19.シスコン悪役令嬢、お姉ちゃんと呼ばれたい
投稿時間が遅れました。申し訳ありません。
さて、アクシアという味方を得てから、もう一週間が経とうとしていた。彼女の協力のおかげでだいぶこの世界の知識も補えたし、学園での立ち回り方も……まあ、それなりには出来るようになったと思う。
相変わらずセリーネの記憶という点は曖昧だが、それにも少し進展があった。
実はアクシアから彼女との出会いについて、その時の詳細を聞いていたら脳裏にその時の情景がハッキリと浮かんできたのだ。パーティ会場で色んな人に囲まれて固まっている彼女に叱咤と激励を飛ばして無理矢理立たせる私の姿である。
他の記憶は相変わらず無い状態なのだが、もしかしたら何かがきっかけで他のことも思い出せるかもしれないという希望が芽生えた。
「そう考えるとやっぱり私はセリーネでもあるってことだよね」
自室の椅子に座りながら私は考えこむ。
私が最初に考えていたのはセリーネに朝倉美幸という人格が乗り移っているのではないかということだった。しかし、アクシアとの出会いを思い出したことを顧みればセリーネとしての記憶を思い出した自分もいるわけでもある。
無理矢理辻褄を合わせるとするなら、例えばセリーネの前世が朝倉美幸という少女で、病気のせいでその記憶だけが何故か蘇って、セリーネと美幸の記憶がゴチャゴチャしてるとか……
「いやいやいや、何勝手に死んだことにしてるの……」
そもそも、ほんの数週間前は女子高生をしていたはずだ。至って健康で、何も変なことは──
「あ、いたっ、いたいっ……!」
ただ、やはり美幸としての過去を思い出そうとすると酷い頭痛に襲われてしまい、考えるどころではなくなる。
「うぅっ、な、なんなのよぉっ……!」
記憶に関してはまだまだ長い付き合いになりそうだ。
「はぁ……はぁ、ふぅ……、この頭痛だけは慣れないわ……」
「お嬢様ー、アイカです。入りますよー」
治まってきた痛みにため息をついた瞬間、タイミングよく扉がノックされた。
「アイカ、どうしたの?」
「そろそろ昼食の時間なのでお呼びに参りました」
「そう、すぐ行くわ」
「はーい」
とりあえず記憶に関しては今の自分だけじゃどうしようもないし、追々考えることにしよう。そう結論を付けて私はランチのために席を立った。
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昼食は至って普通に終わった。私の家は公爵家ということもあり父も母も昼は基本的に仕事に追われその場にはいることは少ない。今日は日本でいう土曜日なのに凄い働き者である。そんな忙しくても朝食と夕食は時間を作って一緒に食べてくれるからよく出来た両親だと思う。
つまり私の昼食は大体フィアナと二人っきりで過ごすことになる。彼女とは学園でも昼は一緒に食べているからか、最初の頃と比べると私に対して少し慣れてきたように感じる。まぁまだ遠慮しているようではあるが。
「フィアナは昼から何かするの?」
「昼からですか? 特に予定はないので勉強でもしようかと思ってますけど……」
今日の彼女の行動は勉強らしい。もしも私が本当に秀才だったら一から百まで手取り足取り教えるのになぁ。
「そ、そうなの。あんまり無理しないでね」
でも、今の私ではそう言って声を掛けることしかできない。悲しい。
「は、はい。ありがとうございます」
「それじゃ、何かあったら呼んでね。私も部屋にいるから」
「はい。それでは」
うーん、何とも言えない無難な会話だ。
「折角目の前に妹がいたのにぃっ!」
「どういう叫びですかそれー?」
それで自室にてオンオン嘆いていたらアイカが呆れたように声を掛けてくる。
「そういえば貴女も妹がいたわね」
「はぁ、そうですね。弟と妹ですけど」
「弟や妹から見た、良い姉ってなんだと思う?」
「はい?」
「あのさ、私フィアナに「お姉ちゃん」って呼ばれたいんだけどさ」
「話がコロコロ変わりますねー……」
私の言葉にアイカはそう言ってため息をつく。私が妹の話をすると大抵の人がそうなるのだが、なんでだろうか。
アイカは呆れたまま返事をする。
「それならそう頼めばいいんじゃないですか? フィアナ様もだいぶ馴染んできたように感じますし」
「だ、だって初めて会ったときに拒否しちゃったんだもん!」
悲しい事実の一つだ。あの一言さえなければ今頃きっとお姉ちゃんって呼ばれててもおかしくないというのに!
