魔の山? 聖なる山? 山本山!
私は今、空を見ている。
「あー、空高く円を描くように飛んでいるのは鳶だろうか?」
「ミーナ!」「ミーナさ~ん」「ミーナ様」
「てーへんだ! 虫の化け物が出たぞ」
「役人を呼べ!」
「いや、下敷きになってるやつを助けるんだ」
周りが騒がしい・・・・・・仕方無いよね、突然町中にロボットが出現したんだから。
こんなに早く変身が解けるとは、あれ? 私の変身の条件はどんなんだったっけ。思い出せない、記憶が混乱してる。以前のことを思い出した影響かな。・・・・・・取り合えず私は体を起こすか。
「何がどなったんですかっ、ミーナさんがいきなり外に飛び出したかと思ったらー」
真治君も青い顔してる。そう、私は急いで外に出ようとして敷居に躓いてしまったのだった。そのまま元の姿に戻り背中から隣の宿屋に倒れ込んでしまった。
誰も潰していませんように・・・・・・。けっこう丈夫な建物のようで屋根が私の機体の形にヘコんでるだけだから大丈夫だとは思うんだけど。
「どうする? どんどん集まって来るぜ」
「この大っきなロボットって、さっきの小さな子なの?」
「まずいですね、このままだと妖怪として攻撃されるかもしれないよ」
「元の女の子には戻れないのですか?」
さっきから変身しょうとしてるけど、やっぱり無理みたい。ここは一旦離脱するしかない。
「みんな! 私は逃げます、遠くに富士山の様な形の山が見えるからそこの頂上で落ち合いましょう」
「はい、分かりましたミーナ様」
私は翼を広げてコンバーターにエネルギーを送る。
「ミーナ! クミは一緒に行くのだ!」
「クミ! 危ない事を、乗って」
クミは私の脚にしがみつき登ってきた、慌てて操縦席を開ける。
「富士山に似てる山? ダメだミーナさん、あの山はー」
真治君が何か言いかけたがもう時間が無い、これ以上人が集まれば身動きが出来なくなる。私はクミが操縦席に座ったのを確認すると扉を閉めて大地を蹴る。
「フローネ、行きなさい!」
「はい! 姉さん」
「えっ、うわっと」
フローネが脚に取り憑いたので少しバランスを崩したが、なんとか離陸に成功した。私はフラフラと上昇を続ける。
「フローネ、手の上に」
私が手を脚へと伸ばすとフローネはヒョイッと手の平に飛び乗った。
「やったのだ、フローネちゃんも一緒なのだ」
「うん、クミちゃんはフローネが守るね」
うん、心強い味方が一緒で良かった。
「フローネ、途中人気の無いところで休憩してから山へと行くけど寒いの大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫だよ。寒いの平気」
暫く山へ向かって飛んでるとクミのお腹から、グ~~っと音がした。
「お腹空いたのだ~、さっき食べれなかったのだ~」
「あ、まだ携帯食料が座席の後ろにあるはずだよ。探してみて」
「うー携帯食・・・・・・、仕方無いのだ」
クミゴメンね、私がロボットになって宿で何も食べられなかったね。食料と言えばそろそろ私のエネルギーコアも……、あれ? 減ってない。反対に増えてる、なんで?
「ミーナさん、あそこの森に開けた場所があるよ。あそこいいんじゃないかな?」
フローネが指差す方に森に囲まれて少し盛り上がっている所があった。良く見ると建物が崩れた後みたいだな。周りには人も他の建物も無いみたい。
「うん、あそこでお昼にしましょう」
以前は立派な庭であっただろう今では荒れ果てて草ぼうぼうの庭へと着地する。するとフローネが私の手から飛び降りて。
「ミーナさん周囲を偵察してくる、ここから動かないで」
「あ、お願い。気を付けて」
「あっ、一緒にたべ…るの…だ・・・・・・」
クミが声をかけたときにはフローネは既に森の中に姿を消していた。クミは見つけた携帯食チョコ味バーを一人でボソボソと食べる。
「うー、やっはり一人じゃ美味しくないのだ・・・・・・」
クミ・・・・・・、落ち込まないで女の子に変身したら一緒に食べーれるかどうか分かんないけど、食べるから。でもそれって何本目?
