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17.人見知り令嬢、気づく

アクシア視点です。

 正直に言ってしまうと会ってからすぐに彼女がおかしいことには気づいていた。

 何というか……纏っている雰囲気が以前と全然違っていたし、いつもの無駄に勝気で誰にでも傲慢で滅茶苦茶な感じは微塵も感じず、それどころかネジが外れたような緩さだとか、どこか子供っぽい感じすら受ける。


(……人格が変わった? 病気で?)


 三日間も熱にうなされていたらしいし、もしかしたらそれが原因で変わってしまったんじゃないかって、私はそう疑っていた。


 しかし、それは彼女としばらく過ごしたらすぐに間違いであることに気づかされる。


(この人は、誰……?)


 目の前にいる公爵令嬢セリーネは姿だけ見れば確かにその人であるが、話してみたりその仕草を見ていると全く違う誰かが私の目に映っていた。


「お、おおおっ!? す、すごっ、え、手品とかじゃないよね!?」


 裏庭で魔法について教えて欲しいと言われて、雷魔法で一番簡単な『サンダーボール』を発動すると彼女は目を輝かせてはしゃいでいた。


 こんな子供のような様子をあのセリーネが見せるわけはない。


 そして、彼女自身も氷魔法にはかなり精通しているはずなのに、簡単な氷を作る魔法を使っただけで大騒ぎ。


「わぁっ! アクシア! アクシア! 見て見て! 氷、氷だよ!」


「う、うん……」


 全くわからない。一体彼女に何が起こったのだろうか。



#####



 私こと、アクシアが今日彼女の家を訪れたのは兄に頼まれたから。


 元々彼女は酷く我儘で傲慢なところがあり、少なくとも周りから好かれている人間ではなく(兄にとってもそうなのだろう)、セリーネと仲の良い私にその役目を任せてきたのだ。


 そんな好かれているわけではない彼女ではあるが公爵令嬢という立場もあり、その性格上煽てれば上機嫌になってくれるので、それを利用して近づくものも大勢いた。


 そんな彼女と私の付き合いはもう何年になるだろうか。


 初めて会ったのは確か物心ついてから初めてのパーティだった。名目上はチュリア家の長女である私の顔見せのようなものだ。

 悲しいことに私は子供のころから極度の人見知りで両親や兄以外の相手だと言葉に詰まりまともに会話することも出来ない。だが、こうした顔見せのパーティは貴族界隈では必ずやっておかないといけない決まりなのだ。


 そんな私が知らない人ばかりのパーティに出席すればどうなるか、結果なんてわかりきっていた。案の定色んな人に囲まれた私は言葉に詰まり周囲への人間への恐怖から俯いて何もできなくなってしまう。


 そんな時の周りの人達の感情は何となくわかる。「伯爵家の娘といえどこの程度か」という見下しや軽蔑。こういった交流会は人脈を作ったりする以上に、これから脅威になり得るかもしれない相手を見定める意味もあった。きっと彼らや彼女らの中で私は「全く心配するほどのない弱者」という認識になったことだろう。


 しかし、そんな私にいきなり手を伸ばしてきた人物がいた。


「何しょぼくれた顔をしてるのよ!!」


「……え?」


 大きな声が響くと同時に、グイッと腕を取られ無理矢理顔を上げさせられた。泣きそうになっていた私の視界に勝気そうな瞳で私を見下ろしている少女の姿が映る。周囲と比べれば彼女もまだ子供だというのにその姿は恐ろしいほど堂々としており、何か誇っているようでもあった。


 これが、セリーネと私の初対面。私は彼女が公爵令嬢であることは知っていた。既にその時からあった悪評も勿論頭に入っていた。だから出来るだけ関わりたくないとすら思っていた。


