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1.シスコン悪役令嬢、目覚める

新連載です。悪役令嬢が題材ですがゆったりゆるふわな作品に仕上がる予定です。

どうぞよろしくお願いします!

 私、朝倉美幸(あさくらみゆ)は高校二年生の極めて一般的な普通の女子高生だ。


「あなた! セリーネが目を覚ましたわ!」


 だったはずだよね……?


「おお……よかった……本当によかった」


 そのはずなのに、自分が寝ている一人用としては明らかに大きすぎるフワフワのベッドだとか、豪華で煌めているシャンデリアが飾られている天井、無駄に装飾の凝った窓などという映画や漫画でしか見たことのないような部屋にいるのは何故だろう。


「こ、ここは……?」


 そして私を見つめる二人の姿にだって当然見覚えがない。その二人は中年の人のよさそうな男性と女性で、見た感じ上質で動きにくそうな服を着ていた。


「すぐに控えている医者を呼んでくれ!」


「は、はい!」


 男の方が後ろにいたメイドに指示を出す。というかメイド!?


「っ……!?」


 思わず部屋から出て行くメイドさんを見ようとして起きあがろうとした私は、しかし強烈な頭痛に襲われた。


「だ、大丈夫か!? 病み上がりなんだからまだ寝ていなさい!」


 その思わぬ痛みに頭を抱えて再びベッドに沈むと男が慌てて口を開いた。


「病み、上がり……?」


「そうよ……三日間も高熱にうなされていたの。覚えてない?」


 高熱? あ、そうだ確か私風邪を引いて家で寝込んでいたんだっけ。


 ん?


「ああ、でもよかった。このまま目覚めないんじゃないかって本当に心配だったんだから」


 何かおかしい。何で私はこの光景に既視感があるんだろう。


「ご、ごめんなさいお母様、お父様も……心配を掛けてしまって」


 スラっと勝手に言葉が紡がれる。どうして私はこの知らない人達が()()()()()()()だってわかるのだろうか。


 何が何だかわからない。私は何だかボーっとする頭を混乱させたまま、ただ心配そうに眺めている彼らと目を合わせていた。


 そして気づく。心配そうにしている彼らの後ろにもう一つ小さな影があることに。


 その瞬間、全てがハッキリとした。


「あ、あの、セリーネ様……」


 例え光がなくても輝きそうなショートの金髪を持つ少女が不安そうに瞳を震わせながら私を見つめていた。


(ああ!? フィアナ!?)


 その彼女を見て、私はここがとある恋愛ゲームの世界だということを認識したのである。



#####



 『恋愛には一輪の花を添えて』


 略して「一輪の花」と呼ばれるそれは、ここ最近発売された基本に忠実な王道を謳った乙女ゲームのタイトルだ。

 主人公であるヒロインのフィアナ。彼女は親を病気で無くして失意の元、縁のあった貴族に引き取られる。というところから物語は始まり、貴族だけが通える学園に唐突に通うことになってそこで四苦八苦しながらも最後は素敵な相手と結ばれるという流れは普通の乙女ゲームだ。


 主人公の名前は前述の通りフィアナ。素直で誠実、しかし少し臆病というまあ庇護欲を掻き立てるキャラクターである。攻略対象もそれなりに多いのだが何よりも今問題なのは彼女を敵と見ている「悪役令嬢」と呼ばれる人物だ。


 セリーネ。フィアナと同じ髪色だが、彼女のそれが優しく淡い金髪なのに対して、セリーネのそれは夜に輝きを増す鋭さを持つような色だった。ついでいうなら腰ほどまで伸びている。現実でいうなら長い部類だろう。


 彼女は突然家に迎えられたフィアナに対してかなり攻撃的に振る舞う。引き取られた結果義理の妹の様な身分になった彼女に対して、ことあるごとにバカにしたり無視をしたり、とにもかくにも嫌がらせをする。

 ここまで言えばわかるだろうが、ゲームでの主人公フィアナにとって障害となるのが彼女──悪役令嬢セリーネなのである。


 そして今、私はそのセリーネなのだ! なんで!?


