アリスとゼナ
メイド達が机や台等を集めて積み上げ、その上から白い布をかぶせて祭壇ポイ物を造り上げた。
そして屋敷にある全てのお酒を集めて祭壇の上に並べる。
「けっこう残ってるのね、お酒。ジュルリ」
祭壇の上にズラリと並ぶワイン、ビールや日本酒にウイスキー。凄い、目移りしちゃう。
「姉さん」
窓の外からマリが私に声をかけた。
「わ、分かってるわよ。それでユウコ、これからどうするの?」
「ひたすら祈ります~、と言いたかったのですが~。もう来ちゃってます~。ほら~お酒が~」
祭壇を見ると片っ端からお酒が消えていくー!
「な、なんてことでしょう! 止めさせてユウコ、あ、アリスちゃん!」
祭壇に座り一升瓶をラッパ飲みしているアリスちゃんが、薄らと見えてきた。
「プハッ、かーーーーっ! やっぱお酒は変換率が良いわ。どら焼きも良いけどやっぱお酒ね」
どこかの猫型ロボットみたいなこと言ってるぞこの女。
「ミーナ様、このお方が神様なのですか?」
「え、ええ、この変な人が自称神様でアリスちゃんですーって、おっと」
私の方に一升瓶が飛んで来たので、パシッと受け止める。
アンさんが聞いてきたので、せっかく紹介したのに一升瓶を投げるなんてー、あ、まだ残ってるアッザス。
「こら! 神様を変な人扱いするんじゃありません! 私はれっきとした神様アマノアリスノヒメよ。あー、無視してお酒飲むんじゃ無い! アンタはロボットなんだから壊れるわよ」
チッ、飲んでみなきゃ分からないじゃ無いか。でも今壊れる訳にはいかない、ここは潔く諦めよう。
「なに一升瓶抱きしめて匂い嗅いでるのよ、往生際の悪い返しなさい、一気に飲み干してあげるから。イヤイヤじゃない、そんなことしても可愛くないから」
クッ、鬼、悪魔! アリスちゃんはー、あれ? アンさんがさっきの打ち上げ花火を持って窓に近づき外に向けて導火線に火を点けた。
「あれ? 何をしているのかな」
「ヒッ」
アリスちゃんは一瞬で祭壇からアンさんの元へ移動して、導火線を引き抜いてしまった。
アンさんは打ち上げ花火を窓の外に突き出したまま硬直している。ああ、メインを呼び出す花火がー。
スッポォオン!
「「えっ!」」
間抜けな音を響かせてアンさんが掲げていた花火から黄色い玉が飛び出し、あっと言う間に上空でパン、と弾けた、その途端。
ギチッ! 空間が軋んだ。
「やられたわ、ゼナちゃんが作った強力な結界ね。ゼナちゃんは私が引き抜くと分かっていたのね」
アリスちゃんはまだ燃えている導火線を握りつぶした。
「アリスちゃん、メインを、ゼナちゃんを知ってるの?」
「知ってるも何も、あれはアタシよ。正確に言うと同じ魂から分かれた同じ魂を持つ者。かな」
「よし、分かったのだミーナ」
皆が話しに付いて行けなくて停止しているなか、クミがいきなり声をかけてきた。
「クミ、今の説明で何か分かったの?」
「クミには全く分からないと言う事が分かったのだ。マリちゃんとお外で遊ぶのだ」
クミは窓枠に足をかけて外へ出ようとする。こら、はしたない。パンツが見えるわよ。
「待って、それはお勧めできないわ。だってもうすぐ来るもの、ゼナちゃんが。たぶん巨大宇宙戦艦で」
「う、宇宙戦艦!」
「えっ! まだ飛んでる戦艦が残ってるんですか!? 信じられないです姉さん」
マリが信じられないのも分かる、千年前殆どの戦艦は爆散して落ちるか、若しくは太陽系外に出て行って帰って来なかった。
「あの子が作った戦艦はそこらのとは違うから。それよりアタシをゼナちゃんから守って、アタシとあの子は会ったらダメなの」
「ゼナちゃんと会ったらどうなるのだ?」
外に出るのを諦めて大人しく椅子に座り直したクミが聞いてくれた。
「え? ・・・・・・えっと、そう、同じ存在だから対消滅して大爆発するの。もうこの星が吹き飛んじゃうぐらいの」