よし、丁度良いからこれからのストーリーを思い出してみよう。たしか真治君達は洞窟の鬼達と町の人達の間を取り持つんだった、その時にお雪さんの代わりに千年に一人生まれる鬼娘を仲間に加えることにしていた。
『鬼娘』と言っても空を飛んだり電撃を放ったりしないし、言葉の最後にダッチャ! とか付けない。まあ虎ジマビキニで髪の毛が緑色なんだけど・・・・・・、この子が何をやっても「鬼娘ですから」で終わらせてしまう結構便利なキャラだった。
それから真治達はー、えっとー、どうしたんだっけ? プロットは書いてたはずなんだけど・・・・・・思い出せない。
「・・・ーナさん、ミーナさん? ミーナさん!」
「ハッ、ふ、フローネ」
気付くとフローネとクミが心配顔で私を見上げていた。
「ごめんなさい少し考え事をしていたものだから、それで周辺はどんな具合?」
「うん、周辺に人の気配は無いよ。ただー、うーん」
フローネは腕を組んで考え込んでしまった。
「ただ?」
「人間では無い者に見られているような・・・・・・、うーん」
「うーん、なのだ」
クミはマネしなくていいから。人では無い者・・・・・・、たぶん妖怪ね。ここは妖怪のテリトリーなのかも。兎に角ここは安全じゃあ無いってえ事よね。
あぁ、妖怪でもいいから私達を支援してくれる存在が都合よく出てくれれば良いんだけど……。
「クミ、乗って。フローネも、ここから離れるわよ」
「へ? う、うん。どうしたのだ? 急なのだ」
「ミーナさん、ちょっと遅かったみたい」
フローネが短機関銃をどこからか取り出して私の左斜め後方の森に狙いを付ける。
「待て、お前達はどこの妖怪だ。山へ行く途中なのか?」
ガサガサと音を立てて現れたのは下半身が蛇で上半身裸の妖怪が数名現れ、その中のビシッ! とした角刈りの中年男性が私達に問うてきた。うわ怖っ、凄い目力だ。
「ここは我らの主、蛇神様の社があった場所よ。勝手に入らないでほしいわ!」
今度は男性の隣に居た気の強そうな女性が怒り、まくし立てる。黒髪を前に垂らして上手く胸を隠してるね。
「ルーララ落ち着け、この様な大きな虫の妖怪は見たことが無い、どこぞの大妖怪かも知れぬ。更に横の変な格好をした子供は始めは人かと思うたが人の動きでは無かった」
「は、はい、申し訳ありません」
私はクミを操縦席に座らせてゆっくりと振り返り。
「フローネ銃を下して。先ずは勝手に踏み込んでしまったことをお詫びします。私はミーナ、私達は仲間と落ち合うためにあの山頂が白い山へ向かっています」
「やはりそうか我はウーカカ、我々はお前達妖怪とは違う神の眷属だ山へは行かぬ。さっさと行くがよい邪魔はしない」
角刈りはそう言うとニョロニョロと元来た森の中へと戻ろうとした。
「待って下さい、私達も違うんです。妖怪ではありません」
角ー、ウーカカさんは足を止め、いや足は無いけど止まって振り返り。
「ん? おぬし達も神の眷属だと言うのか?」
「ホホホ、バカな事を」
うるさいぞルーララ、どっかで歌でも歌ってろ。
「いえ、私達はー、えっと、なんて言えばいいのかなフローネ」
フローネは少し下を向き考えてから顔を上げ。
「私達は外の国から来たので、この国の「妖怪」とは違うカテゴリーに分類されています」
「そ、そうそう、カテゴリーが違うんですよ」
ナイス、フローネ。異世界なんて言っても分かんないよね。
「外の国だと? ヨロン国あたりか? 我は外の国はあまり知らぬのだ。外の国にも我々と似たような者が居るとはな」
