メイド姉妹再び
夜になり、クミは泣き疲れて眠ってしまったのでユウコに抱き抱えて貰って一緒にマリに乗って貰った。そして私達は再び飛び立つた。
夜通し飛べば朝には目的地に着くことができるだろう。
月明かりの下オーラの光を引きながら飛んでいると、ユウコの変な声が聞こえてきた。
「あっ、だめぇ、そこは、ダメなの、そんなに強く吸っちゃイヤ・・・・・・アアァッ!」
「マリ、ユウコは何やってるの?」
反応がない。
「ねえマリー」
「・・・・・・画像送ります」
マリの呟きと共に画像が送られてきた。
な! これはー!
ユウコのバニーガール服の上が完全に開けていて、溢れ出た豊満で巨大な乳をクミが両手で揉みながらチューチューと吸っていた。
「凄いの、ああん、凄いの来ちゃうー!」
「マリ、宙返りしなさい。三回ぐらい」
「えっ、で、でもー」
「いいから、連続三回転よ!」
私はそう言うとマリの背中をトン、と蹴って離脱する。
「は、はい、行きまーす!」
マリは降下を始め、スピードが乗った所で一気に上昇を開始した後背面飛行、そして又下降を三回繰り返した。
「わっ、キャーー! イタイ、イタイー、クミちゃん手、手ぇ放して、口も離して、取れちゃう、取れちゃうよー! マリさん止めて、お願いもう、キャー!」
あー、ちょっとやり過ぎたかな?
「エッグ、エッグ、痛いの~。皆さん酷いです~」
「のだ? どうしたのだ?」
目が覚めたクミを膝に乗せ、胸を抱き抱えながらユウコさんは泣いていた。クミはぜんぜん覚えてないみたい。
「ごめんね、痛かったね、まあ事故だと思って水に流してよ。あはは」
「グスン、いいですけど・・・・・・、気持ちよかったし」
「「えっ」」
今何て言った? この女。
「姉さん、そろそろ目的地上空です。夜ももうすぐ明けます」
「あっ」
顔を上げると真っ黒だった空がだいぶ青くなっていた、山と山の間が結構明るい。
「湖が見えてきました」
「池と言うには大きくて湖と言うには小さい・・・・・・微妙な大きさね」
湖面はまだ暗い、これから朝日を浴びて輝くのだろう。
「あ~、湖の畔に大きな家がありー、あっ、その横にメイドさんが居ますよ~」
「えっ、何人ですか? まだかなり距離があるのによく見えるわね。武器は持ってる?」
「いいえ~、箒持ってますね~。お庭掃除中かな~。庭に二人と家の中に二人居ますね~」
「家の中に居るメイドも分かるの? ユウコさん、髪の色は赤ですか?」
「私対メイド兵器ですよ~、四姉妹揃ってますね~。え~と色ですか~、う~~ん」
「のだ?」
クミを横にづらしてユウコは目を細めた。
「あ~、これは紫ですね~」
赤でも青でも無い、紫ですって!?
「私達に気付いてるみたいです~、手を振ってますよ~」
確かアンの武器は大きな対戦車ライフルだったはず、その気になればどんな遠くからでも当てられるのに撃ってこない。と言う事はー。
「行きましょう、もしかしたら創世の二人に会えるかも」
「姉さん! 迂闊です、まだ他にメイドが隠れて居るのかも知れません」
「大丈夫よ、その為にユウコさんが居るのですもの」
「うん、なのだ」
「え~~、そんなぁ~。やはりここは話し合いですよ~」
まだ言ってる、それでも対メイド兵器か? と言いたい。
「じゃあ私が先に下りるからマリは上空で警戒待機してて」
「はい、姉さん」
私は少し明るくなってきた豪邸の良く精美された庭の端へと降り立つ。
「いらっしゃいませお客様、お待ちしておりました。フローネ、お客様に挨拶しなさい」
「よ、ようこそいらっしゃいました……」
腰まである紫色のロングヘアーを風に揺らしながら、アンは深々とお辞儀をした。
フローネはアンの腰に抱き着いたままだ。
私は周辺を警戒しながらアンにゆっくりと近付く。
「これはどうもご丁寧に。えっとー待っていたんですか? 私達を?」
アンの前に立ち後頭部をかきながら、ちょっと間抜けに聞いてしまった。
「はい、ご主人様とお嬢様がおっしゃっておりましたので・・・・・・」
「よお! 待ってたぜぇ。とう!」
いきなり元気のいい声がしたと思うと、クララが屋敷の三階の窓からドスッと飛び降りて来た。
「クララ、お客様ですよ。言葉遣い」
「気にするなって。で、人間様は何処だい? あんたの腹の中か?」
「セイ!」
「あが!」
ペリーヌが手刀でクララの後頭部を叩いた。何処から湧いて出たんだ?
