洞窟内は○○がイッパイ
洞窟の中は暗くヒンヤリとしている。私は両目にライトが付いているのだが、驚いたときとか気合いを入れたときにしか確りと開かないのであまり役に立たない。それにもの凄く眩しいんだよ。
仕方無く操縦席の明かりを全開にする。
「うわぁ! 眩しいのだぁ」
「ごめんクミ、起こしちゃったね。また洞窟に入るよ」
でも周りをほんのりと照らすだけで10メートル先もよく見えない。
「大丈夫だよ、フローネには見えるから。後ろを付いて」
サブマシンガンP-90を構えて中腰になって先を進むフローネ、頼りにしてるよ! 頑張って。
それはいいんだけど、この洞窟レーダーが乱反射して全然役に立たない。それに加えてあちこち障害物岩が飛び出ていてるのが多くて避けて進むのが精一杯だ。
「あぁ、早く小さくなりたい」
「えー、クミは困るのだ」
「そりゃあクミは歩かなくていいからでしょ?」
「えへへ、なのだ」
フローネは不意に立ち止まり振り返ると。
「フローネも困るよ、ミーナが女の子になったらほとんど戦闘力無いじゃん」
「うっ、そ、そうだね」
フローネは言うだけ言うと又歩き始める。
「フローネ気を付けて、ウーカカさん何かを隠してた。すんなりとは山頂へ行けないと思う」
「えー、今更それを言うかなぁ。まあ虎穴に入らずんば虎児を得ずとも言うし仕方無いか」
虎穴? あぁ、なんか聞いたことがあるようなー、うーん、虎が出るか蛇が出るかてぇとこかな。
しかし、予想に反して暫く進むと前方にオレンジ色の明かりが見えた。
「あれ? もう外なのかなぁ、全然登ってないけど」
「ミーナ、気を付けて。あの光・・・・・・、変、おかしい」
ん? そう言えば夕日にしてはぼやけていると言うか・・・・・・。
「とにかく出口まで行ってみましょうか。対策はそれからで」
「了解、ミーナ」
「なんかワクワクするのだ」
クミは気楽でいいな。こういうときタマが居てくれたならなぁ・・・・・・。
えっ?! あっ、タマ!! なんで今まで忘れてたのかな、タマが居ない。
「どうしたのミーナ? 突然止まったりして、壊れた?」
「壊れてないから! ちょっと突然思い出した事があって・・・・・・。ゴメン、行きましょう」
こんな事ができるのはアリスちゃんかゼナちゃんか、これは絶対アリスちゃんだね。でも一体なぜ。
「止まってミーナ、フローネが外を見てくる」
おっと、考えているうちに出口に近付いたみたい。
「おねがいフローネ」
「フローネ、気を付けるのだ」
「うん、クミちゃん。まぁーかして」
フローネが転がるように外へと飛び出す。私はいつでも出られるようにして背中から剣を引き抜く。
少しすると外からフローネの声がした。
「クリアーだよミーナ、出て来ていいよ」
一応剣を構えてゆっくりと顔を出す。
「おっ、おおっ! これはー」
そこは広い空間だった、外では無い。目の前にたぶん地底湖なのだろうが対岸が見えないほど広い地底湖だ。
全体的にピンク色に光る靄の様な物がかかっている。水面もピンク色だ。天井も高い、微かに岩肌が見えている天井まで百メートルは優にあるだろう。
そのピンク色の地底湖に古い船が一艘浮かんでいた、ボロボロの船ではなく遣唐使とかが使っていた古い時代の穂が二本ほど立ってる全長二十メートル程の船だ。
「うわー、桃色世界なのだー」
「地底にこんな場所があるなんて、ミーナここってやっぱりー」
「うん、普通これは有り得ないわ。だからここは現実から隔離された場所ね・・・・・・」
ん? これはー、ちょっとまずいかも。
「どうしたのミーナ? ハッ! 下がってミーナ」
何もない静かな水面にフローネは銃を構えた。……いや、居る。水面下で蠢いている。
パタタタタ!
