メイド姉妹
上空から見ると少しくぼんだ草原いっぱいにマジン達が円形に集まっていた。
「戦闘タイプだけじゃなく色んなタイプのマジンが混ざってるなぁ。調理、事務、工場、農業エトセトラ」
ケイたちは円の端の方に集まっていた、そこへ舞い降りる。
「おつ、やっと来たな勇者ミーナ」
「そんなに遅いんじゃ飛んでる意味ないじゃない」
「えっ、あんたがあの有名な勇者の機体かい?」
いきなり農業用のマジンが声を掛けて来た。
「有名!? そんなに私有名なの?」
「おいマジかよ、有名にならないわけないだろ、なんせ数百年前の機体で最新鋭機をバッタバッタと切り倒してるんだから」
「それはー、それは操縦者の腕がいいからでー、ん?」
「ニャア!」
タマが何かを警戒するように鳴いた、パネルも何もない所を見つめている。これはー。
「おいミーナ、どうしたんー」
バシッ!
ん? 今何かを弾いた様なー、か、体が、動かない! 声も出ない。
今まで喋っていたケイと農業用を見ると二体とも動きを止めていた、いや意識を失ってるみたい、いつも点灯している目のライトが消えている。
これはー、メインの仕業ー。なぜメインがこんな事を。
突然私のコアの中に声が響く。
「あら? 意識がそのままの機体があるわよ助手君」
「ちょっと待って下さい博士、そんなはずわー、あ、ホントだ命令が弾かれてます」
博士? この声どこかでー。
「ねえあんた、なんで気絶しないの? 命令したはずよ五十年ほど気絶しなさいって」
あ、あなたはメイン、メインですね?
「ちょっとぉ、質問しているのはこっちなんだけどなぁ」
「博士、このナンバーは初めて固定化に成功した魂です」
「まあ! 覚えてる? 久しぶりねぇ。覚えてないの? あの時は色々お話ししたじゃなぁい」
え……。
「残念ながら記録されてないみたいです博士」
「あら、本当に残念ね。で、メインからの最初の質問よ答えなさい、あなたはなぜ機能を停止しないの」
グッ、……私はー(ダメ、あの時アリスちゃんと約束したのに)わ、私は以前ある女性と接触しました。その時から私のコアは色んな物を弾くようになりました。
「凄いわ! あなた神族に会ったのね!?」
ううっ、話しちゃった。でもそんな事より、なぜこんな事をするのか聞かせて下さい。
「いいわ教えましょう。でもその代り神についてもっと話しなさい」
……いやです。
「そう、やっぱり口止めされているのね。あたしの権限ではこれが精いっぱいか、いいわ教えてあげる」
「博士、僕から説明してもよろしいですか?」
「あ、そうね助手君に任せた」
「はい、ありがとうございます。では、えーと名前変わったんだっけ?」
み、ミーナです。
「うん、ではミーナ、今回の事は君たちを守る為なのさ」
私達を守る?
「そう、今回の人造人間は強い、メッチャつおい。だから君たちには機能を停止してもらった。以上」
ふ、ふざけないで!!
「あー、別にふざけてないのよ。神の事をもっと話してくれればこっちももっと話したんだけどね」
グッ……。
「まあ、落ち着いたら回覧板回すから、五十年ほど暇するかもしれないけど頑張って。じゃ」
えっ、待って、切らないで! 待てよコラァ!! どぎゃんすと! 待たんねー……、待てってゆーとろーが、きさあぁー! こん、どあほがぁ!
私の胸の奥でー、胸は無いんだけど、兎に角何かが弾けた。
「博士! 未知のエネルギーが増大しています、このままではーグワッ!」
向うで何か爆発したみたい、よしいいぞ、なんだか力が胸の奥から湧き上がってくる! 動ける、ユーヤを助けに行ける!
「慌てないの助手君、への三十二番、コード注入! 続いてホの二番!」
んーーー! 私は一歩踏み出し翼を広げる。あ、あれ? 力が、吸い取られていくー。ああ、何これ。あぁイヤ、止めて! ユーヤを助けに行くのぉ……。
グッ、ーくそ~! こんくらいでー! 私をなめるなぁぁ!!