「アハハ、ちょっと違うけどだいたいそこら辺です。それであの山には妖怪が集まっているのですか?」
ウーカカさんは私達に興味が湧いたのか私の前まで戻って来ると。
「うむ、少し前あの山にダイダラボッチ様が降臨なされたと噂が広まってな、この辺の妖怪は皆あのお方を祀り上げて人と戦おうとしているらしい。ダイダラボッチ様は元々我らが主と同じ神だったはずなのだが……」
ダイダラボッチと言うとー、巨人のイメージがある。ウーカカさんは私達もそのダイダラボッチの元へ
行こうとしている妖怪だと思ったのだろう。
「だとするとあの山は妖怪だらけ?」
「まあ、そうだな。しかしその妖怪を排除するためこの国の軍隊が動いているとも聞いている」
「アンタ等も大変な所を待ち合わせ場所にしたね、ハハッ」
クッ、他人事みたいに。あ、他人事か。
「ミーナさん、引き返す? このままじゃ戦ってる所に」
「うん、引き返すにしてもこの姿じゃ……」
どうしよう、このまま進んで妖怪はともかく人に会ったら間違いなく攻撃される。
「ふむ、これも主様が結んでくれた縁かもしれぬ。良かろう、我々だけしか知らぬあの山へ通じる穴がある、そこへ案内しよう」
おおっ、角刈りのおっさんいい人だっ。人じゃないけど。
「ウーカカ様! あそこは我らの聖域でー」
「良いのだ、我らの主は縁結びの神でもあった、ここで異国の妖怪と縁を結んでおくのも一興」
いや、妖怪じゃないんですけど……。
「でも、後から来るアンさん達が戦いに巻き込まれるかも」
「大丈夫だよミーナさん、お姉ちゃん達は負けないよ。絶対無傷で山頂で会えるよ!」
うん、フローネの姉さんだけならね、でもそこにユウコが居るから絶対に足を引っ張るに決まってる。まあ最悪山頂から騒ぎが起きている所に迎えに行けばいいか。
「では早速案内しよう、付いて来なさい」
「はい、お願いします。クミ、行くよ……あ、静かだと思ったらー」
「フフッ、完全に寝てるね。大者だよクミちゃんは、流石私達の主」
いいえ、私のいい人ユーヤの孫だよ。
角刈りのウーカカさんの質問に適当に答えながら、私達は森の中をニョロニョロと進む。
「あれ? 霧が出て来たよミーナ」
「ホントだ、けっこう濃い霧が私達を包んでいる。さっきまで晴れてたのに」
あれ、この子今私の事呼び捨てにした?
「ああ、一応我らの聖域は結界の中に隠されている。我々と一緒で無ければ完全に迷う事になる、人の身であれば一生出ることは叶わないだろう」
ウゲ、えげつない。
そして霧の中から大きな口を開けている洞窟が現れた。
「この洞窟は以前、あの山が爆発した時ここから溶けた岩が流れ出てきたんだ」
なるほど、溶岩道と言う訳か。この大きさなら私でも余裕で入って行けそうだね。
「ただ我らもこの数百年奥の方へは入っておらぬ、今もちゃんと通じておるかは保証できぬ」
「えー、今更それは無いよー」
「フローネ、行けるだけ行ってみよう。無理だったら戻ればいいだけだよ」
「ふむ、では気を付けてな。また帰りにでも外の国のことを聞かせて欲しい」
「はい、ありがとうございます。このお礼は必ずその時に。それでは」
「角刈りのオッちゃんありがとー」
「ウーカカ様だ! 無礼な口を利くな!!」
最後に怒られてしまったが、私達は洞窟の中へと足を踏み入れた。
「ウーカカ様、本当にこの洞窟はあの山に通じているのですか? そんな話し聞いたことがありません」
「フッ、本当だ。ただし運が良ければ、なのだがな。フフッ、・・・・・・」
「ウーカカ様・・・・・・」
あーやっぱり。私の聴覚センサーはハッキリとウーカカさんの呟きを捕らえていた。