対メイド兵器 ユウコ
私の予感は当たっていた、いや違うことで。
私達は南極をなめていたよ、ちゃんとした装備も無しにこんな極寒の地に来てしまったのだから。
もう少しで基地だというのに、もう三日も吹雪に閉じ込められている。
「暗いのだ、いつまで夜が続くのだ? 寒いのだ・・・・・・」
クミが私の操縦席で震えている。
吹きだまりに穴を掘って吹雪が止むのを待っているのだけど、クミの食料がもう無いの。それに私の暖房だけではー、もう現界みたい、どうすればいいの? タマ。
タマはマリの中で丸くなったまま顔を上げて。
「今は待つにゃ、基地に向けて救難信号を出してるニャ、基地が生きてるなら救助が必ず来るはずニャ。それとマリニャンもう少し暖房を上げてくれニャン」
「もう現界ですタマさん」
その基地の人がまだ生きてれば・・・・・・、か。
その時私の音声センサーが吹雪の音以外の何かを探知した、方向はー、基地だ!
「マリ、探知してる?」
「はい! 勿論です小型の目標です、何か声が聞こえます」
「声? 流石マリ、私のセンサーにも・・・・・・」
「・・・・・・よーん、ピヨーーン、ピヨーーン」
「ぴ、ビヨン?」
変な声が近づいて来る!
「外に出るよマリ、クミ起きてベルトを締めて」
「わわっ、なにがあったのだ?」
クミは慌ててベルトを締める。
「はい、先行します」
「気を付けるニャ、メイドかも知れないニャ」
私達は穴から這い出し声がする方へ全センサーを向ける。
吹雪の中、何かが飛び跳ねながら近づいて来る。
「姉さん、バニーガールです、バニーガールが飛び跳ねながらこっちに向かってきます。迎撃しますか?」
「迎撃って、武器は無いでしょ」
武器は私の背中にある剣ぐらいだ。
バニーガールは長い金髪を後ろで纏め、毎日が吹雪の様な所なのに良く日に焼けた肌色だった。
「黒ウサギー、なのだ……」
「ピヨーーン、あ~、見つけました~」
私達の前に着地するとズボッと首まで雪に入り込んでニッコリと笑いかけてきた。
「アハハ、埋まっちゃいました~。だけど良かったですぅ、無事みたいで~」
「あ、あの、失礼ですがあなたはー?」
マリが話しかける。
「私ですか~、私は対メイド用兵器、通称ユウコだそうです~」
「え! あんたが対メイド用兵器なの?」
私が問うと。
「ええ、そうなんですよ奥さん~」
だれが奥さんだ! これは間違いなく予感敵中ね。
「ともかく敵ではなさそうニャ、助けて貰うニャ」
「アラ、アラアラ~、人の他に珍しい動物サンが乗ってるみたいですね~。このパターンは妖怪さん~?」
「み、見抜かれたニャ、分かるのニャ!」
「それはも~高性能ですから~、私の取説にもそう書いてあったの~、あ、でもでも~、予定では私の他にアイコ、リョウコ、ケイコ、カズミ、ヒロコ、マユミと六体作るはずだったんだけど~、エネルギーと時間が無かったみたいなの~」
えらくポワポワした喋り方をする子ね。青い瞳に良く日に焼けた肌、ホント黒ウサギだわ。
「黒ウサギ……さんなの・・・・・だ」
「クミどうしたの? クミ!」
「姉さん?」
「どうしようマリ、クミが……、動かなくなっちゃった」
「落ち着のニャミーナ、バイタルを確認ニャ」
「うん、……あっ! 大変体温がー」
「あら~、低体温症ですかぁ。じゃー急いで基地へ案内しますね、付いて来てください」
ユウコはジャンプをする為体制を低くしたのか、顔がスポッと雪の中へ。
「ま、待って下さいユウコサン、実は私達関節が凍っていてうまく動けないんです」
そう、マリの言うとおり私達の関節にはビッシリと氷が張りつき、動きが阻害されている。
「え、じゃあ~溶かしましょう」
「溶かすニャ? どうするのニャ」
雪の中から聞こえた声に反応できなかった。急に私達の周りを囲う様に火柱が上がったの。
凄い火力! 私達の周りの雪や氷が一気に溶けて周囲が水浸しにー、あ、水も乾いてー、アチチ!