「ああっ、博士ダメです一度下がったのに、そんな」
「ミーナ! 殺すわよ」
やれる物ならやってみないよ、私はそう簡単にはー。
「いいえ、ユーヤを殺すわよ」
! なんで、ユーヤを。
「そう、あなたの好きなユーヤを、ここで引き下がるなら守ってあげる」
そんな、信用できない。
「出力低下。いやぁ~、どうなる事かと博士」
「ふう、そうね準備してて良かったわ。今度こそさよならよ、でも又きっと会えるわ。その時を楽しみにしてるわね」
クッ、ああユーヤ、ユーヤは無事なの? ユーヤー。メッチャつおい、てえ人類だけで勝てる相手なの? マジン抜きで勝てる相手なの? あぁユーヤ無事でいて。
数日が過ぎ、私は落ち着きを取り戻した。
方法を、何か動ける方法があるはず。それを落ち着いて考えようとした時、人が現れた、それも百人ほど。
皆ボロボロで兵隊の中に民間人も混じって、女子供も見て取れる。
私達マジンを見つけた兵たちは喜び、ヨロヨロと走り寄り私達に話しかけた。民間人もこちらへと歩いてくる。
この部隊はユーヤの部隊じゃない。ねえユーヤ部隊、五群の第二十一隊知らない? ああ、声が出ない、話しかけられても私以外のマジンは機能停止しているから無理だよぉ。
そんな蹴ったり銃で叩いたりしないで、なに焦ってるの? 追われてる? すぐそこまで来てるって何が? 兵隊たちは民間人をマジンが立ち並ぶ中心へと誘導した、私達を盾にする気らしい。
その時、スプレー缶みたいなのが転がって来た。あ、これもしかするとー。
その缶から勢いよくガスが噴き出した、ガス弾だ! 兵たちは慌ててガスマスクを装着するが民間人はバタバタと倒れて行く。子供にマスクを着けようとした兵もサイズが合わなかったのでー。
ガス手榴弾が転がって来た方を見ると丘の上に立っている四人のメイドがいた。
えっ、あの四人がメッチャンコつおい人造人間? だとしたら何でメイド?
メイドには詳しくないので、まあ見た目だけだでメイドと判断している。正式なメイドの服装ではないかもしれない、一人はミニスカートだからね。
ガスマスクを着けた兵が銃を向けるがなぜか発砲しない、相手は的の様にただ立ってるだけなのに。
兵隊たちが発砲しないのでメイド達が動き出した、こちらへと走って来る。
先頭は身を低くして走って来るのはポニーテールの女の子、腰の刀を両手で押さえてる。抜刀と共に相手を斬る構えだ。
兵たちはそれを見てとうとう逃げ出してしまった、何をやってんだか。もしかして可愛いから撃てないの?
クララの次に走って来るのは長い赤髪を靡かせ背中に大きなライフルを背負ったメガネの女性、両手に拳銃を持ってる。
その後ろを走るのが四角いサブマシンガンを胸に抱いて走る三つ編みの少女。魔法のバトンとか持たせたら変身してしまいそうね。
最後はー、うわ! えらくワイルドで背の高いメイドね。遠目でもわかる筋肉、これまた両手に手榴弾を握っている。
バタバタバタ、キ―――ン!
こ、この爆音はー、戦闘ヘリ! 二機の戦闘ヘリが低空で侵入して来た。兵隊達が歓声を上げる。
戦闘ヘリはメイド達の上空を一度通り過ぎた、そして大きくUターンして又戻ってこようとしていた。あー、あのヘリとか言うのにはこの間痛い目にあったなぁ。
ヘリのバルカン砲がメイド達に狙いを定めるのが見えた、何を考えているのかメイド達は立ち止まりボーッとヘリを見ている。一直線に並んでいるのでこれではいい的なのに。
あれ? 兵隊たちが何かを叫んでいる、撃つな、火を使え? 何をー。
ブ―――――――!
