アリス
アタシはアマノアリスノヒメ。本名村田愛梨。
アタシはお兄ちゃん子だった、小さい頃から二つ上の兄の後ろばかりを付いて回っていた。
兄は昔で言うガキ大将で、でもジ〇イアンみたいなのではなくSランク冒険者のチームリーダー的存在だった。そう、あの頃アタシたちの周りには駆け回れる山があり泳げる川があった。
当然の様にアタシは兄の仲間達と一緒に夏は川で泳ぎ、冬は立ち入り禁止の防空壕に秘密基地を作って遊びまわった。始めは女の子も居たのだけど何時の間にか女の子はアタシ一人だけになつて……、でもそんな事はかまわない、兄は何時もアタシを見ていてくれた、川で溺れかけた時も直ぐに手を引っ張って助けてくれたの。
当然兄の仲間は男の子ばかりで話題になるのはアニメや漫画の事ばかり、アタシは話に付いて行きたくて一生懸命よく分からない物語を勉強したの。まだ小学低学年だったので難しい漢字やローマ字には苦労したわ。お父さんのパソコンを使って色々裏話を集めて披露したら皆流石はケンジの妹だ、と言って褒めてくれたの、嬉しかった。あの時漫画やアニメには原作小説があるって知ってアタシは……のめり込んでしまったの。でも後悔はしてないわ。
そしてー……、そしてある夜の事。アタシは一人では眠れない怖がりな女の子だった。いつもの様に兄の布団に忍び込みお兄ちゃんの背中にソーッと抱き付く。
お兄ちゃん起きてるかなぁ、もう寝てるよね?
アタシがピトッ、と抱き着くと、お兄ちゃんはまだ眠ってはいなかった。
「ウッ、また愛梨か。いい加減一人で寝ろよ」
お兄ちゃんは背中を向けたまま体を揺らしアタシの手を振りほどこうとする。
「えっ、だって……、怖いもん」(必殺! ウルウル瞳)
お兄ちゃんはアタシの方へ寝返りを打つと。
「し、仕方ないな、じ、じゃあここなら握っててもいいぞ」
お兄ちゃんはアタシの手を取り、自分の股間へー。
「ここならいいの? ありがとうお兄ちゃん。でもこれなに? 固いね、足じゃないよね?」
お兄ちゃんはなぜか息を荒くして。
「ウクッ、ハァハァ。さ、三本目の足ー、かな」
「へえ、凄い! お兄ちゃん足が三本あるんだ」
「ああ、じ、じゃあお休み愛梨」
「うん、これで眠れるよ……」
翌日からお兄ちゃんは何故かアタシと距離をとるようになった、布団にも絶対に入らせてくれない。
それにいつの間にやらアタシは秘密基地に出入り禁止となり、一緒に遊んでた男の子たちはアタシが近づくと皆蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
なんで!? アタシなにかしたの? どうして逃げるの? ほ、ほらこの漫画の主人公実はー、ちょっと待ってー!
だれも聞いてくれない、答えてくれない。……アタシは一人? そんな! 今更女の子と人形遊びなんかできないよ、あ、フィギア造りなら興味あるけど。
アタシはこの時からいっそうラノベの世界に浸っていくこととなる。
そして何年か過ぎ、防空壕はコンクリで塞がれ、良く泳いでいた川の上流に団地ができてしまい……、この間久々に行ってみたらー、猫の死骸が淀んだ水面に浮いていた。
アタシは中二になっていた、そう、あの中二だよ。そしてついに不思議さんと出会ってしまった。
アタシが妄想を膨らませながら、いつもの様に自転車で下校していた時。
「クッ、もうダメ。あいつは……強すぎる」
アタシはハンドルをギュッと強く握りしめる。
「アリス! 諦めるな、あの特訓を思い出せ!!」
「こ、コーチ! だけどアタシにはー、もう」
「フッ、これを使え」
「これはー、スパーフレ式ブル、バイオレスパッシブカッター!」
「そうだ、これを使いあいつを倒すのだっ!」
「はい! コーチ。これがあればアタシは無敵!」
アタシはグッと力を込めてサドルを踏み込む。
「危ない!」
いきなり丸い物体がアタシの前に飛び出してきた。その丸い物体はアタシの自電車をガシッと受け止めた。クッ、アタシの必殺技を受け止めるなんてー、あれ? お、男の人?