「イテェなこの野郎、タンコブできたじゃねえかぁ」
「クララ姉がお客様に対してこれ以上無礼を働かない様にしたんです」
「はいはい、静かにして。これで全員揃いました」
このメイド達にぎやかなな姉妹だったんだなぁ。それとご主人様とお嬢様、たぶん創世の二入の事だろう。ん? おっしゃっていた?
「間に合いました。ご一緒なのでしょ? どうか私を人と会わせて下さい、危害は加えません」
アンは急に焦った樣に喋り出した。
「待って、その前にご主人とお嬢さんは?」
「それを直接説明させていただきます。宜しいでしょうか?」
アンが聞いて来たが……、まあ危険は無いだろう、メイド姉妹が揃ってるんだ、やろうと思えば上空のマリでさえ既に撃墜されてる。
「マリ、下りて来て」
私は上空を旋回しているマリに声をかけた。
「いいのですか姉さん」
「うん、たぶん大丈夫よ。っとその前に、あなた達はなんでまだ泡になってないの?」
「へっ、アタイ達をそんじゅそこらのメイドと一緒にしないでほしいなぁ。あで! そうポンポン叩くなよ、バカになるじゃねえかぁ」
「失礼しました。私達は一回目の最後に作られたオリジナルに近いメイドなのです」
アンが丁重に答えてくれたが、まだ分からない。
「でぇ、オリジナルに近いとは……」
「だからよぉ、分かんねえかなぁ。おっと、危ねえ」
クララがペリーヌの手刀を白刃取りした。
「くっ、流石クララ姉やるわね。オリジナルとは私達の元になった人間たちのことです。それと私達の寿命はご主人様と同じ五百年です」
ペリーヌがやっと説明してくれた。五百年、やはり百年周期でメイドを生み出すのか? しかしそれだったらもうメイドで溢れているはずなのでは?
「まだ今のメイド達が残ってるの? あなた達は百年周期で新たに生み出されるって聞いてたけど」
「わぁ、良く知ってるね。青の私達から聞いたの?」
アンの脇の下から頭だけを突き出してフローネが聞いてきた。
「フローネ! 失礼でしょ。いつまでも私に隠れてないで」
「ご、ごめんなさ~い」
青の私達ー、青い髪のメイドのことね。
「ま、そんな所かな。分かりました、マリ、下りて来て。ユウコさんクミを頼みます」
私の後方にマリが降り立ち、操縦席の扉を開くとユウコがクミを抱えて飛び降りてー、コケタ。
「キャ! 痛いのだ、腰打ったのだ」
「ご、ゴメンナサイです~」
「「お嬢様!」」
私の前に居たメイド達が一瞬でクミの前に移動していた。
「お嬢様! 腰を強打されたのですか? クララ急いでお嬢様を医療室へ」
「分かった、お嬢様、さあ俺の背中にー」
「お嬢様、なんで逃げるのですか? こちらへー」
「お嬢様どうしたの? 私達怖くないよ? だからー」
クミの顔が恐怖で強張っている。昨日の事がトラウマにー。
「い、いやぁああ! 来ないでなのだ!」
尻餅をついたまま後ずさるクミを捕まえようと、手を伸ばすメイド達の前にユウコがー。
「や、止めて下さい! 怖がっています」
四人がスッと立ち上がった。
「おめぇ……、人間じゃあー、ねえな?」
「あなたからは危険な香りがします」
「フフッ、私達の邪魔をするつもりのなのかなぁ?」
おい、フローネ悪い顔になつてるぞ!
「待ちなさい皆、これでもこの方はお客様です。ここはお引き取り下さい」
アンが前に出て一礼する。流石は長女。
「ここで壊れたくなければ……」
おいアン! 何時の間にか両手に拳銃握ってるぞ。
「それはー、どう言う事ですか? 私を、開発コード、324ーUユウコ、を排除すると?」
な、なんだぁ! ユウコの目が座っているぅ! これはヤバイ!