戦艦のアーマーをも貫いてしまうフローネの徹甲弾が水面を叩いた。と同時に波一つなかった水面が一気に荒れだし、そしてその中からー。
「痛ったーーーーーーい! 何すんのぉーーーーーー!! あ、ご飯キタ―――――!」
ザバーーーッ、と水面下から現れたのはー、下半身が白蛇になったアリスちゃんだった。
船の向こう側に現れたアリスちゃんは目を爛々と輝かせ、私達に覆いかぶさるように襲い掛かり途中で船を巻き込んで、べシリと倒れた。
「なんでこんな所に自称女神の変な人が、それも変な格好でー。キモイ」
それは私も聞きたい、ただアリスちゃんが現れたってー事は。
「アリスちゃん大丈夫? あ、地底湖の中でアリスちゃんの体、白蛇の胴体が絡まってる」
フローネが止めとばかりに徹甲弾を叩き込む。
パタタタタタタタタタ!
「あだだだだだだ! 止めて、ゴメンナサイ、もうしませんから!」
アリスちゃんの鱗は徹甲弾をまるでBB弾みたいに弾いた、アリスちゃんはどんだけ丈夫なの?
「フローネ止めてあげて。アリスちゃん、あなたがなんでこんな所に?」
「あ? あーーーーーーっ! ミーナちゃん!! やっと来たぁ」
「やっと来たって、アリスちゃんはいつからここに?」
アリスちゃんは、ユラリと立ち上がり。いや、鎌首を上げて。
「そうね、天と地が別れてこの星に大地が出来始めた頃かしら」
---ッ、そんな前から! だからそんな無駄に長く。
「それでー、どうしてこんな所でこんな事を?」
アリスちゃんは良くぞ聞いてくれた、とばかりに。
「それよ! あの白猫はなんなの? ミーナちゃん達を使ってうまく逃げられたと思ったのに、私はあの世界じゃ神だったのよ、それをあの白猫はー」
「えっ、アリスちゃんはタマを知ってるの?」
「って言うか、アリスちゃんはここでも神でしょ?」
アリスちゃんはフローネをキッ、と睨むと。
「そうよ、アタシはここでは最古の神なの。でも創造主じやない、ここの創造主はー」
止めて、言わないで! 私を見ないで。
「あなたよミーナちゃん、あなたがここの創造主。もうとっくに分かっていたのよね?」
「えっ、ミーナちゃんがこの世界の創造主?」
「そうぞう、しゅ? クミはお饅頭の方が好みなのだ」
あぁとうとう言って・・・・・・、あー、はいはい。町に戻れたら買ってあげますよ。フフッ、クミのおかげで落ち着いたわ。
「・・・・・・うん、でもなんで? どうしてこうなるの? ここは私が書いた小説の世界、でも記憶が曖昧で良く思い出せないの」
「ミーナちゃんその事で話しがあるんだけど、その前にアタシの体短くしてくれる?」
水面下で絡まっているアリスちゃんの体を短く、私にそんなことが、いや、できるかも。
「外に居るアリスちゃんの眷族並に短くする?」
「ええ、お願い」
よし、ここは一つやってみますか。私は右手に持っていた剣を高く垂直に上げた。
「あっ、ミーナの剣の先にエネルギーが集まってく」
そう、私は右手の剣にエネルギーを集めてエネルギーボールを作る。それは始めバレーボールぐらいの大きさだったが、どんどん大きくなる。
「な、何をするのかなミーナちゃん。体を短くしてくれるだけでいいんだけど・・・・・・」
「ええ、どうすればいいのか分からなかったけど、このエネルギーボールをぶつけて燃やすでしょ、するとその炎の中から新しいアリスちゃんがー」
どうしたのか急にアリスちゃんが慌てだした。
「アタシ火の鳥じゃ無いから! 復活しないから! アタシは最古の神で丈夫だからきっと黒焦げになっても生き残るから! 死なないから!」
うーん、それは面倒ね。んじゃ止めとこう。
今にも弾けそうになっていた光球が一瞬に霧散する。うん、だいたい要領が掴めたかな。
「た、助かった。ミーナちゃん気を付けてよね、慎重に願い。それと痛くしないで」
「はいはい、じゃあちょっとジッとしててね」
私は地底湖にザブザフと入り左手でアリスちゃんのシッポ、先端辺りを掴んで引きづり出した。そしてアリスちゃんの横に並べて長さを調節する。
「あ、ミーナちゃんそんなに引っ張ると痛いんですけど」
「大丈夫、一瞬だから」
「え、一瞬?」
そうよ、一瞬。私は横凪に剣を一閃させた。
スッ、パーーーーーン!
