土踏み
人を殺したので、死体を車に乗せて山に運んだ。
道路に車を止め、袋を被せた死体を引きずって木々の中に入る。
五分ほど奥へ行って、草むらの陰に穴を掘って埋めた。
引き返すときは身一つなので早かった。
道路に着こうとした時、人の声が聞こえた。歌っているようだった。
人の気配はまるでなかったのに、急に複数の男の声が響いてきたのだ。
「……――くび……とれ……――」
声は死体を埋めてきた場所の方向から聞こえる。
歌は妙な節で歌詞が聞き取りにくい。
「武士は首獲れ――、雑兵は身ぐるみ剥がして埋めちまえ――」
歌詞が聞き取れた時には、ゾッとした。
車の陰で息を潜ませる。
やがて歌が終わり、山は鳥の声と風が葉を揺らす音だけに戻った。
迷ったが、死体を埋めた場所に戻ることにした。誰かに見つかったのではないかという不安と、気味の悪い歌のせいで焦りを感じる。
息切れしながら、その場所に辿りつく。
土の上を、足跡が埋め尽くしていた。自分のスニーカーの裏と違い、俵型というか、輪郭に丸みがある同じような跡が無数に。
まずい。誰かが来たんだ。埋め直さないと。
その場所を掘り返すと、土の中から手が見えた。
スコップは後で洗うが、できるだけ血を付けたくない。
横たわらせたその形を傷つけないように、けれど急いで掘り起こす。
ようやく掘りだせたが、首から上が見つからなかった。
<土踏み 終>