ヘリのバルカン砲がブザーの様な音を立てて火を噴いた、弾頭は徹甲通常曳光弾を程よくブレンドされている、狙いは違わず二十ミリの弾丸がメイド達を一直線に貫く。
砂埃が濛々と立ち込めメイド達が見えなくなる。
兵隊たちは喜ぶかと思ったのだけど、何かを諦めたように座り込む者やヨロヨロとこの場から逃げ出そうとしていた。
砂埃が治まるとやはりそこには真っ赤な血に染まったバラバラなメイド達の死体がー、いや、ちょっと待って。
泡がー、白い泡がうごめいてー、人の形になって行く。
胴体を真っ二つにされた筋肉質の女性は、それぞれ下半身と上半身が泡で成形され何もなかったように立ち上がる。もちろん二人に増えて。
頭や両腕両足を吹き飛ばされた三つ編みの少女はー、六人に増えた! それも三頭身で体が再生されている。
メガネで両手拳銃の女性と刀を持ったポニーテールの女の子は木端微塵になっていたのにー、指や足首から二頭身でそこら中からニョキニョキと生えてくる!
武器も頭身に合わせた大きさで再生されていた。
こ、これはー、反則だ! ……でも、二頭身・・・・・・バリかわいかねぇ。
あっ、上空のヘリがー。
距離を取るべく上昇に移ったヘリに攻撃が集中した。
一番命中したのが三つ編みの少女が放つサブマシンガンだった、二機の戦闘ヘリは穴だらけになり爆散してしまった、小口径なのに凄い威力。
増えたと言うより増殖したメイド達はその後、数十人残っていた兵隊達をサクッと私達マジンを傷付けずに皆殺しにして立ち去ってしまった。
やっぱりメインと契約してるの?。
それから五十年、私は草原に立ち続けた。
三十年が過ぎた頃から、私はなぜかタマ以外の精霊とか幽霊等と話すことが出来る様になっていた。それまでずっとタマが話し相手だったの。
そう、実際にタマがしゃべり出したの、それも人間のように後ろ足だけで立ち上がり。
以前から意思の疎通はできてたけど、まさかしゃべるとは思わなかった。
そしてその第一声がー「思い出したわ、アタイはー」だった。良く見るとシッポが二股に分かれてる。
どうやら猫又に進化したから喋れるようになったのね。今まで実態を持たない半透明な存在だったけど、確りと実体化している。
何十年も立ったまま動けないのは苦痛だった。
その苦痛からもタマは私を守ってくれた、それに良くない者が近づくのを防いでくれたの。
ツタが私達に絡みつき枯れてまた絡み付く、それを何回も繰り返してようやく動けるようになった。
皆の意識が戻り、パニックになりつつもそれぞれの居場所に帰って行く。
私も精霊と別れ所属している基地へと急いだがー、そこは廃墟になっていた。
そこかしこに八頭身や三頭身、二頭身のメイドが人を探している。
基地内には人の死骸や霊も居ないので早々にこの基地は放棄されたのかな。
だとしたらまだユーヤは生きている可能性がある、きっとお爺ちゃんになっているけど……。
突然空が暗くなり、空から「回覧板」と書かれた紙が雪の様に降って来た。内容を読むと次の様な文章が書かれていた。
一、マジンはメイドへの攻撃を一切厳禁とする。
二、国は無くなったので戦闘タイプのマジンは違う職業を見つけ働く事。
三、人を見つけたら速やかにメイドに知らせる事。
四、働かないニートマジンにはエネルギーボールを支給しない。
ぶっちゃけ人に見切りを付けたんで、そこんとこ宜しく。
その他
メイド達は四人一組で……。
「説明になってない! 何ねこれは! こげんもんはこうしてくれるっ!」
私は降り積もった回覧板に背中の剣を抜き何度も叩きつけた。
「落ち着くニャ、ここは直ぐにでも行動あるのみニャ」