「「おおっ!」」
メイド達が驚いている、クミはー、まあ置いといて。しかし対消滅ってそんなんだったかな? どうも嘘くさい。
「で、具体的にどうして欲しいわけですか?」
「パンパン、ビシッ! 話が早いねキミー」
無意味に手を叩いて人を、じゃないけど指さすのは止めて貰いたい。
「簡単に言うと、迎撃して。宇宙戦艦を」
「簡単すぎます! もっと説明して下さい」
いや、そんなイヤそうな顔しなくても。
「いい? 今アタシの力はさっきの結界で封じられたの、流石ゼナちゃんの結界だよね。だから移動が出来ないの、ここまで分かるわね?」
「はい、だからゼナちゃんが乗る戦艦迎撃してゼナちゃんがここに来られないようにする。と言う事ですか?」
「・・・・・・そうよ、やれば出来るじゃない」
しかし、メイド四姉妹はともかく私とマリ、変なポンコツ対メイド兵器だけで宇宙戦艦を迎撃しろとは無茶だよね。
「そう、無茶だよね。私達なんか相手にされないよ、瞬殺されて終わりだよ!」
「フッフッフー、そこは油断しないアリスちゃん。こんなこともあろうかと、ユウコ、アレを出しなさい」
「アレ~?」
何かを仕込んでいたみたいだけど、そこにユウコを使ったのは失敗だったわね。ほら、何のこと~ってな感じで小首を傾げてる。
「あなたを起こした時に渡したでしょ、アレよ、あ・れ」
「う~~、あ! アレですね~」
「そう、早く出して、あなた達の新装備も搭載されてるのよ。えっ、なにキョロキョロしてるのよ。まさかぁー」
「ごめんなさい~、南極に~、置いて来ました~」
「な、南極に置いて来たあ! あ……」
あ、アリスちゃんが倒れちゃった。これはマジにー。
「あ、あの鍵が無いと呼び出せない。どうしたら……」
アリスちゃんはうつ伏せに倒れたままピクピクしながらうわごとの様にー。
「ん? カギってこれのことなのだ?」
クミがポケットから金色の頭がUの字になっててお尻からカギを差し込むタイプの南京錠を取り出した。
「それよ! なんでアンタが持ってんの?」
アリスちゃんは立ち上がり、クミの持つカギに手を伸ばす。
「あげないのだ、これはクミが拾ったのだ」
バッとカギを抱くように隠すクミ。クミは光る物をよく集めてたからね、カラスみたく。
「あ……、本体があっても差し込む方のカギが無いと無理だわ」
また落ち込んで膝を着くアリスちゃん、忙しい神様だ。待てよ、そのカギってぇ。
「アリスちゃん、そのカギってこれのこと?」
私もポケットから小さな銀色のカギを取り出す。
「そ、それよ! それどうしてアンタが持ってんの?」
「あ、うん南極の基地に滞在中ゴミ箱に捨ててあったの見つけたんだけど、タマが拾っとけって言ったんでー」
「ゴミ箱! ユウコあんた何捨ててるのよ。あっ、居ない」
逃げたな。でもこれで何するんだろ。
「もう後でー、あ、こんなことをしてる場合じゃ。ミーナ、クミ!」
「何なのだ?」
「今度は何、このカギで何をする気なんですか?」
アリスちゃんが手招きするのでクミと一緒にアリスちゃんの前に並ぶ。
「このカギはね、神の軍団を呼ぶカギなの」
「か、神の軍団?」
「アリスちゃんの軍団なのだ?」
アリスちゃんは両手を広げ。
「そう、巨大な宇宙戦艦が数千、数万隻出てくるのよ。凄いでしょ。いくらゼナちゃんの戦艦が高性能でも数に物を言わせて撃破するの」
「はぁ? それ私達が居なくてもいいんじゃない」
アリスちゃんは困ったちゃんね、とばかりに腰に手を当て。
「フッ、何言ってんの、操縦する人がいなきゃダメでしょ」
ゲッ、私達が操縦すんの? だけどー。
「私達ここの結界から出られないのに、どうやって戦艦に乗り込むんですか?」
「大丈夫よ、ラジコンでコントロール出来るから。そこらのラジコン飛行機よりも簡単よ」
えっ! 数万の艦隊をラジコンで?
