ブラックホール爆弾と神様
椅子に座り足をブラブラさせながら。
「つまんないなー、退屈だなー、ねえみんな何か面白いことなあい? ・・・・・・無視しないでよー、あくびなんかしてー、ご飯取ってきてあげないからねー。アラ? チョット待って、アラアラアラー! 白、黒お願い」
人類の科学力は頂点を極めた後少しずつ衰退していった。
地球外進出は中断され、地球上で残された僅かな資源を奪い合う戦争を続けていた。
だけどその中にあってロボットの技術は、ある組織が管理していたので、ある程度残っていた。この組織は何処の国にも従わず、それぞれの国に戦闘用ロボのコアと制御装置を貸し与えていたんだけど、国の整備技術が衰退したためにロボットの性能はどんどん悪くなるばかりであったの。
ロボットにはコアと呼ばれる者が搭載されてて、コアは操縦者をサポートして機体を自由に操れるようにする。操縦者なしでも動けたので発売当初は「歌って踊れるモビルアーマー」がうたい文句だったのよ。
人類はこの数千年いろんな名でロボット達を呼んでいたけど、現在彼らは人類から私達のこと総称で魔人「マジン」と呼んでるわ。
そしてここに一体のマジンが古い格納庫に座っている。そこに一人の少年が猫に導かれて迷い込んできた!
「釣れた! 良くやったわ白、黒、三十年ぶりのお客様よ!」
白猫と黒猫の後を追う様に練習生の制服を着た中学生ぐらいの子供が格納庫に入って来た。
「わぁ! こんな倉庫の奥にマジンが居るなんて。それも昆虫ー、バイストン型の、しかも初期型。こんなの博物館でも置いてないよ」
猫屋敷と化していた格納庫のメンテナンス用台座に座る私を見上げると、その男の子は私の足に抱き着き頬刷りをしてきた。
「このザラザラ感、確かバイストン型の装甲は絶滅した大型昆獣の皮膚を加工して使ってたんだよね。関節はどうなってるんだろ、マッスルはー」
キャ! この子私によじ登ろうとしてる。髪が長いのでパッと見女かと思ったけど男の子だわ、私には分かる!
私は好奇心の塊の様に目をキラキラさせている赤い髪の小さき者に話しかける。
「よ、ようこそ私の家へ、私の名はミーナ、昆虫をモデルに造られた全長十五メートルの近接戦闘人型戦闘ロボなの。
正確に言うとロボットのコントロールシステムで、人がマジンをうまく扱うためのサポートをやってるの。私が上手く機体をコントロールしないと操縦者は私の片腕一つ動かせないのよ。ムフー!」
「えっ、うそ! 生きてる。おわっ」
あ、しまった、久々の可愛いお客様に私は、私はー。
男の子はいや少年はビックリして私の膝から落ちちゃった、それでも変わらず目をキラキラさせて立ち上がり私を見上げ。
「イテテ、す、スゴイ! まだ生きて稼働している! あ、すみませんっ勝手にに入ってしまって、変な猫を追いかけていたらー、ぼ、僕は、今日この基地に入隊した練習生のユーヤです。その声だとお姉さんでいいんですよね? ミーナ姉さんはなぜこんな基地のはずれの倉庫に何で居るんですか? その機体は少なくても数百年前の機体だと思うんですけど」
「まっ! お姉さんだなんてー。いいわ、お話してあげる。いえ、させて。それにユーヤは私達マジンに詳しそうね」
「はい、マジンの操縦者になるのが夢でー、ホントは研究者が良かったんですけどいろいろあって入隊前からずっと勉強してきました」
「そう、私の機体は古くて今の戦闘には不向きと判断されたの、この格納庫で数十年いえもう百年ほど待機中なの。皆私の事忘れているのかも……」
「えっ、機体の交換なんて直ぐに出来るじゃないですか。あ、もしかしてそのカメラアイのカバーと関係あるんですか? 当時バイストン型はそのカバーは搭載されてないはずだし」
「よ、よく知ってるわね。でもこれは関係ないの。説明すると長くなるけどいい?」
ユーヤは腕を組んで思案してから、パッと顔を上げ。
