4.研究
今、{ダンジョン}の第一層にいる。ここにはモンスターが一切おらず、家まで建ててある。ここで暮らすことになるのは必然だった。
第二層からはモンスターが出現し、第三層、第四層と上に行けば行くほど、強いモンスターが現れる。
モンスターを倒すと、青い粒子に変わって、経験値となって取り込まれると共に、アイテムをドロップする。
ここまではすでに神さまから聞いている。
あとはもっとじっくり詳細を確認する必要がある。そこに情報があるのに、わざわざ危険を冒しにいくのはバカである。
というわけで現在、第一層の家にて、資料を読み込んでいる。
俺と茜で分担し、お互いにあとでまとめて教え合う。
俺は、速読などは得意だし、分析力もある方だと思っているが、茜には敵わない。茜のそれはもはや天性だ。
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2日が経過した。
最低限の保存食はもとから冷蔵庫に入っていたので、それを食べて過ごしていた。食べる、寝るの時間はほとんど削り、ずっと資料を読んでいた。
はっきりいって、こんなに慌てる必要はないと思っている。それでもこんなに魂をつめてやっている理由は、ひとえに楽しいからである。
こっちで過ごせば過ごすほど、あれは夢ではなく、現実であったということが実感できるからだ。
退屈だったあの世界から、転移させられた。それは俺たちにとって、幸運以外のなにものでもなかったのだ。
やっと読み終わった。
読めば読むほど、この世界は深い。この分厚い資料でも、まだ全然足りない。それでも、一応基礎は全部理解出来たはずだ。
「どれにする?」
おれは何の脈略もなく聞いた。
「アレしかないよね〜」
茜はたったこれだけで俺の言いたいことを分かってくれる。さすがだ。
今話しているのは、神様がひとつだけ選んでいいと言った、ユニークスキルの話である。
ユニークスキル、その数1万。
これだけあると、迷う。
たしかに迷うのだが、俺たちにぴったりなのはアレしかない。
【隠蔽】
いかなることがあっても、本来のステータスを確認されない。望んだステータスに偽装できる。また、スキルや魔力なども隠すことができる。さらに、【変装】スキルをしようしている際に、その【変装】がバレなくなる。
これが、俺たちが選ぶスキルである。
このスキル、、、実力面で考えると、何一つプラスにならない。実力を隠すことだけに全てを賭けたようなスキルだ。
それでも俺と茜はこれを選ぶ。
理由もちゃんとある。もちろん、目立ちたくないことは前にも言った通りだ。しかし、それ以上に、危険を回避するため、というのがメインの理由だ。
例えば、よくあるバトル漫画。主人公は、最初のうちは弱い敵と当たり、だんだんと強い敵と戦うようになり、最後にはラスボスを倒す。
俺から言わせれば、ご都合主義にも程がある。
たった一回、主人公が、戦う敵の順序が逆になっただけでゲームオーバーである。部が悪すぎる運ゲーだ。
それだけでは無い。例えばラスボスが魔王だとしよう。曲がりなりにも、上の立場で魔物や魔族を従える存在。馬鹿では務まらない。
自分たちを苦しめるくらい強くなりそうな奴を見つけたらどうするか。そんなのは分かりきっている。強くなる前に殺す。
つまりだ。せっかく頑張って強くなり、人脈を作り、チヤホヤされ、期待されたところで、強力な力を持ったその時点でそいつは詰んでいるのである。
したがって、俺たちは二人とも【隠蔽】を選ぶ。余裕で身を守れるくらい強くなり、、、いや、どうせなら最強レベルまで強くなってから、茜と一緒にのんびり暮らす。
さて、もらうユニークスキルも決まったことだし、早速明日から冒険に行こうか。最低限の武器はここにある。
そして、寝不足な俺たちは、満足気に頷き合い、そのまま眠りに落ちた。