「え?」
アリスちゃんの胴体より下の部分が切断されて血が噴き出す、と同時にシッポ部分も切断され同じように血が噴き出した。
まるでビール瓶を同時に二本開けたように、アリスちゃん本体とシッポの部分が宙に舞う。
私は剣を背中に収めると飛び上がり左手でアリスちゃん本体を、右手でシッポを掴むと双方の切断部分を押しつける。
ギューーーーッ
「わきゃーー! い、痛ーーくない・・・・・・」
血が止まり切断面が繋がってく、うん、上手くいった。流石神様、あ、私もね。
「具合はとうかな? 長さは外に居る眷属と合わせて、前後も間違えてないと思うんだけど」
アリスちゃんは私の手を払うと、水面に下りて接合部を触ったり飛び跳ねたり尾っぽをピコピコと動かした。
「うーん、一応繋がってるみたいだけど……、無茶をしてくれるわね」
「良かった、でも……、あれはどうしよう」
アリスちゃんを切断した部分がまだ血を噴き出しながらウネウネと動いていた。
「うわぁ・・・・・・あぁ、あれもアタシだからね。そう簡単には動きは止まらないわね」
「ミーナ、切断されてもまだ動くなんて、何か別の生き物みたいね」
別の生き物・・・・・・、フローネ! あんたいいこと言ったよ。
「あ、血も止まってウネウネしなくなってきたのだ」
「でも変だよ、なんだかギュッと固まる感じ。ミーナ! 離れて」
「フフッ、大丈夫だよ。見てて」
フローネが私の前に出て銃を構えると、絡まっていたアリスちゃんの胴体部分が溶け合い融合して光始めた。
「キャ! アタシの体にミーナちゃん何を創造したの? 一体これは何?」
アリスちゃんが慌ててニョロニョロと私の方へ逃げてくる。
「あ、いやぁ・・・・・・、自分で動いて私達を運んでくれる、そんな生き物創れないかなぁって思って」
光る直径五十メートルほどの巨大円盤は回転しながら地底湖から浮き上がりドクン、ドクンと鼓動すると形を整え始めた。
「ミーナ、生きてるの? これ」
「まあ見てて、格好良く仕上げるからね」
不安そうに私を見上げるフローネ。そんなに心配しなくてもいいよ、いい子に育てるから。
「ミーナ、ちゃん。これってー、この円盤てー、アダムスキー型?」
「アリスちゃんよく知ってるね、でもただのアダムスキー型じぁーないのよ。下に付いてるでしょ」
昔ユーチューブで見たの、UFO特集。その時以来の一目惚れ、アレだったら浚われてもいいと思ったわ。
「うわー、ドイツ軍仕様だぁ。タイガー戦車の砲塔が逆さに付いてる」
「アリスちゃん、フローネもこれはトンデモナイ物だと分かります」
何故だかアリスちゃんとフローネはあきれ顔だ。どうして? 格好いいのに。
「凄いのだミーナ! 格好いいのだ!! これ、乗れるのか? 早く乗ってみたいのだ!」
「クミ! クミなら分かってくれると思ってた」
「クーン、クーン」
円盤がまるで子犬のようにすり寄ってきたので頭(屋根部分)をなでてやる。
「おー、よしよし」
「ワンワン!」
今度は嬉しそうに覆い被さってきた、私はそれをガシッと受け止める。
「うっ、クッ! これはー、腰に来るなぁ」
「ミーナちゃん、そろそろいいかしら。聞きたい事があるのよ」
アリスちゃんが真面目な顔で私を睨んできた。珍しい。
「・・・・・・うん、ポチ、お座り」
「ワン! ハッハッハッ」
ポチは私の横にズン! と音を立てて座った。・・・・・・のかな?
「ぽ、ポチ? まあいいわ。アタシが聞きたいのはミーナちゃん、あなたもしかして不思議さんに会わなかった?」