「も、もういいよユウコさん! 止めて、焦げちゃう!」
「あれ~、止まんない。どうしよ~」
わあ! 振り回すなぁー。
「飛びます!」
マリが私の腕を掴んで飛び上がった。
ま、マリダメ、バランスがー。
炎を何とか飛び越えたけど、吹雪に叩き落とされた。
「姉さん、大丈夫ですか?」
「ええ、うまく雪がクッションになってくれたわ」
「蒸し焼きになるところニャ」
ユウコはー、あー、今度は何か黄緑色のネバネバしたのを両手から出してる。
「エーン、何コレ変な匂いする~」
「落ち着くまで待とうか、近づきたくないし」
「何言ってるニャ、クミを早く治療するニャ」
「あっ、そうだった。じゃあ後ろから近付いてー・・・・・・」
「誰か止めて下さい~、あー、今度は七色の変な物が~」
「チョップ!」
「おご! きゅう~~」
軽く叩いたつもりだったのに、ユウコは気を失ってしまった。
その後ユウコを復活させて(角度を変えて又チョップ)真空管のテレビみたいに復活したユウコに案内され、私達は南極基地へとたどり着くことができた。
「あ、あの~、お話とは何でしょうか~」
他の場所は穴だらけだったり潰れていたりしていたけど、この一角だけ暖房が利いている綺麗な格納庫だ。そこに戻ってきたユウコは少しオドオドした態度で私達を見上げた。
クミは基地に生き残っていた医療ボックスに入れたので一安心だ、このボックスは治療を自動でしてくれる優れものなの。
流石人類最後の砦、科学技術がだいぶ復活してる。でも肝心の人がー、居ない。
「まずはお礼を言わせて、ありがとね、助かったわ。で、私はミーナでこっちがー」
「マリと申します」
「あ、あらあら、まあまあ、いいんですよぉミーナさんにマリさ~ん。アハハハ」
「もう少しで蒸し焼きになるところだったけどね」
「アハハハハ・・・・・・、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げるユウコ。
「それにしても良く私達のことが分かりましたね、さっき外を見ましたけどレーダーやアンテナ類は全て壊れてるみたいですけど」
「ええ~、マリさんがおっしゃる通り全滅ですぅ。でもあの方が私を起こしてくれたので~」
「あの方?」
「はい~、クミさんにソックリなので~、多分クミさんの守護霊さんですよ」
「「守護霊!?」ってなに?」
私が聞き返すと、微笑みながらー。
「文字通り~、守ってくれる霊の事ですよ~。ニコニコ」
「姉さん、この方は本当に対メイド兵器なのでしょうか」
「う、う~~ん」
神様が居るんだから守ってくれる霊もー、それにクミに似ているって、それってー。腕を組み考えていると。
「今も居ますよ~、ほら~、ミーナさんの右肩に~」
「右肩!」
バッ、と首を振りと右肩を凝視したけど何も居ない。そう言えばユーヤはいつも私の右肩に乗りたがっていた、危ないので絶対に乗せなかったけど。
やっぱりユーヤ、ユーヤが……。
「あ、ごめんなさいです~。今バラスなって怒られちゃいました~」
何か感じる物があったのか、マリがしみじみと。
「不思議な人。いえ、不思議な兵器ですねねユウコさんは」
「いや~、どういたしまして~、照れるな~」
「別に私褒めてませんよね? 姉さん」
「そう……、ユーヤが守っているのね。ごめんなさいユーヤ、見つけるの遅れちゃって」
「ったく、いつもおせーんだよお前は~って、ニコニコしてますよ~」
「ムッ、最近右肩が重かったのはユーヤのせいだったのね?」
「アラアラ、人を悪霊みたいに言うな~って怒ってますよ~」
フフ、久しぶりだなぁこの感じ。
「……姉さん」
「あ、そうだったゴメンマリ。ユウコさん、あなたに協力してもらいたいことがあるの。世界は今どうなってるか知ってる?」
私がそう言うとユウコの肩がビクン、と震えた。
・・・・・・あれ?