「止めて! ここで戦ったらクミも死ぬわよ」
「あぁつ! そうでした、申し訳ございません。皆、戦闘モード解除」
四姉妹が持っていた武器が消えると同時に、ガクンとユウコが膝を着く。
「あ、あれ~、私何してたの~」
記憶が無いの? 確かに別人格みたいだったけど……。それよりクミよ。まだ変身できる時間はある。
「クミ! 大丈夫?」
私は少女に変身して、植え込みに隠れて震えているクミの所へ駆け付ける。
「あ、あー、ミーナァー。怖いのだ、怖いのだぁ。ウッ、ウッ」
クミが私に抱き着き私の胸に頭を押し付けて泣き出してしまった。仕方ないよね。
「あ、あの……、お客様、そのお姿は……」
アンが一人で近づいて来た。
「あ、それ以上近づかないで。この姿はー、色々あるのよ。それよりあなた達は下がって、クミが怖がっているから」
「「「怖がっている!? 私達を?」僕たちを?」俺たちを?」
四姉妹が絶望した様にヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「・・・・・・仕方ありませんね、私達メイドは人を殺しすぎました」
「アン姉・・・・・・」「アン姉さん」「姉貴」
四姉妹が猫のように丸くなり抱き合う。それを見たクミが私を離れてメイド達に恐る恐る手を伸ばしす。いいの? クミ。
「あ・・・・・・、アン姉、みんな」
「「「お嬢様!」」」
メイドが一斉に立ち上がり、腰を四五度に曲げた。うん、完璧な最敬礼だね。
「申し訳ございません、私達メイドがお嬢様にどれだけ迷惑をおかけしたことか」
「すまねえ、謝ってどうなることでもねえが、お嬢の為なら何でもするぜぇ」
「本当にごめんなさい、どうか私達を嫌わないで下さい」
「お、お嬢様、ご、ごめん、なさい。どうかお姉ちゃん達を許してくれゃさい」
フローネは緊張の余り舌を噛んだみたい。
『『『お願いします』』』
姉妹が頭を避けたままバッ、と右手をクミに伸ばす。
何処かで見たような光景だ。
クミはヨロヨロと立ち上がりメイド達に近付き。
「許せないのだ、みんな、みんな、許せないのだ!」
「ーーお嬢様ぁあああぁ・・・・・・」
あれは涙だろうか? まるで蛇口から流れ出てるような勢いで水が姉妹の顔の辺りから出ている。だけど下がりかけた四本の腕をクミは両手で掬い上げる。
「「「はっ、お嬢様?」」」
四姉妹は顔を上げると、逆さに流れ額を濡らしていた涙が頬を伝う。
四本の腕を抱きしめる様にしてー。
「でも・・・・・・、でももう二度とクミの前で泡になって消えないと約束するのだ! 約束したならーウッ、くぅう。わぁあああん!」
「お嬢様!」「お嬢!」
クララが覆い被さるよう四人をガシッ、と抱きしめる。
「「グエ」」
「クララ、く、苦しい」
「あ! すまねぇ。お嬢、大丈夫か?」
「あはは、クララ姉はいつもそうだったのだ、懐かしいのだ」
「お嬢・・・・・・ははは、ワッハッハッ」
今度はクミも一緒になって五人で泣きだした、いや泣き笑いだね。・・・・・・まあ、なんとかまとまって良かった。
私達はその後屋敷の中へと通され、応接間へと通された。豪華な六人がけのテーブルに座ると紅茶とケーキが出て来た。
因みにユウコには水だけだ、それも少し濁っててボウフラが湧いている。
座って話しましょう。と言ったのに姉妹は絶対に椅子に座らず立ったままだ、まあいいか。
「さて、落ち着いた所で自己紹介と行きましょうか。まずは私から、私の名はミーナ。なんで人型のロボットになれるかと言うと、まあ神様が関わってるとだけ言っときます」
「なるほど、分かりました」
えっ! アンさん分かったの? 他の姉妹もうんうんと頷いている。
「そして私はマリ、ミーナ姉さんの妹、つまり後継機です」
マリは屋敷に入れないので窓の外から覗き込むようにしてる。
「そしてそして、お待ちかねのクミなのだ。フン!」
なぜか胸を張るクミ。
「クミ様とおっしゃるのですか? ウッ」
「クミお嬢様よ。ウウッ」
名前を聞いただけなのに皆涙目になってる。
「そしてそしてそして~、私は~」
「あ、あなたはいいわ、そこでこれでも食べてなさい」
アンがユウコの目の前に、肉が一切れも付いていない骨を転がす。
「・・・・・・私は、犬ですか?」
ユウコの目がまた変わった!