「確かに初めて会ったときは偉い険悪でしたねー。そういえば何であの時はあんな接し方をしたんですか? 今と比べると正反対ですけどー」
「それは……」
その時と今は中身が違うと言ったって信じてはもらえないだろう。
アクシアとも話し合ったのだが私がセリーネとしての記憶を失っていることとと、別の意識が入っていることは内緒にすることに決めた。
一つはそんな話を信じてもらえないからだが、もう一つは私が公爵家令嬢という立場がある位置なのであまり変なことをしでかせないからだ。
『妹が好きということはわかったけど、暴走だけはしないで……』
アクシアは若干震えながらそう言った。だから、出来るだけ身分を意識したセリーネらしい振る舞いをしようと思っているわけである。
だからアイカへの返事も誤魔化すしかない。
「あの時は、その急に家族が出来て緊張してて……つい荒れちゃったというか……その」
「それにしたって邪険でしたけど」
「……うぅっ、そ、それよりも! 今はお姉ちゃんと呼ばれたいの! ねぇ、何か良い方法ないかなぁ」
「そう言われましてもー……うーん」
深く聞かれる前に、話を無理矢理戻した。少々強引だったが、アイカは頭を捻ってくれている、良いメイドさんだ。
「そうですねー。それなら『姉っぽさ』を自然に出すとかどうでしょうー」
「あねっぽさ?」
「そうですー。例えば頼りになるところを見せるとか、困っているところを助けてあげたりとか、そうやって親近感を深めるんですー」
「な、なるほど。それは良い考えかもしれないわ。でも、実際に出来ることがあるかしら……」
「例えば勉強を見てあげるとかどうですか? 転校したばかりですし、学園の勉強は普通のところと違って難しくて苦労してると思いますしー」
「あー、それはダメなのよ。だって、シグネがいるでしょう?」
そう、勉強を教えるということは確かに仲を良くする方法としては最善かもしれない。実際にゲームでもフィアナは最初、勉強にかなり苦労していたはずだ。
ただ、フィアナにはお付きメイドのシグネがいる。彼女は中々に頭が良くゲーム内のイベントで勉強で苦労しているところを助けてくれる協力者なのだ。だから、フィアナの勉強を私が見る必要はない。
もう一つ言えば、残念なことに私の知識自体がやばい。基本的に魔法学という分野がメインとなる中等部や高等部の教育は今の私にとっては未知すぎた。教えるというより教えられる方が正しいだろう。
だからそれは無理だと、そう言おうと思った瞬間、アイカから衝撃の事実を告げられる。
「でも、今日シグネはお休みですよー?」
「へっ?」
そして、見計らったようなタイミングで扉が控えめにノックされる。
「あ、あの、セリーネ様」
「……フィアナ!?」
その声が響いた瞬間、私は乱暴に椅子から立ち上がり扉にダッシュしていた。アイカの呆れ顔はスルーする。
私が慌てて扉を開けると前に立っていたフィアナは何かを抱えながら驚いていた。
「ど、どうしたの?」
「あ、あの……すみません、急に。もしも今時間があれば、その……」
フィアナが抱えているものは魔法学基礎の教科書だった。それを見て何となく嫌な予感がする。
「ちょっと勉強しててわからないところがあって……」
何と、フィアナが私を頼りに来てくれたのだ! それは天にも昇る嬉しい出来事だ。しかし、流石に教えてくれと言われても今の私では──
「良かったら、教えて頂けないでしょうか……お願いします」
「もっちろん! なんでも聞いて! さ、ほら入って入って!」
「え、あ、ありがとう、ございます」
ただね、そんな申し訳ない感じで頼まれ方をしたら断わることなんて出来ないじゃない!
知識のない私の、勉強会が始まろうとしていた。
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