「今日は貴女が主役なのにそんなこじんまりとしてどうするの! しゃっきりなさい!」


 しかし、私を無理矢理奮い立たせようとしている彼女が私にとっては酷く輝いて見えた。私とは正反対の自分を持っているその姿に。


 羨ましいと嫉妬したし、自分には無理だと諦めもした。どちらにせよ公爵家の令嬢である彼女と私には家柄的に埋まらない差があるし、付き合いもこれっきりになるだろうと、そう思って少し残念だった。


 だが、彼女との縁は不思議と切れなかった。


「仲良く出来るならそうしなさい。家の為にもなるだろう」


 私の父はそう言った。このチュリア家は兄が継ぐ。つまり私はどこか有力な貴族と結婚して繋がりを作るぐらいしか役目がないのだが、そんな私が公爵令嬢と仲が良いとなればまた別の付加価値も生まれてくる。父はきっとそう考えたに違いない。


 母も少し心配そうにしていたが、友人として付き合えるならその縁を大事にしなさいと言ってくれた。


 私はそれに頷くことしか出来なかったのだが……




「アクシア、アクシア?」


「……ん?」


「いや、ん? じゃなくて、お菓子持ったまま固まったからどうしたんだろうって」


 ふと気が付いたら私はお菓子を持って固まっていた。そういえばセリーネのお付きメイドさんが持ってきてくれたお茶とお菓子を頂いているんだった。


「ごめん、考え事してた……」


「そう、まあよくあることよね。私も考えながら勉強してるといつの間にか寝てるのよ」


「それは、ないけど……」


「……ないの?」


 相変わらずセリーネはなんだかおかしかった。いつも変な冗談を言うこともなかったし、それに呼びかけを無視したら真っ先に怒るのだ。


 頭を捻ってふーむ、と考えて一つ思い浮かんだことがある。


 ここ最近で、エトセリア家の環境を変えた一人の少女、確か名前をフィアナという人物がいたはずだ。


 私が知っている情報は彼女は平民出身で、両親を病気で亡くしてしまい、縁があってエトセリア家に引き取られたということだけだ。


 セリーネは貴族階級にもうるさく貴族主義な面も少しあったので、平民出身の彼女が家に来るのはストレスだったはずだ。確か学園でもそんなフィアナのせいで、セリーネが体調を崩したとか噂されていた気がする。


 まさか、そのストレスが理由なのだろうか。それで頭がおかしくなった? 人格が変わるほど?


「あの、セリーネ……」


「ん、どしたの?」


「あの、ちょっと噂で聞いたんだけどフィアナって子が家に来たんでしょ……? それってどんな──」


 私が言いきる前にガタン! と椅子が大きな音を立てた。その音にハッと目を向けるとセリーネが立ち上がって机に手を置いていた。その手がワナワナと震えているのがハッキリとわかる。


(お、怒らせた……?)


 もしかして噂は本当だったのだろうか。確かに突然新しく出来た家族を迎え入れることは難しいとは思うけど……


 しかし、そんな私の考えはすぐに間違いだということに気づかされる。今日は間違いに気づかされてばかりだ。


「よくぞ聞いてくれました!!!」


「……え? え?」


 彼女の目が溢れんばかりに光っているのを見た。こんな生き生きとしたセリーネ見たことがない。


「正直、誰かに話したいと思ってたんだけど、アイカもシグネも流すばっかりで全然付き合ってくれないんだよねぇ。本人に話すわけにもいかないし」


 セリーネはまるでルンルンと陽気な歌を歌うようにニッコニコだ。もう一度言うけどこんな生き生きとしたセリーネ見たことがない。


「折角だからたっぷり聞かせてあげる。妹がいかに尊いか……そういえば貴女も妹だったわよね。だからちょっと語るから、語るからね!!」


「へ、へっ?」


「まず妹という尊い概念についてだけど──」


 それから、何時間経ったかわからない。しかし、その間ひたすらに妹に対する愛情演説を聞かされたことだけは脳に深く刻まれた。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!本当に励みになります!

次回の投稿は明日の10時を予定しております!(前後する恐れあり)


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