「キャーーッ、な、何するんですか!」
アタシは思いっきりグーでその人の顔を殴ってしまった。
それでも丸い男の人は微動だにせず、直ぐ後ろを音を立ててダンプが通り過ぎる。あぁアタシT路地を一時停止せづに突っ込むところだった。
「あっ、ああ! ごめんなさい」
しまった、また自転車に乗ったまま異世界でバトルをしてしまった。……もう少しで勝てたのに。
「いやは、わふかったね、もふ少しで敵を倒せたほに」
えっ、何言ってるのこの人。アタシの妄想を見てた? そんなわけない。古めかしい茶色の三つ揃えの背広、丸い帽子に丸い顔、体まで丸い変な人、いや不思議な……人。
それとアタシの正拳突きを真面に受けて鼻血出てるけど大丈夫かな?
「いゃあ、君の妄想は素晴らしい! つい運命に干渉して君を助けてしまったよ」
「は、はぁ……、どうも。ありがとうございます」
ホントに見てたの? 運命に干渉した? 何言ってるのこの人、まあ助けてもらったのは間違いないしー、でもこの人なんかヤバイ。
「あ、ありがとうございました。ではこれで」
「待ちなさい」
肩をガシッと掴まれた! ヤバイ、おかされる!
「キャ! 止め……て?」
「これを君にあげよう」
いきなり目の前にリボンとチェーン付のボールペンが突き出された。
「可愛い、これを私に?」
「そう、君は妄想ばかりでそれを形にできないでいるよね? これを使えばその妄想を文字で表現できるようになるよ」
「本当に!?」
私はいつも妄想するだけで詩とか小説の才能は皆無だった、これを使えばちゃんとー。
「あぁ、本当はアドバイザーとして不思議な動物とセットなんだけど、今ちょっと出払っていてー、ごめんね」
「ううん、ありがとう! 早速使ってみるよおじさん」
これでアタシも魔法少女! かな?
「あはは、おじさんは酷いな。じゃ、君の妄想これからも楽しみにしてるよ」
「うん! 任してよ。あ、あれ? ええっ!」
丸いおじさん不思議さんは帽子をスッと上げると、目の前で消えてしまった。
私の手にボールペンだけを残して。
「えっと、これ使うのに呪文とか禁止事項とか……無いの? やっぱ必要だよね不思議な喋る動物」
アタシは急いで家に戻って早速粗筋に、プロットにとりかかった。
「さて、やはり定番は異世界ものだろう。変な神様も外せないな、うん。っとその前にー」
アタシは机の引き出しを開けて中を確認する。
その時部屋のドアがガチャリ! と開かれた。
「愛梨! 何度言ったら分かるんだ、勝手に俺の部屋に入るんじゃ無い! それに机の引き出しを開けるなんて-、何考えてんだ」
「何を言ってるのお兄様」
「お、お兄様?」
普段バカ兄貴とかエロ貴、あとは下僕などでしか呼んでないのでお兄様は意外そうに顔を引きつらせた。そう言えばアタシはいつからお兄ちゃんのことをお兄ちゃんと呼ばなくなったのだろう。
「アタシにはお兄様に悪い虫が付いてないか調べる権利が、いえ義務があります。さあ、お出しなさい。今日は何通貰ったのですか?」
「に、二通・・・・・・かな」
お兄様は鞄の中から二つのピンク色の封筒を出した。
「二つうぅ? 本当にぃ?」
「うっ……、ごめん後三通あるんだ」
アタシが下からグイッ、と睨み上げるとお兄様は後ろのポケットから三通の封筒を出した。それをサッと奪うと机の上に並べる。
「この女とこの女、あとこの女は常連ですね。ああっと、この女は初めての方ですね。フムフム、あれ?この女の人お兄様の学校の生徒ではありませんね、他の学校の方ですか?」
「あ、いや、先生・・・・・・、かな」
「先生! お兄様は先生にも手を出してー」
