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「コピー」
音の魔法を開発して、それから少し経ってから、
珍しいことがあった。
監視下の目のある中でだけど、あたしは外に出してもらったのだ。
その日は水に感謝するお祭りがやってて、シュナイデという名前の町の中はとても賑やかだった。
たくさんの人がいて、たくさんの店がある。
そんな賑やかな光景を見ると、少しだけ嬉しくなってしまう。
外にでて、他の人と話すなんていつぶりだろう。
ヴィンセントは勉強の鬼だし、会話をする方じゃない。ヨミはそもそも喋れないし。
イブや砂粒は話したくないから。
そんな祭りの中では、あたしにそっくりな人を見かけた。
よく分からないけど、素直じゃなさそうでとても苦労しそうな人だった。
ああいうのはきっとツンデレっていうやつだ。
維持張ってないで、素直になればいいのに、色々なしがらみとか考えに邪魔されてうまくできないみたいだ。
でも楽しそうだった。
友達がたくさんいるから、きっと周りの人が助けてくれているのだろう。
大切にしてほしいなと思った。
楽しい祭りはあっという間に終わってしまう。
色々大変な事が起こったみたいで、皆が顔を曇らせていた。
あたしとそっくりの顔の人は、路地を沢山逃げ回っていて大変そうだった。
あたしはそれを建物の上から見てる。砂粒たちと一緒に。
その中であたしは、砂粒にある決断を迫られていた。
それを聞いたあたしは驚いた。
だってそれは、「入れ替わる権利」を上げると言われたのだから。
相手は、あたしとそっくりなあの人と。
砂粒は打ち明ける。
あれもあたしだと、そう言った。
あたしのお父さんとお母さんと幸せに暮らしている身代わりだと。
あたしがコピーなら、あの子は本物のあたしだと。
そう言った。
つまり、あたしは偽物だったのだ。
作られた人間だった。
そんなのずるい、と思った。
あたしだって同じなのに。
同じ方城未利なのに。
なのに、なんであの子だけ幸せなんだろうって。
だから……少しだけ嫉妬して「入れ替わり」を考えてしまった。
迷ってしまった。
けれど、やめた。
だってその子は、子ネコウの姿をしていたヨミを助けてくれたから。
その後は、考えの時間は終わり。
あたしはどこかの屋敷の「別邸」へ入れられて、ずっと終わるまで暗い部屋に閉じ込められる事になった。
あたしの心は色々あって壊れてしまう。
後の事はマツリ・イクストラに任せた。
難しい事はよく分からなかったけど、
彼女がもう一人のあたしと同期をすませて、知識とかを橋渡ししてくれるらしい。
だからこれで良かったのだ。
入れ替わらなくてよかった。
あたしは辛いけど、本物のあたしには幸せになってほしい。




