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復活の時  作者: 第三群二十一隊
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異変


 ハッキリ言ってユーヤは天才だった、今まで私に乗って来た操縦者の中ではトップクラス。

 旧型で特殊な私を自由に、かつ変幻自在に乗りこなす。こんなに楽しいのは初めてよ! 


「ユーヤ、二時方向三百メートル、熱源三」


「了解」


 濃いジャングルの中私は移動を中止して地に伏せる。コントロールパネルの上にタマが陣取り私のセンサーに掛からない罠を教えてくれる。


「クレイモアと引っ掛け式の手榴弾が十二時に二つ、あと三時にも一つ。だつて。回り込める? ユーヤ」


「楽勝だよミーナ、密林でバイストン型に適う敵は居ないさ。頭上警戒宜しく!」


「分かったわ、B中隊が囮になってくれるって。後でお礼しなくっちゃね。居た、熱源探知! ユーヤ」


「了解ミーナ」


 私は虫の様にジャングルと一体となり、敵を駆逐していく。ジャングルの中での接近戦で私に傷を付ける敵は無い!


 私とユーヤが所属するガルリア帝国は千年前世界を統一していたのだけど、反乱が起きて大半の領地を失っていた。そして中小の国家が乱立するようになるのだが、その中の一つ「ミルツーク王国」が力を持ち、小さな国を統合して現在帝国と戦っているの。


 一年後。

 私とユーヤは近接戦闘を主とする部隊に配属され幾多の戦場を走り、切り開いた。が、敵の遠距離攻撃で痛い目にもあった。

 私の部品はとっくの昔に製造はされてないのだけど、これもアリスちゃんのせい、いやおかげなのか中々壊れない。壊れても半日もしないうちに元に戻ってしまうの、剣はどんなに硬い物を切っても刃こぼれすらしない。

以前ためしに基地代わりにしている城のぶ厚い鉄の扉を切ったところ、まるてお豆腐の様に切れてしまった。あれ? 豆腐ってなんだったっけ。ま、その後すんごく怒られたけど、それぐらい凄い切れ味だったのよ。だけど「コンニャクと女の柔肌だけは切れない」らしい。

 んで、今私達は夜間の奇襲作戦で敵の拠点を破壊した後山の中腹にある自分達の基地に帰還して、少しずつゆっくりと明るくなる方の空を見ながら朝日が顔を覗かせるのを待っているの。


「ねえユーヤ」


「うん……、そうだね」


 フフッ、もう私とユーヤは語らなくても意思の疎通ができてるの。


「そうだね、お腹すいたね」


 ち、違うー!

 私はガキョン! と膝を着き、ついでに両手も着いてしまう。


「わ! わわっ、どうしたのさミーナ」


 その時、基地内に警報が鳴り響いた。


「ミーナ、敵襲だ」


「いいえ、この警報は警戒警報よ。ユーヤ司令室にアクセスして」


 私には無線が無いので司令部と交信できない、ああ、以前は手旗と発光信号だったなぁ。 

 私は四つん這いのまま操縦室の装甲扉を開けた。


「うん、待ってて」


 ユーヤは一回転して着地、格納庫にある司令部に繋がっている端末へ向かう。うん、カッコいいよユーヤ。でもこの体制で操縦士を降ろすと次の出撃で撃破されそうな気がするのはなぜだろう。

 ユーヤが端末を操作すると警報の情報が記入された用紙が出力された、それを切り取り私の所に走って来る。


「大変だミーナ、生物兵器だって」


 生物兵器、今世代ロボット技術が衰退したことにより生体強化が進んでいた。バイオテクノロジーとか言っていたっけ、強化された体は普通の人の数十倍の速さや力を持っていた。

 しかし、まだ問題があり実践には投入されない。と聞いていたのだけど……。


 ユーヤが用紙を読み上げる。

「トーリア地方の国境付近で、正体不明の人型生物兵器が大量に発生した。現在第三群が交戦中、各自フル装備で格納庫待機せよ。うえ~、さっき戻ったばっかなのに」


「トーリアね、ここから二千キロぐらい離れてるね」


「正体不明の人型兵器って、何かな?」


「トーリアは商業国家フェゾーンと国境を接してましたね、確かにあそこは生体兵器の研究が盛んだと聞いてたけど……」


 夕日が空を染める頃、いきなり旧ゼラス現メインからの指令をコアで受信した。

 ビックリした、受信したのは国に配属された時以来だったわ。対象が全てのマジンになってる、これはー。


「ンガ、どうしたのミーナ、敵?」


 操縦室でよだれを垂らして寝ていたユーヤが目を覚まし、私に慌てて問いかける。もー!


「いえ、私達マジンだけでの作戦みたい。全てのマジンは人を乗せずに指定の座標へ集まる事、だそうよ」


 きっと謎の生物兵器は人に感染する何かを使っているんだわ、だから人を乗せないのね。

 お尻が……、痒くなるけど仕方ない、我慢しよう。


「ユーヤ、そういう訳で暫くお別れよ。下りて」


「そんな! 命令はここで待機のはずだよ」


「いえ、これはマジンを統括するメインからの指令よ。何より優先されるの」


 格納庫の扉から外を見ると既に土ぼこりを上げて他のマジン達が移動を開始していた。


「おーい勇者、先に行くぜぇ。あーチキショウもう痒くなってきた」


 私をマジン達は勇者と呼ぶのよね、もう数百年も立つのにシツコイ! 


「もー、ケイったらー。ミーナ、遅れずに付いて来るのよー」


 ボトム型に変わっている親友のケイとキーンが先に行ってしまった、足に付いている小さな車輪で地上を高速で走って行く。

 黒光りする機体で高速で走られると、まるでーゴキ……、止めておこう。

 私は早く走れないが飛ぶことができるので、なんとか付いて行くことが出来るだろう。

 指定された場所がトーリアから少し離れているのが気になるが。


「ミーナ、ホントに直ぐ帰って来る?」


 ユーヤは操縦席から下りて不安そうな顔で私を見上げる。

 すると待ってたかのように空になった操縦席にタマが現れた、タマは夜間の戦闘中いつもコントロールパネルの前に陣取り、私が関知しきれなかった敵や罠を鳴いて教えてくれる。昼間は姿を消している。

 私としては格納庫に残してきた猫たちを見守ってほしかったのだけど。

 おっと、今はユーヤだ。私はユーヤを守りたいと思う。いいな、いいなこの感情、守りたい者が存在する。もしかしたら感情に酔っているのかも知れないけど、兎に角私はユーヤを守りたい!


「私が欲しかったのはー、これだったのかも……」


 私は格納庫を出て夕日に染まった空を見る。ユーヤが後ろを付いてくる。


「え、なにミーナ。欲しかった?」


 私は振り向きユーヤの前に片膝を着く。


「私はずっと前からユーヤみたいな子を探していたの」


「な、なんだよ、気持ち悪いよミーナ」


 フフッ、赤くなった。今度女の子の姿で言ってあげるわね。


「じゃ、下がって、離陸するわ」


 私が立ち上がるとユーヤは後ずさる。


「うん、気を付けて、早く帰って来てよ。又村の皆の所へ遊びに行こう」


「ええ、必ず」


 ユーヤは後ろで纏めた赤い髪を揺らしながら格納庫へ走って行った。

 ……これが私が見たユーヤの最後の姿だった。

 私はコンバーターと羽を広げ、助走をつけて空へ舞い上がる。

 空には星が瞬き始めていた。

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