「あ、いや、俺もナ、なんでこんな所に先生がー、テナ感じてぇ。ごめんなさい」
そう、お兄ちゃんは昔から女の子にモテていたのだが、中学から有り得ないほどのチョコを貰うようになり、高校に入学した今では毎日数通のラブレターを持って帰って来る様になっていた。
「なんで俺が謝らなきゃ・・・・・・」
「何か言いまして? お兄様」
「いや、そのお兄様ってぇの止めてくれ。鳥肌が立つ」
せっかくたまには呼び方を変えてみようと思っていたのに。
「まあいいわ、じゃ、この初見のこの子だけ会って確り断って来てね。先生は論外」
アタシは一通だけお兄ちゃんに手紙を返して残りは持ち帰る、勿論お炊上げだ、念は浄化しないといけない。
「なぁ愛梨、いつまでこんなことを続けるつもりなんだ? いい加減解放してくれないか」
うちの兄は疲れた顔で何を言っているのだろう。
「・・・・・・」
「あのことはもう何度も謝っているじゃないか、どうして許してくれないんだ」
「あのこと? あのこととは幼いアタシに真ん中の足を握らせた事ですか?」
「そ、そうだ。あ、あれはお前もいけないんだぞ、毎日毎日抱き付いてきて、俺にも我慢の現界があるんだ」
「我慢できなくなったからアタシに堅くて熱い物を握らせたと? 今でもこの手に残るあの形、エロ兄貴のは鉛筆型ですね? それもちょっと右曲がりの」
「う、うぁああああっ! 妹が、妹がぁああああっ!!」
あぁ、泣きながら出て行ってしまった。フゥ・・・・・・お兄ちゃん。何でいつもこうなっちゃうんだろ。
一通り家捜しした後自分の部屋に戻り、以前買っていた原稿用紙を机に広げて不思議さんから貰ったボールペンのカバーを外す。
「ここで呪文とか言わないといけない、とかじゃないわよね? よっと」
キュポン! とカバーが外れるとそこからー、何も出てこないわね。普通のボールペンだわ。
でもそのボールペンで書き出すとあら不思議、どう表現していいのか分からなかった出来事がドンドン文章になっていく。
「凄い、想像が追い付かないなんて・・・・・・、今まで想像だけで文章が全然追い付かなかったのに」
その日からアタシは寝る間も惜しんで書き続けた、当然学校では居眠りばかりで元々そんなに良くなかった成績は超低空飛行となってしまったが、これを書き上げるまでと両親に許可を貰い書き続けた。題名は『復活の日』だ。
そしてその日もクライマックスをどうするか、を考えながら学校から自転車で帰っていた。
「あぁどうしょう、ミーナちゃんとゼナちゃんがうまく絡み合わない。んー、あのボールペンアイデアも出してくれたら大助かりなんだけどなぁ」
そしていきなり天啓が落ちて来た。
「そうだ! 神様をーあっ!」
気付くとアタシはトラックの前に飛び出していた、スローモーションの様にゆっくりと近づくトラック。
ああ、やっぱ転生するときはトラックだわねぇ、と考えてしまう。だけどー。
お兄ちゃん、助けて……。
気づいたら定番の何もない白い部屋に寝かされていた。体が動かない、金縛りかな? 目と口は動きそうね。
「和室とか洋室など拘らないが、もう少しひねってほしい」
「ごめんね犬の卒倒で」
いきなり覗き込まれて変な事を言われた。
「ワキャ! 不思議さんどうしてー、……なぜ犬?」
「えっ、分かんないの? 犬、つまりワンが倒れてパターン、てね」
「…………」
「そんな目で僕を見るのは止めてくれないか! じゃあこの言葉の意味分かるかな? 仮にも小説家を目指しているのなら直ぐに分かると思うけど、どうする?」
む、いきなり何を言うの。でもそこまで言うのなら受けてやろうじゃない。