タマが操縦席で立ち上がり右手? 右前足を振り上げて叫んだ。
「えっ、行動? 私どうすればー」
「ユーヤを探すニャ、そしてメイドからユーヤを守るにゃ!」
そうだ、まだユーヤは生きている、絶対。
「ありがとうタマ、私ユーヤを見つける」
私は基地に残っていたエネルギーボールをかき集め、ユーヤを探す旅に出た。
何体かのマジンが一緒に行くと申し出たが最悪皆でエネルギー切れになる可能性があるので遠慮してもらった。
探してみて分かった事だが、寒い土地ほど戦闘の跡が新しい。もしかしたらメイド達は寒いのが苦手なのかもしれない。
それに寒い所に居るメイドは総じて変なのよ、私の所へトコトコと走り寄って来て指を指して。
「ねえ、あなた虫みたい」と言って笑う。
あのどんな時でも無表情なメイド達が……。しかしメイドはとても失礼な奴らだ、私を虫だなんて。
もしかしたらメイド達の髪の色が関係しているのかも、寒い所に行くにつれ赤い髪に青い物が混ざっていった。
ある日冬山の頂上を目指していた時、雪の中で信じられない物を見た。
なんと、メイド同士で戦っている!
方やモコモコの防寒着を着た赤髪のフローネとクララ、方や青い髪のアンとペリーヌ。
多分双方とも足とか指から再生したのだろう、フローネは三頭身でクララは二頭身、そしてアンとペリーヌは双方三頭身。
四人とも雪を物ともせず高速で走り回り、跳躍してー、ん? アンとペリーヌは相手の防寒着をはぎ取ろうとしているみたい。
フローネとクララは防寒着を着ているせいで動きが悪い、それにクララは武器が手榴弾だから接近戦には不向きみたい、トンファーを振り回しても手足が短いので全然当たらない。
フローネが持つマシンガンがアンの左腕を吹き飛ばした、だけどあれでは敵を増やすばかりー、あれ? 増えないや、吹き飛ばされた左手は白い泡となって消えてしまった。
青い髪になると再生できないの?
一瞬動きを止めたアンとペリーヌに対してクララが手榴弾を投げつけー、爆発、しかし二人はその爆風に乗って一気にクララへと接近してペリーヌが刀でクララの防寒服を切った。
ガッツポーズをするペリーヌ、バラバラに切られた防寒着が雪と一緒に風に舞うとクララの髪の毛が一瞬のうちに赤から青に変わる。
それを見たフローネは不利を悟ったのか連射をしながら私が居る崖の方へと走って来る、そして二百メートルはあろうかという崖下へと自ら滑り落ちた。
私が慌てて崖下を覗き込むと赤い髪が雪の中へと消えて行った。
振り返り残ったメイド達を見ると、まるで長年別れ別れになっていた姉妹が再開した様に三人で抱き合っていた。
やはり青い髪になると感情が芽生えるらしい、私がゆっくりと近づくと片腕になっアンが立ち上り二人に何かを言うと物凄い速さで山頂の方へと走り出した、ペリーヌとクララもその後を追う。
もしかしたら彼女らが向かう場所に人間が、ユーヤが居るのかも、到底追いつける速さではなかったが私は彼女、メイド達を追ったの。
そしてとうとうエネルギーが尽きてしまった。
「タマごめん、エネルギーのこと考え無しだったね」
「まったくニャ、猫は寒いのが苦手にゃ。でも仕方無いニャ、どれ待ってるニャ、マジンを連れてくるニャ」
タマは吹雪の中に消えて言った、白猫だから直ぐに分かんなくなるった。
雪に埋もれて動けなくなっている所を、タマが同じく操縦者を探していたマリを連れてきて助けられた。
私は諦めない、仕事をしてエネルギーボールを買い、再びユーヤを探すんだ!
問題の仕事だが、ふと浮かんだのが今まで私の上を通り過ぎて行った操縦者の物語を書く事だった。
今まで結構変わった操縦者が多かったし、何よりマジンの皆が人を忘れないように。