「さぁ~、な、何でしょうか~、私ぃ~起動したばかりで~、何にも知らないの~。プスー、スー」
ユウコはズリズリと後ろへ下がりながら吹けもしない口笛を吹いている。
明らかに何か知ってるわね。
「起動したばかりってユウコさんはいつ起動したのですか? なぜ今まで起動しなかったのですか?」
「あ~、え~、正確には五十年ぐらい前に一度起動してるんですけど~、あ、メイドさん達がこの基地に来たときですね~、アタシ寝ぼけてて~倉庫に突っ込んじゃってぇ、そのまま二度寝しちゃったんですよ~」
「う・・・・・・、ユウコさんを造った人達の落胆が感じられます」
「でしょうねぇ~分かってくれるかぁって、涙流しながらマリさんの周りに地縛霊が寄ってきてますよ~」
「えっ、えっ、やだ、追い払って!」
「マリ、マリ大丈夫よ。そんなの居ないから、ね?」
「で、でも姉さん、地縛霊が、怨霊がぁー」
バタバタと暴れるマリを落ち着かせ、無理やり本題に入る。
「そんなことより私達と一緒にメイド達と戦って欲しいの、メイド達が減っている今がチャンスなの」
ユウコはまた少し後ずさり。
「あ、あ~やっぱり~、そうですよねぇ~、そうきますよねぇ~。でも~私ぃ~戦いは嫌いなんですよ~、話し合いで何とかなりませんか?」
「っ! なるわけないでしょ!! あなたそれでも対メイド兵器ですかっ! 私達は兵器なんですよ、兵器が戦いを拒絶するんですかっ!」
「お、落ち着いてマリ」
マリがこんなに激昂するなんて初めてだ、基地司令の霊でも乗り移ったのか?
「ふぇ、ふぇ~~ん、ごめんなさーい。だって、だってぇ~」
ユウコはその場に頭を抱えて蹲ってしまった。
「だってじゃありません! だいたいあなたはー」
「まーまー、それぐらいにしとこうね、マリ」
追い打ちを掛けるようにマリは上から詰め寄るが、このままでは話が進まないので我慢して貰おう。
「ね、姉さん・・・・・・。分かりました」
「うん、ありかとねマリ。ゴメンねユウコさん、さ、立って」
私は爪をユウコの前に差し出す。
「う~、ありがとうございますぅ~。ミーナさん優しい・・・・・・」
爪に手を掛けて立ち上がったユウコはモジモジしながら私を見上げた。
「ユウコさん、さっきも言ったとおり、メイド達が減る今がチャンスなんです。お願い、戦って」
ユウコは分かってくれたのか急に真面目な顔になり。
「わ、分かりました、確かにこのままではいけませんよね。頑張ってみます」
ユウコさんはグッと両手を握りしめ、真剣に顔になった。
「ありがとうユウコさん、分かってくれて嬉しいわ」
「それでメイドさん達が増えるのはだいたいいつ頃なんですか~?」
「へ? あーっとぉー」
そう言えば減るとは言ってたけどいつ頃増え出すんだろう、確か今のメイドが全滅してからとかー。
私が固まっていると。
「へ~、そーなんですかぁ~。なるほろ~」
私の頭上を見ながらユウコが変な相づちを打ち始めた。
「えっ、私の後ろに誰か居るの? ユーヤよね?」
後ろを振り返りながら言うとユウコはニコニコしながら。
「いいえ~、ミーナさんは本当に凄いマジンさんですね~。神様が憑いているなんて~」
「か、神様!」
「あわわ、これも言っちゃダメな奴ですかぁ。ごめんなさいです~」
「神様って二十歳前後で金ピカの髪飾り付けている人?」
「はい~あばば、違いますよ、全然違います~」
慌ててる、絶対あの時の神様、アリスちゃんだ。
「で、その神様は何て言ってるんですか」
「そんなに急がなくても大丈夫よ~って言ってます~」
「本当に?」