「ドンと来い! あ……」
これは美少女が仰向けに寝そべったまま言うセリフじゃなよね。
「良い返事だ、じゃあいくよ。んっんー、オスッ、ㇳ、アンデ~~ルッ!」
「えっ? アンデルセン? 人の名前?」
「フフッ、分からないみたいだね、まだあるよ。ヒネ、ルット、ジャーーッ!」
馬鹿らしくなってきた。英語風に喋ってるだけじゃん。
「凄いわ、アタシおじさんを見誤ってました」
「うんうん、そうだろう。あ、お兄さん。ね」
「こんな恥ずかしい事を人前で堂々と喋れるなんて! 尊敬物ですよ。ったく」
あれ? どこ行ったのだろ、視界から消えてしまった。
「ふ、フン、僕が本気になれば……、君は十八歳未満だから日立のエレベーターやブルトーザーなんかはブッブッ」
「隅っこでブッブッ言ってないで、本題があるのでしょ?」
不思議さんはトボトボと戻って来て。
「そ、そうだった。んっんー、やはり運命には逆らえなかったな、結局君はトラックに……」
「やっとですか、いいでしょう乗ってあげます。スーハー、そうだ! やっぱりアタシトラックにー、やっぱりこのままチーと能力貰って剣と魔法の世界へ転生しちゃうの? それともこのまま不思議さんの慰み者になっちゃうの?」
「君にイタズラとかしないから! 僕はロリコン気味であってロリコンじゃないのぉ。だいたいこのまま転生させたらそれこそ犬の卒倒、ワンパターンじゃないか」
今さらっとロリコンだと認めやがったこの男。
「じゃ、じゃあアタシはこれからどうなるの?」
「うん、これから君は世界の創造主になるんだ。いや、もうなってるよね」
創造主? 何の事? アタシに何をさせようと言うの?
「説明を求めている顔だね、お兄さんはね君の物語がもっと見たいんだ。だから創造主となって創ってもらうよ」
「いや、だから、意味が分からないの。もっと分かりやすく説明して。不思議なお・じ・さ・ん」
「・・・・・・君はそれでも廚二病患者かい? もっと創造力を膨らませてほしいな」
うっ、急に無表情になって見下ろさないで! それとアタシはそんな病気煩ってー、ない、と思う。
「さあ、さぁ! この真っ白な世界は今から君の物だ、取り合えず地球を思い描いてごらん。地球の大きさや大気成分は基本的に君の住んでいた地球と同じになる、でも変えようと思えば直ぐに変えられるよ」
「地球ねぇ・・・・・・。う、うわぁーー」
テレビで見た地球を思い浮かべただけなのに、アタシの目の前に青く綺麗な地球が浮いていた。ここはー、宇宙だ!
「おおっ、流石だね。さて、これからどうするね? 人や文明を創り地底世界も創れるよ。君が望めば主人公にだってなれるからね。でもキャラになりきって自分が創造主である事を忘れちゃうかも知れないから気を付けてね」
いつの間にか体が自由に動くようになっていた。
「うん! なんだかワクワクしてきたわ、取り合えず最近書き始めていたのをこの世界でやってみるね」
「その粋さ、期待してるよ。あ、それともし、僕を充分楽しませてくれたのならー」
「ん? 何か貰えるの?」
『願い事を一つだけ、叶えてあげよう』
不思議さんはスーッと色が薄くなり、消えてしまった。
「あ、ちょっとー。あぁ消えちゃった、以外とせっかちね。・・・・・・よ、よーーし、これが病院のベットの上で見ている夢だとしても、面白そうじゃ無い! 先ずは魔法とか関係無い普通の人類を創ってー、この宇宙に上位の存在を創るところから始めましょう」
アタシの願い? そんなの決まっている、アタシは何が起ころうと絶対にー、叶えてみせる!