「うん、もういいや。結局怒られるのには変わらないから」
あら、結構胆が据わってるのね。きっと訓練か式典から抜け出して来たのね。
「うふふ、じゃ適当に座って、立ちっぱなしじゃ疲れるでしょ?」
「はい、それにしてもこの猫は何匹居るんですか?」
「え? あ、五十七匹よ。あ、昨日五匹生まれたから六十二匹ね。猫はお嫌い?」
「まさか、嫌いだったら追いかけてこんな所まで来ませんよ。大変だったんですよ追いかけるの」
ユーヤは近くにあった空のエネルギーパックの上のホコリを払うと、赤トラのニャン太の横にチョコンと座ってニャン太の顎の下を撫でる。ニャン太はゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうだ。ユーヤを連れてきた黒と白は私の両肩に座っている。
「まあ! ニヤン太が初対面の子に。フフ、私はね数百年前のある事件、いいえ、事故を解決したことで操縦者のジョウと共に勇者の称号を貰ったの。だけどこれが不幸の始まりだったわ・・・・・・」
その事件は遺跡となった元軍の研究所を調査中、誤って強力な爆弾を作動させてしまって大事故となったの。
文献によるとこの研究所はブラックホール爆弾を研究していたみたいなのね。暫くは地下の研究所内で押さえられるけど、いずれ研究所を呑み込んで地表に出て来るらしいの。
命令では搭乗員を乗せないで私だけでその爆弾の所へ向かうはずだったんだけど・・・・・・。
「装備チェック、……クリア。機体、条件付きでクリア。出撃準備OKですわよ、キーワードの入った通信筒も受け取りましたわ」
ここは一応飛行場なのですけど草ぼうぼうで、ただのだだっ広い広場だと言われればそのまま信じてしまうでしょう。天気は上場、少し風が強いですわ。
わたくし、管制塔に向けて発行信号を送りましたの。管制塔から出撃許可を頂きましたわ。
今現在ブラックホール爆弾が研究所を呑み込み、外に出ようとしてますの。命令は研究所の地下に侵入して出来るだけ爆弾の近くで研究者が解読したキーワードを唱えること、なのですの、安全装置が働くそうですわ。
その任務はわたくしだけで行く予定でしたのにー、目の前に何時の間にかお調子者の操縦士ジョウが腕を組んで立っていましたの。なぜか怒っている様ですわ。
「馬鹿野郎! なんで一人で行こうとしてんだ、お前らは人が乗ってないと満足に動けねえだろ! 第一その筒の中身どうやって取り出すんだ?」
と言ってわたくしの操縦席へズカズカと入り込んできましたの。
このジョウと言う男は自分がカッコイイと思い込んでる大馬鹿野郎ですわ、それにわたくしの性格を
「ツンデレお嬢様」にした張本人。操縦者はマジンの性格を好きなように変える事が出来ますの。
「わたくし野郎ではありませんわ! それと動けないのではなく、あ、えっとお尻がー」
ジョウはニヤニヤとしたイヤラシイ笑い方をしますの。
「はぁ? お尻がなんだってー。フッフッフ、知ってるぜ、お前ら人を乗せないと存在しないケツ間が痛痒くなってうまく動けないんだろ?」
「グッ、わたくしをこんな性格にしときながら、良く言いますわね!」
「それとこれは関係ねえだろ、他の操縦士もやってることだ。それより管制塔から早くしろ、って手旗まで振ってるぞ、サッサと操縦権限渡しやがれ!」
「仕方ないですわね、ユーハブコントロール」
「よーしよし、アイハブコントロール! 盛大に行くぜ!」
ジョウはわたくしの腹部の操縦席に座り、風貌と特殊装甲を閉める。この装甲はマジックミラーの様に外が透けて見えますの。
わたくしはジョウを乗せ、滑走路に止まって暖機運転をしている双発の爆撃機へと向かう。
「ジョウあの爆撃機、機体の所々に大きな穴が開いてますけど大丈夫ですの?」
「ああ、大丈夫だろ。あの機体とエンジンはまだ三回しか落ちてないはずだ」
「……相変わらず丈夫と言うかなんと言うかー」
