大袈裟じゃない?」
「周りは勝手についてきた連中だ。俺は関係ない」
あー! すがすがしいほど自分勝手! これが良いという人がいることも理解できるのだが、フィアナを怖がらせた時点で私としてはあり得ない。
そんな彼は威嚇する私を見て小さく呟いた。
「……なるほどな、兄貴が言っていた通りだ」
それはあまりにも小さい呟きで私には聞こえなかった。彼はそのまま言葉を続ける。
「別に悪気があったわけじゃない。ただ平民出身でここに通ってる奴がいるって聞いたから確かめようと思っただけだ。一応、この学園は『ご貴族専用』だからな」
何か引っかかる物言いだが、気になったからと言って囲んで怖がらせるのは正しいことだとは思えない。私は周りにもバリバリに威嚇しながら口を開く。
「フィアナは私の妹であり家族よ。彼女はエトセリア家の者なの。出身は平民かもしれないけど、だからって変に絡むのはやめて」
「セリーネ様、わ、私は大丈夫ですから」
「いいえ、この男とはここでハッキリしておかないといけないの。大丈夫お姉ちゃんに任せて」
周りの人は私の言動にかなり驚いているようだった。そもそも王族に対する態度としてはかなり危険域に達しているのだが、私は熱が入りすぎていてそれに全く気づいていなかった。
バリスもそんな私の発言に楽しそうにニヤニヤしているものだから、なおの事力が入ってしまうのも原因だ。
「とりあえず謝りなさいよ。フィアナを怖がらせたんだから」
私がそう言うと彼は意外そうな顔をして答える。
「謝る、俺が?」
「そうよ。悪いことをしたら謝るのは当然でしょう。今まで何を学んできたの?」
「ふっ、面白いことを言うじゃないか。ただ、俺は俺より強い奴の言うことしか聞けないんだよ。悪いんだがな」
わかっていた。彼の性格はゲーム内で嫌というほど確認しているのだから。
「知ってるわよ、それぐらい」
「……ほう? だったらなんだ?」
「セリーネ、様? あ、あの何か変なこと考えて……」
私の言葉の雰囲気から察したのだろうか、バリスは実に楽しそうに私を見ていた。そしてフィアナも私がとんでもないことを言おうとしていることに嫌な予感を感じているようだった。
ただ、今更制止を受けるつもりはない。こいつにはフィアナを怖がらせたんだからきっちり謝罪してもらわないといけない。
「フィアナへの謝罪を掛けて、勝負しなさい。バリス=エステイト!」
そう言って、私はビシっと彼に指を向けていた。
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