「ラジコンって何なのだ?」
「うん、クミには後で説明するね」
「さあ急いで、その南京錠とカギを持って横に並んで、呪文を教えるから」
えー、呪文?
クミは南京錠を、私はカギを高く持ち上げ横に並び教えられた呪文を唱える。
「驚き桃の木山椒の木」
「ブリキにタヌキに洗濯機、なのだ」
「「やってこいこい大艦隊」なのだ」
クミの持つ南京錠にカギを差し入れまわー、まわーらない。
「アリスちゃんこのカギ違うよ、回んない」
「えーーー! そんなー、なんでー!」
アリスちゃんはクミと私からカギを奪い取ると、自分で何回もカチカチと確かめた。
「ああ、ホントだ・・・・・・。このカギじゃない。クッ」
あ、両手を突いて突っ伏しちゃった。私のカギの方が違うのかな?
「ん? なんだ違うのだ? じゃあこっちはどうなのだ」
クミはそう言うとポケットから又金ピカの南京錠を取り出した。
「・・・・・・クミ、あなたそのポケットに入っている物全部出して」
クミはぶかぶかの作業着を着ているので、そのポケットにはいろいろ入っているみたい。
「い、イヤ・・・・・・、なのだ」
クミは怯えるように自分の体を抱いて後ずさる、おおっ、なんか久々にグッとくる。
「べつに、襲ったりハァハァ、しないから、こっちおいでぇクミ」
「イヤなのだ、ミーナ目が恐いのだ」
「ええい、面倒な!」
アリスちゃんはクミの両足首を握ると、そのままクミを逆さ吊りにしてブンブンと振った。
ガシャガシャガシャ!
「よ、よくもまあ集めたわね」
クミのポケットから大量のコインやガラス玉、鈍く光る石やガラクタと一緒に南京錠が10コも落ちて来た。
「ああっ、クミの宝物ー、なのだー。ワキャ!」
アリスちゃんはクミをポイッと横に捨てた。
「なんで南京錠がこんなにあるのよっ」
クミを受け止め立たせると、ワナワナと震えているアリスちゃんの横から南京錠を一つ取り出して。
「どれか合えばいいんですけどねっと、あれ?」
手に取った南京錠は私が持っていたカギであっさり開いてしまった。
「あっ、ああっ! 呪文唱えないで一人で開けちゃダメー!」
私からカギと南京錠を取り上げるがもう遅いみたい。
「姉さん! 早くそこからー」
マリが窓の外から何か叫んでいるけど聞こえない。部屋の壁が、テーブルや椅子が、メイドや私までグニャリと歪んで行く。その中でアリスちゃんだけはそのままだ。
「あー、やっぱそうなるかぁ。でもゼナちゃんから逃げられるみたいだから、まーいいか」
よくないだろ、こんな状況! そこへタイミング良くと言うか悪くユウコが帰って来た。
「わ~、なんですか~これ~。面白そうなことしてますね~」
わざわざこの状況の中に入ってくるかぁ? こっちはなんとか出ようとしてるのにー。
「アハハハハッ、凄いのだ、みんなグニャグニャなのだぁ」
クミだけでも外に放り出そうと手を伸ばすけどー、無理だなこりゃ。上手く動けない。メイド達も動けないみたい、そんな中グニャグニャしなからユウコは動き回っていた。
「あんた凄いわね、この中で動けるなんて」
「あははぁ~、神様にほめられちった~。それほどでも~」
アリスちゃんは周り見渡すようにして声を上げた。
「みんな聞いて、あなた達はこれからランダムにどこかへ飛ばされます。どうか気を付けて行ってらっしゃい」
「どこかって何処だよ! どうにかしろよ」
「そうです、神様なのですから責任もって対処して下さい」
今まで黙って見守っていたメイド達が抗議の声を上げる。
「うーん、そうですねぇ、異世界だったり過去だったり未来だったりしますね。場所も色々です。きっとゼナちゃんも追跡してくると思うので一緒には行けませんが頑張ればもしかしたらこの場所に戻れるかもしれません。それじゃあ良い旅をー」
あー! ちょっと、待ってー。プツッ、と何かが切れる音がして視界が真っ暗になった。