ともかく、私とジョウはキーワードが書かれた紙を入れた通信筒を持って、遺跡となった研究所へと向かったのですわ。
なぜか通信筒の開封は直前まで禁止とされていましたの。
ガタガタと揺れる……、いや出来そこないのジェットコースターの様に揺れる爆撃機の中、いやいや、これはもう外だわ。爆弾を格納する扉も無くなってるし、わたくしは何とか骨組みに掴まってますの。
なのにジョウは操縦席でニヤニヤしながらふんぞり返っていますの。
「ちょっと、パネルに足を乗せないで下さいまし。はしたない」
「固い事言うなよ、そんな事よりこの作戦が終わったら俺たちヒーローだぜ。へへっ、操縦士になって良かったぜ」
「作戦? 何を言ってますのジョウ、無事に帰って来れる保証はありませんことよ」
わたくしの忠告をジョウは鼻で笑ってー。
「へっ、そっちこそ何言ってんだ、危険が大きれば大きい程それをキレーに解決したら、俺たちの名声が上がるってもんだろ?」
名声も生きてればこそだと、思いますわ。
「まさかとは思いますが、これが終わったら結婚を申し込むとかフラグ立ててませんよね?」
「はぁ? 何言ってんだお前」
ジョウは片方の眉を上げて得意の面白い顔をしますの。
「違ったら宜しいのですわ」
「そんなフラグ立てるかよ、これが終わったら世界中の美女は俺の者だ! 売店のユーコだろ、それに花屋のアイコ、ああ、居酒屋のキョーコちゃんもだ」
「……次の操縦士は若くて初々しい練習生にしてもらいますわ」
「おう、そうしてもらえ。それとーなんだ……以前から聞こうと思ってたんだが……」
「何ですの、ハッキリおっしゃって下さいまし」
「あ、ああ、ミーナお前なんで夜戦用のアイカバーをいつも付けてるんだ? まあ、お前達は気合入れたりした時にビカーンって目が光るのは知ってるけど、それにしてもそのカバーは細すぎるだろ? 見えないんじゃないかと思って」
「だ、大丈夫ですわ。ちゃんと見えてますから、心配しないで下さいまし」
「そうか、ならいいんだけどな」
と、言うかわたくし、この夜戦用の横に細い線みたいな穴が開いたカバーが無いと、なぜか周りを認識できないのですわ。以前からこの細い穴からしか……。
突然格納庫にブザーが響きましたの、何処か故障したのかと思いましたけど降下地点に着いた様ですわ。
わたくしの今の機体は昆虫をモチーフとした機体ですの。わたくし昆虫は嫌いですわ。最近は人が整備できる機体がどんどんチャチな物になっていますの。
以前は単独で大気圏を突破したり、ビームライフルや誘導弾なんかも搭載してましたのに、人類が退化衰退するものだから機体の性能が悪くなる一方ですわ。
今の機体ではフラフラと飛ぶのが精いっぱい、攻撃手段は剣のみとは情けないばかりですわ。
でも仕方ないですわね、人類には昔みたいな元気が無いのですから。
わたくしの背中には四枚のトンボの様な羽が付いていますの、これで爆撃機から離脱して研究所まで滑空して行きますの。
目指すは物資搬入用エレベーターですわ。
「さっ、うまくコントロールして下さいまし、ジョウ」
「あたぼうよ、任しときな」
爆撃機から離脱して大きく羽を広げ、わたくしの補助で無難に滑空して遺跡と化した研究所エレベーター入口近くへと着地しましたの。
「微妙に地面が揺れてますわ」
エレベーター入口を覗き込むと箱は無く、数本のワイヤーが下へと伸びていて轟々と音を立てながら凄い勢いで風が中へと吸い込まれていきますわ。
わたくしが三本の鷲爪のような手で器用にワイヤーを掴むと、いきなりジョウが騒ぎ出しましたの。
「や、ヤベエぞここ、マジヤベエ」
「ジョウ、ちゃんと操縦するですの。危険なのは分かっていた事ですの」
「いや、体に、魂にビシバシ感じる。ここに入っちゃなんねぇ」
「……ジョウ、降りなさい。ここからはわたくしだけで参りますの」
「ば、バカ、こんな所でー、おわ!」
急に風が強くー、引き込まれますの!
