11.シスコン悪役令嬢、戸惑う
投稿時間が少し遅れました。申し訳ありませんorz
教室に入った瞬間、一気に視線が集まる。なんだろう、風邪で数日休んだ後に登校した気まずさを感じる。
ただ、その好奇の視線はすぐに別の物に切り替わった。
「セリーネ様! 病気は大丈夫だったんですか!?」
「もう具合は良いんですか!?」
「体調は大丈夫なんですか!?」
などなど、今度は転校初日のようにクラスメイトに囲まれる。ちなみに私は転校したことはないから、あくまで想像だ。
「心配を掛けてごめんなさい。もう治ったから大丈夫よ」
とりあえず、セリーネになりきったつもりで返事をする。ゲーム内でもフィアナと対峙する時以外は割と普通の(傲慢な)お嬢様だったはず。
気を付けないといけないことは、私がセリーネとしての記憶を持っていないことを気づかれることだ。ぶっちゃけると今囲んでくれているクラスメイト全員、名前も顔もわからない。ゲーム内で関わることはないし、あってもテキスト程度だとか言い方は悪いがモブだ。
(どこかに名簿とかないのかな……)
ボロが出ないように、うまく流しながら返事をしつつ自分の席を探す。ありがたいことに自然と席まで誘導するように囲んでくれたおかげで、幸運にも自分の席に辿り着くことができた。
席についてからしばらくすると、先生と思われる大人の女性が教室に入ってきた。それと殆ど同時に周りを囲んでいた生徒が少しずつ離れて元の席に戻っていく。ここまではまぁ、うまくいっている。
というより、うまくいっていた。
(うぐぐ……全くわからん!)
先生からも体調のことを尋ねられたが当たり障りのない返答をした。何でか驚いた顔をしていたような気がするが、問題なのはそこではない。
「魔法を行使することにおいて、自然との関係は切っても切れないことは皆さんとっくに学んでいると思いますが──」
そう、授業内容がてんでわからないのである。
教材に関しては教室の後ろにある個別の棚に入っており、問題はなかった。それに文字も何故か日本語で読めないわけではない。
しかし、読めることと理解できることはイコールで結ばれていない。
「ですので、単純な四元素から派生した魔法に関しては更なる技術と才能が──」
『魔法学』と呼ばれるその講義は、その名称から魔法に関する授業だとわかるが、その内容は私にはチンプンカンプンだった。
ここで一応、ゲーム内における魔法という存在を思い出しておこう。
剣と魔法のあるファンタジー世界が舞台になっていると前述したが、ゲームでもその要素は結構出てくる。
例えば、今目の前で授業しているような魔法に関してだと、この世界では一般的に魔法という概念が常識として広まっており、日本で言うと科学の部分の代わりとなっていた。
その内容は単純に火の弾を飛ばすものから、空から大きな雷を落としたりとその幅は広い。勿論、ゲームの主人公のフィアナも、そして悪役令嬢こと私、セリーネも魔法が使える。
フィアナに関しては少し複雑なので説明は後にするが、私ことセリーネの得意とする魔法は『氷』だった。
氷は水の元素魔法から派生した一つで、鋭く尖った氷塊を飛ばしたり、氷の壁を作ったりとセリーネは才能があったのか、それを変幻自在に操ることが出来た、はずだ。
それを知っている理由は、イベントの一つでセリーネと戦うからである。元がシミュレーションゲームなので、戦闘部分においてはコマンド式の簡単な物だった。それでもエフェクトや演出が凝っていたりとプレイヤーに飽きが来ないようになっていた記憶がある。
その戦闘でセリーネは氷魔法を駆使して立ち向かってくるのだ。その時は攻略対象と一緒に戦って、無事にセリーネを打ち負かせれば好感度が上がるイベントである。好感度上昇の為に倒されるのは今考えると少し可哀そうな気がする。私のことなんだけどさ。
(というか、もしかして私フィアナと戦わないといけないなんてことないよね……)
ゲームではずっとフィアナを勝手に敵視していたからそうなっただけのはずだ。まさかシナリオ通りに戦うことにならないよね……自害コマンドとかあったかな……
「……ーネ」
というか、今更だけど魔法ってどうやって使うんだろう。ゲーム画面のようにコマンドが出るわけもないし、念じれば勝手に出るのかな。
そう考えていた瞬間、咎めるような大きな声が耳を貫いた。
「セリーネ!!」
「ひゃっ、はいっ!?」
名前を呼ばれて慌てて返事をすると、先生がバッチリと私を見ていた。おー、この感じは授業中ぐっすり眠っていたことを怒られる感じだ。
「大丈夫ですか? 上の空だったようですが」
流石に先生ともなれば公爵令嬢といえども特別扱いはしないらしい。少し鋭いその口調に私は素直に頭を下げた。
「すみません、少しボーっとして……」
「……まだ病み上がりでしょうし、強くは言いませんが魔法学は今後も必要となる知識ですからしっかり聞くこと。いいですね?」
「は、はい……」
くっ、晒し者な感じが恥ずかしい。周りの生徒が少しざわついて驚いていたようだが、それもよくわからないまま、そして授業内容もよくわらかないまま、只々時間だけが過ぎて行った……
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(たはーっ、疲れたー!)
流石にセリーネお嬢様として変な言葉遣いは避けようと思っているため、授業の疲れに対する言葉は心の中だけで留めておいた。
結局、それからの授業もひどいものだった。魔法学もだが、その後に続いた国の歴史だとか、後は貴族特有の礼儀作法に関する講義もひどいものだった。
何と言い表せばいいのだろう。いきなり説明なしに聞いたこともない国に留学したような感じだろうか。
しかし、何とか乗り越えることは出来た。授業中質問が飛んでこないことをひたすらに祈り続け、出来るだけ先生と目を合わせないように努力した甲斐があったものだ。
そして午前の授業が終わり、漸く昼休みになったのである。
「セリーネ様、食堂に行きましょう! 場所は取ってあるので!」
その時間になった瞬間、私はクラスメイトに囲まれていた。これが取り巻きなのだろうか……いや、昼食を一緒に食べたいだけだろう。流石に何でもかんでも取り巻き認定は何だか自意識過剰な気がする。
しかし、どっちにしろ申し訳ないが今の私はクラスメイトの期待に応えることはできない。
「ごめんなさい、今日は予定があるの」
私はそうさっぱりと答えると呼び止められる前に教室を出た。目指すは中等部の棟。
そう、フィアナのいる教室だ。
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