「意識もハッキリ戻りましたし、まだ疲弊の色が見えますがもう大丈夫でしょう」


「ああ、本当によかった……お前が助からなかったらどうしようかと……」


 頭のなかでこんがらがった太い糸のような情報を引きちぎったりしながら無理矢理整理して

いたら、若い男の声がしてハッと意識を戻す。


「では、私はこれで。また何かありましたらすぐお呼びください」


「ありがとう。やはり貴方に頼んで正解だったよ」


 父の言葉にその男は律儀に礼をして部屋を出ていく。その時、彼はチラリとフィアナを見た。


 私は知っている。彼も攻略対象の一人である男だと。この時フィアナの姿を見て少しだけ興味を持ったのがきっかけだったはず。


(いや、今はそんなこと考えている場合じゃない!)


 手で髪を掴んで前に流してみる。すると視界に映るのは普通の黒髪ではなく輝く金髪。

 そして鏡……は近くになかったので大きな窓に反射している自分の姿を見た。


「やっぱり……セリーネ……」


 よりにもよって私は妹を虐めに虐める悪役令嬢になっていたのだった。



#####



 唐突だが私は妹が好きだ。ただ本当の家族としての妹はいないので厳密には妹属性が好きなのだと思う。


 ドラマや映画、アニメから漫画までとにかく妹が可愛い作品が好きで好きでしょうがなかった。

 そのおかげで子供の頃、何も知らない私は両親に何度も「妹が欲しい!」と駄々を捏ねては困らせていた。その意味がわかる今となってはひたすら申し訳ない気持ちなのだが、結局私に可愛い妹が出来ることはなかった。


 そんな性格を極限まで拗らせた私はモニター越しに理想を見つけた。それがフィアナだ。

 性格は前述した通り、容姿もまだ幼さが残る感じでセリーネの四つ下の彼女は妹感はマックスどころかメーターを振りきっている。

 元々妹萌えの身分としては姉としてプレイできるゲームを好んでいたが、フィアナがあまりにも理想像過ぎて、義理だとはいえ姉がいるという妹属性を過敏に感じた私はこのゲームを手に取ったのだ。


 そして、何故か肉眼で見ることは叶わないはずの天使がいる。目の前にっ!


「…………」


「あ、えっと……」


 は、つい見つめすぎた。だって普通に可愛いんだもん。妹補正を除いてもその可愛らしさはかなり秀でたものだ。姉のセリーネは可愛いというより美人だったから対比すれば益々目立つはず。


「それじゃ安静にしておくように。私たちは一度出るが何かあったらすぐ呼ぶんだぞ」


「は、はい」


 一瞬、私の返事に父は「おっ?」と不思議な物を見るような表情になったようだが、すぐにそれを消した。


「さ、行こう」


「ええ、セリーネ。安静にしてるのよ」


 母はそういってセリーネの額に軽いキスを落とす。もしかしてこれ、フィアナからも何かあるんじゃないの!?


「さあ、フィアナも行くぞ」


「っ、はい……」


 お父様ー!? 待って、何かあったかもしれないのにっ!


という心の声を出すわけにもいかず結局フィアナとは一言も話すことなく別れてしまった。悲しいなぁ。


「……ふふ、ふふふ」


 しかし、私は不敵に笑う。


 何故セリーネになっているのかはわからない。これは夢かもしれないしそうじゃないかもしれない。


 だが、そんなこと今は関係ない!


(フィアナ! ああ、まさか憧れの妹が出来るなんて!)


 しかも理想としていたタイプの妹だ。これを可愛がらずして何が妹萌えか。


(とりあえずどうしよう! 明日会ったら何を話してみようかしら! どんなお姉ちゃんが好き? とか聞いちゃったりして、きゃー!)


 脳内を溢れんばかりのお花畑で一杯にしながら、しかし私は固まった。


「待てよ……何か大事なことを忘れているような…………ああーっ!」


 そして私はわかりきっていたことを口に出す。


「私、悪役令嬢じゃん!?」


 その声に反応して慌ててメイドが飛んできて、弁解するのが大変だった。


ブックマークや評価、感想など頂けると嬉しいです。

今日は3話まで投稿予定ですので、良かったら続きもよろしくお願いします!

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