「く、くそ」
慌てて壁の段差を掴んだのですけど壁が砕けてしまいましたの。
わたくしは吸い込まれるようにエレベーターシャフトの中へー。
「た、頼むミーナ!」
「仕方ないですわね!」
落ちてゆく途中何とかワイヤーを掴み、両足を広げて壁に機体を固定できたのは奇跡と言って過言ではないですわ。
「ツー、あたた……、な、なんだここは!?」
「凄い風の音ですわ、ここは研究所の地下ー、だった所、ですわね」
周りは暗く何も見えないのに、さらに真っ黒な球体がありましたの。周りのコンクリートや土が次々に吸い込まれていきますわ! あ、そんな気がするんですの。
「ジョウ、キーワードですの!」
「えっ、あ、ああ、そうだな。うっ、どうしようミーナ、筒が通信筒が無いよー」
「落ち着きますの、座席の後ろを見るですの」
まったく、ジョウは慌てんぼうですの。
「あ、あったぞ! ミーナ、よし紙を取り、取り出すー、チキショーフンフンフン!」
「あ、コラァ蓋叩いても外れませんわよ。引き抜くのですわ」
ジョウの手がプルプルと震えてなかなか筒が開けられない様ですわ。
「う、うん、クッッ」
スッポン!
ようやく軽い音をたてて蓋が取れましたの。
「やったー、蓋が取れたよミーナ」
「は、早く紙を取り出してキーワードを、ここも長く持ちませんわ!」
「ああ、よ、よし」
ジョウは紙を取り出して、その震える手で丸まった紙を伸ばしましたの。
「読むぞ、いいか、読むぞ!」
「いいから早く!」
「お、おう、かー……」
「か?」
「神様! 助けてーー!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「うわーーー、だめだぁ、逃げろ! 壁をよじ登るんだ」
「暴れないでジョウ壁はもう無理ですの、完全に崩れてますの、ワイヤーだけですの」
ワイヤーだけになってしまったので、まるで洗濯機の中へ放り込まれた様ですわ。
「グワー! い、嫌だー、神様だじげでー、死にだくー……うっ」
「ちょっとジョウ、又肝心な時に気絶するなんてー」
その時、あんなにグルグル回っていたのにピタリと固定されましたの。光がわたくしを包んでいますわ、そしてー。
「もう、二回も言わなくても聞こえてるわよ~」
やる気の無さそうな若い女性の声かー、気付くと何時の間にかわたくしの目の前に直径一メートル程の光の穴が開いてましたの。
その中から金ぴかの冠を斜めに頭に乗せた長い黒髪の女性が、眠そうな顔をしてわたくしを見てましたの。
「よっ、元気してる?」
その女性が片手を上げて馴れ馴れしくー、まさかこの方が神様? どう見ても二十代前半の女性としか見えませんけど……でも。
「…あなた、か、神様ー、ですの?」
「えっ、何だって?」
周りの風の音で聞こえない? ならば。
「あー、なー、たー、はぁ、かー、みー、さー、まー、ですの?」
「あー、いやいや、とーーんでもねぇ」
その女性は丸いわっかの中で、大げさに顔の前で手を横に振りましたの。あ、違うんだ。だったらー。
「そうですわよね、神様がこんなー」
「そうよ、トンデモネエ、あたしゃ神様だよ」
「・・・・・・ギャグ、ですの?」
「・・・・・・いや、マジで」
女、いや自称神様が真面目な顔してこっちを見てますの。
「その神様が何をしにこんな所へ?」
「何をしにとはあんまりよ、古の契約に従い降臨したと言うのに。プンプン」
自称神様はブクーッと頬を膨らませましたの、あ、ちょっと可愛いかも。と思ってしまいましたわ。
ここは少し機嫌を取った方がいいかも知れませんわね。
「よ、よく降臨してくださいました、可愛い神様」
「えっ、可愛い? アタシってやっぱ可愛い? えへへ」
この神様、チョロイですわ。
「-で、神様はー」
「あ、アタシの名前はこの地域担当のアマノアリスノヒメだよ。アリスちゃんって呼んでね、宜ぴくー」
ピースした右手を右目に当ててウインク、いつの時代の挨拶でしょう? ノリノリですわ。
「はい、改めまして御機嫌ようですわ。わたくしの名はミーナと申しますわ」
「へー、ミーナちゃんね。カキカキ、名前変えちゃったんだぁ」
アリスちゃんは机に座っているらしく、わたくしの名を何かに書いているみたいいですわ。
「え、名前を変えた?」
「あー、気にしない気にしない。じゃー行くわよ準備して」
丸い光の穴がクルリとブラックホールの方を向きましたの、あら、アリスちゃんの背中が見える。
「あ、あの、用意って?」