15.シスコン悪役令嬢、友人が訪ねてくる
さて、今日は学校が休みである。
基本的に学校は5日通って2日休みだ。ここら辺は日本のメーカーが作ったゲームだから一緒なのだろうか、それはわからないがそうしたリズムが変わらないのはありがたい。
要は今日は土曜日である。
「はー、ゴロゴロー」
休日は怠けて過ごすのを理想としている私は、そのモットーに従い豪華なベッドで寝転がっていた。ベッドの脇の机には部屋の本棚にあった教材が積み重なっている。努力はしてみたが残念ながら成果はなかった。元々勉強苦手だしなぁ。
「セリーネお嬢様ー? アイカですー」
そんな休日、部屋にお付きメイドの柔い声が響いた。
「はーい」
返事をすると扉からアイカが入ってくる。彼女はゆったりと寝ている私に近寄ってきて口を開いた。
「セリーネお嬢様にお客様が見えられているのですがー、どうします?」
「お客様? 休日はゆっくりしたいんだけ……お客様!?」
ガバッとベッドから勢いよく起きる。普通に日本と同じように過ごしているつもりだったが、そうだった、ここは日本ではない。
「だ、誰? 私の知っている人?」
恐る恐る聞くとアイカは首を縦に振る。
「はいー。チュリア家のアクシア様ですー」
「あ、アクシア……ああ、そう」
「どうしますー? 何か用があるならお引き取り願いますけど……」
そう言ってアイカはベッド上にいる私を見る。
「お忙しいようには見えないですねー」
「……お、お通しして」
ぐぬぬ、まさか休日に全く面識のない友人が訪ねてくるとは。どんな相手かわからないが、とりあえずボロが出ないようにしなくてはならない。
私は一度気合を入れてベッドから降りた。とりあえず寝間着を着替えて準備をしよう。
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「……………………」
そして、今私の部屋に一人の少女がいた。椅子に座って微塵も動かないその少女はアクシア。チュリア伯爵家の娘らしく、私の友人らしい、のだが。
「……………………」
アイカに案内されてきたその少女は私の向かいに座ってからまだ一言も発していない。
年齢は私よりだいぶ低いだろうか、見た目は13歳程度で身長もスタイルもまだ幼さが残る少女といった感じだ。フィアナと同い年ぐらいかもしれない。
髪は淡い青色をおさげにして肩ぐらいまで伸ばしている。瞳には気が入っているような入っていないような……一言でいえば不思議ちゃんみたいな雰囲気を感じる。
「……………………」
それで、これはどうしたものだろうか。
(な、何か話した方がいいのかしら)
こういう時にアイカがいるといいのだが、生憎彼女はお茶とお菓子を準備中である。
このまま無言が続くのは非常に気まずい。何で自室なのに私がこんなにかしこまらないといけないのだろうか。
「あ、あの、アクシア?」
「…………ん」
ん、って何!? 相槌なのか!? 目の前の不思議な少女を全く捕まえることが出来ない。
最早ここまでくると様子見している方が疲れる気がする。どうせわからないことはわからないのだ、とりあえずいつも通りでいってみよう。
「今日は、どうしたのかしら? 急に訪ねてきて少し驚いたわ」
スマホとか連絡手段がないからそこら辺はしょうがない。私の問いにアクシアは静かに答える。
「……病気が治ったって聞いたから……パーティも欠席で心配だったし」
「あ、そうだったの。そういえばパーティの件はごめんなさい。行けなくて」
「……まだ、病気?」
「えっ?」
「謝るなんて、おかしい……」
ちょっと、セリーネ! 貴女本当に礼儀とかなかったの!? 謝っておかしいって初めて言われたんだけど!
アクシアの言葉に私は頭を抱えそうになる。もしかして昨日の学校で感じた珍しい物を見る目線ってこういうところが原因じゃないのだろうか。
しかし、私は彼女の次の言葉に意識を持っていかれることになった。
「……お兄ちゃんも心配してた」
「はっ!? 貴女妹なの!?」
ガバッと身を乗り出す私だったが、アクシアは驚きもせずにただ訝しげに私を見ていた。
「……??? どういう意味? 確かお兄ちゃんがセリーネの様子を見に来てたはずなんだけど……」
「うぇぇっ!? もしかして、フレイド先生の妹さん!?」
「……う、うん。そうだけど……」
フレイド先生というのは私が病気の時に診てくれていた医者だ。最初に話したと思うが攻略対象の一人であり、本来は学園の医務室に勤務する先生である。
フィアナとの関係は生徒と先生の禁断の愛みたいな感じで展開される。ストーリーでちゃんと関わるようになるのはフィアナが嫌がらせで水の魔法を頭から被せられて、その着替えがないか医務室に行くところが始まりだ。
もう言わなくてもいいと思うが、魔法を使って水を掛けるのは私だ。勘弁してください。
とにかくそんな彼に妹がいたとは……ということはチュリア=フレイドということか。チュリア家の家族構成はわからないが恐らく長男なのだろう。
それにしても妹か……
「……どうしたの、やっぱり具合が悪い?」
彼女の心配そうな顔に首を横に振って答えた。
「いえ、具合は全然大丈夫! それにしても心配してくれてわざわざ来てくれたの?」
「……うん、わたしとセリーネの仲だし」
この子とセリーネはどういう付き合いをしてきたのだろうか。家柄だけみれば私が立場的に上だろうけど呼び捨てなのも気になる。
セリーネに関して悪い印象しかないのだが、こういう子がいるということは何か良いところもあるのだろうか。少なくとも罵倒されて喜ぶような子には見えないし……
「あ、ありがとう。でも本当にもう大丈夫だから」
「……それならよかった」
アクシアはそう言って一息ついた。そしておもむろに椅子から立ち上がるとベッドの方に歩いていく。そしてその横の机に置かれた教材に気づいてジロジロと見ていた。
やばい、流石にそれだけで記憶がないことを悟られるとは思えないが、変に探られたらバレてしまうかもしれない。
「勉強、してたの?」
「え、ええ、まあ。休んでたから、ね」
「……休んだ分勉強なんて、そんなことしてた……?」
「ぬぐっ」
バレないようにと思っていた矢先に失敗した。ど、どうしよう。
「……それに基礎の魔法関連の本ばっかり。今更セリーネが読む内容じゃ、ないよね」
「ぬぐぐっ!」
さらなる追い打ち。いよいよもって追い詰められてきた。いや、というかこの子私の様子を見に来ただけじゃないの!?
アクシアは少しだけ首を傾げた後、少し心配そうに私を見つめた。
「もしかして、何かあった……?」
その言葉はある意味本質を突いていた。セリーネではなく朝倉美幸としての私に視線が向いている気がする。
だが、私はそこで天才的な閃きを得た。
「あ、あのね、実はちょっと困ったことがあって」
アクシアはどうしたのかと心配そうにしている。何だか罪悪感もあるが、利用するつもりでは決してない。
今の私は彼女の記憶にあるセリーネでないことは申し訳ないが、このアクシアという子とも仲良くはしたいし、そのきっかけにもなるかもしれない。
だから困った風に装って話す。実際のところ困っているのは事実でもあるのだから。
「実は病気になってから魔法が上手く使えなくなっちゃって……」
このアクシアという子はベッドの横の本を見て、それが魔法に関しての本だと見抜いた。それはつまりこの子も魔法関係の事を知っている可能性が高い。
そんな私の読みに、当のアクシアはその言葉から考えるように時間を置いて、そして望み通りの言葉を言ってくれた。
「私でよければ、魔法の練習、付き合ってもいいけど……」
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