「そうです、あなたは犬以下です」
「犬は玄関で待ってろ! 部屋に入ってくんな」
クララの挑発にガタンと椅子を倒し立ち上がるユウコ。クララは腰に差し込んでいたトンファーを引き抜いて構えた。
「おっ、やるって言うのか? 相手になるぜ」
ええっ、またぁ。いい加減にしてほしい、話しが全然進まない。止めようと口を開き掛けたその時ー。
「止めるのだ! 仲良くするのだ、ケンカ禁止なのだぁ」
クミが声を上げた。
「も、申し訳ございません! 一度ならず二度までも。どうか私共に罰をお与え下さい」
「「お与え下さい」」
姉妹は片膝をザッ、と着いて頭を下げた。
「ミーナー・・・・・・」
クミが私に助けを求めてきた、私に求められても・・・・・・。そうだ!
「ユウコさん、メイド姉妹と確り握手をして下さい。それで今回は手打ちです」
「あ、握手ですか! この方と?」
「手が腐れるぜぇ、こんな奴と握手なんて」
「冗談が過ぎます、ミーナ様」
「そ、そうです、フローネは無理ですぅ」
それぞれ抗議してきたが。
「うん、良い考えなのだ。ユウコさんと握手するのだぁ」
「フッ、いいですよ握手しましょうか。この右手で!」
ユウコの右手がボワッ、と燃え上がる。
メイド姉妹は達はザッ、と後ろへ下がりそれぞれの武器を取り出す。
「一人ずつ骨も残らず燃やしてさしあげー」
「フウンッ!」
「ごわっ!」
私の上段回し蹴りがユウコの後頭部にクリティカル・ヒットした。
ドカッ、と倒れ込むユウコ。倒れて動かない、打ち所が良かったいや、悪かったかな? あ、動いた。
「いた~~い、何すんの~」
「あなたがシャレにならない事をしようとするからでしょ。いいからメイド達と握手して」
「は、はぁ~。分かんないけど分かりました~」
ユウコが手を差し出す。
「うん、なのだ!」
メイド姉妹は頷き合うと武器を収めてユウコの手を軽く握っていく。
「これで皆仲吉さんなのだ」
「ええ、ユウコさんがクミお嬢様や私達に危害を加えないなら」
「仲良くしてやらなくもねえぜ」
「あ、え~と~、宜しく~」
メイド達はユウコから離れ一定の間をとる。
「はいはい、この話は終わりにして。今の状況はどうなってるの? あなた達クミをお嬢様って言ってるけど、あなた達の本当のご主人様はどうしたの?」
と私が聞くとアンがあっさりと答えた。
「あ、失礼しました。前のご主人様とお嬢様は20年前に亡くなっております」
「えっ! どう言うこと、聞いた話しでは五百年生きて百年ごとにメイドを生み出し続けるって聞いたんだけど」
「はい、私達も当初そう聞いておりました。しかし年がたつにつれお二人はまるで人間の様に歳を取っていったのです」
「人の様に、歳を・・・・・・」
「はい、憶測ですがご主人様はこうおっしゃってました。我と我の連れは弾丸により事故で目覚めた、なので予定道理のことができないのではないか。と、それでお二人は八十歳で亡くなったのです。死因は老衰です。しかし五百年ご主人様を守るように造られた私達は正常らしく、他のメイドのように泡になる事もなく・・・・・・」
なるほど、そお言う事か。
「じゃあ何でクミのことをお嬢様と呼ぶのだ? まるでー、まるで青い髪の・・・・・・」
「それは前のご主人様がおっしゃったからです。ご主人様はこう仰いました」
「皆の者、今まで世話になった。我が輩はもう長くはない。なので今後もし人がまだ残っていて、この地に来るような事があれば、その者を主人と仰ぎ付き従うのだ。それが我のせめてもの・・・・・・」
「元ご主人様は人を、一つの種族を殲滅したことを悔いておられましたゆえ」
人を殺しすぎたのを悔いていた?
「ではもう人を襲って殺すことはー」
「もうしねえ、するわけがねえ」
「これからは人間のクミお嬢様が私達のご主人様ですから」
「も、もう人は殺さないよ、フローネ達はずっとご主人様の警護でー」
アンがスッ、と前に出て。
「私達は人を殺したことが無いのです。勿論殺すのを止めてもいませんけど」
これにマリは驚いたようで、窓の外から。
「本当に殺してないのですか? 青い髪以外で人を殺さないメイドが居たなんて」
じゃあこれだけは確認しておかないと。
「じゃあ他の人が現れても殺さないのですね?」