勇者気質の魔王爆誕?
見切り発車でまったり更新します
ゆったりと心地のいい眠りの続きは、授業の合間の中休みで。
次の体育の授業はお得意のサッカーだけど、隣のクラスには同じサッカー部のやつもいないから、物足りないんだよなぁ。
そんな事を考えながら、浮上していく意識に引っ張られて瞼を開けたら……
開けたら、なんか、金髪のロン毛野郎が土下座してた。
「んんんっ!?」
一体全体どういう状況なのかわからず、まず辺りを見渡した。けれど唯一入ってくる視覚情報は真っ先に視界に入ってきた金髪野郎。
右を見ても白。左を見ても白、上下どこを見ても白。白い部屋にいるのかと目を凝らしてみても角が見えない。
自分の足元と、金髪野郎の下に辛うじてうっすらとある影以外、白で埋め尽くされた場所のどのあたりに自分がいるのかすらもわからない。
その影すらなかったら、上も下も分からなくてぞっとした。
「なんだ……これ、夢か??」
独り言はあまり呟く方ではなかったけど、あまりにも非現実的な風景に思わず口から漏れる。そうだね、夢さ。と、誰かに肯定してほしかったらからだ。
けど。
「夢ではありません」
そう。きっぱりはっきりと否定された。
目の前の土下座野郎は、ゆっくりと頭を上げて俺を見上げて言った。
「現実です」
そこにいたのは目をむくほどの美形だった。髪の毛と同じ黄金色の瞳も含め全体的に色素が薄く、クラスの女子共がこの場にいたら耳をつんざくような悲鳴をあげそうなレベルだ。
イケメン死すべし。
いや、そうじゃなくて……
「こんな真っ白な中で、あんたみたいな人に言われても、夢にしか思えないんだけど」
俺がそう言って戸惑っていると、イケメン金髪野郎は、くわっと音がしそうな勢いで目を見開き。
「オッシャルトォリデーーーー!!!ほんと、ほんとにっ、ほんとーーーに申し訳ない!!!!!!」
またはじめの土下座ポーズに戻った。しがも床?に頭を叩きつけたからか、ゴンッと鈍い衝撃音が聞こえる。
あれ、めっちゃ痛いんじゃねーかな?
しかも、複数回床に頭たたきつけてるけど、大丈夫か?
謎の陳謝を受けている俺はあまりの勢いに押されて「ちょ、え?何?」と意味のない声をあげるしかできなかった。
「これは夢ではありません。現実です。そして、あなたは魔王です」
ん?
ずずいと接近してきた金髪野郎に、このやろう、パーソナルスペースとりやがれ!と文句を言おうとした瞬間聞こえて来た声に俺は吸い込んだ息をゴックンと飲み込んでから首を傾げた。
なにやら知っているけど聞き慣れない単語が聞こえたような聞こえなかったような。
まおう?って、あれだよな。とりあえず世の中支配してやるぞー!って感じの悪いやつだよね?
それが何?ゲームにはまってた小学生の頃に勇者とその仲間たちごっこしてて近所の偏屈じいさんを「魔王」に見立てて退治してやろうなんて息巻いてた黒歴史しがねーぞ??
「おっしゃられてる意味がわかりかねますけどもっ!?」
「言葉通りの意味ですけれども!?」
動揺しまくりな俺のテンションに合わせてくれたらしいが、全く答えになっていない返事をされて、ぐったりとうなだれた。
夢だよな?否定されたけど、こんなのどうしたって夢以外の何者でもないよな??
なのに、なんでこんなに疲れてんだろ?
教室で寝ている俺は、よほど変な寝相で寝てるに違いない。
そうに違いないっ!
「えっと、お話しさせていただきたい事があるんですが、よろしいでしょうか?」
ここが白い空間の隅っこかなー?って辺りをぼんやりと見つめていた俺の視界は、またもやパーソナルスペースガン無視の野郎に埋め尽くされた。
なんなの?こいつ怖いっ
反射的に利き手がでて、金髪野郎の肩をぐいぐいと突き放してやると、素直に距離をとってもらえたのでほっとする。
「よくわかんないんだけと、とりあえず聞くわ」
たぶんここで「聞きません」を選択しても、また同じ質問が発生してエンドレスになりそうな気がして、俺も素直に聞く体制をとった。
「あまり時間もありませんので、質問などは次の機会でお願いします」
次の機会?
があるらしい。時間がないというなら、とりあえず了承の意味を込めてもう一度頷いた。
「あなたは、今まで存在していた別の世界、いうところの異世界から、魔王として召還されました」
うん、魔王ね。さっきも聞いたな。その黒歴史ワード。
地味にえぐってきやがる。
しかも、「今まで~いた」っていう過去形表現がすっごく気になるんだけど?
「本来、あなたは勇者として召還されるはずだったのですが、どうやら魔王召還と勇者召還の儀が、同じ日の同じ時刻に行われという奇跡的な偶然が起こってしまい」
え?魔王の次は勇者??え?俺世界救っちゃう系だったの?
何それ、恥ずかしすぎて死ねるんですけど。
いや、俺は魔王なんだっけ?
「さらに、召還する対象が同じクラスの人間という、神である私すら予測できなかったまさに因果の奇跡のせいで、魔王と勇者が入れ替わって召還されるという前代未聞の空前の危機的状況なのです」
さらに「神」きたーーーーー!!!
なんだコノヤロウ。神様なら長い白髭を蓄えたおじいさんあたりにしろよ!!!若くてイケメンで神様とかふざけんなっ!
天は二物を与えるとかそんなんかっ!?
いや、天じたいがこいつかっ!?
なんでもし放題じゃねーかっ!
「……私の事は横に置いて」
思考を読むなっ!
「本来あなたを勇者として送り出し、基本的な説明は召還主である人間の魔術師が行う事で、状況を知り訓練を行い、魔王討伐へ向かうはずでした。しかしあなたの属性にはすでに魔王として書き換えられてしまった。このままでは魔王の召還主である魔族の元へなんの備えもなく召還されてしまいます」
勇者も備えねーじゃん。何もかも現地調達じゃん。
「そこで問題になるのが、魔王の資質です。魔王というのはその性格の残忍さが魔王の力の源になるのですが……」
イケメン野郎改めて、神野郎様は下を向き困ったように笑った。
「本来勇者としての資質を持つあなたに、魔王の属性を使いこなすのはとても難しいのです。つまり……」
つ、つまり?
いきなり沈黙やめてっ!
ほんとやめて!
夢なんだろ?夢でも、なんか、こう、すっごく嫌な予感しかしねーんだけどっ!!!
「魔族と顔を合わせた瞬間。魔王に足らぬとみなされて、殺されます」
帰っていいかな?夢よ覚めろっ!!!
早くっ!なうっ!!!
ダメだ。まったく起きれない。
嫌な話だと思う。夢ならせめて、普通に世界を救う勇者として活躍してくださいって話で気持ちいい気分に浸らせてほしい。
勇者とか恥ずかしくて死ねるけど。
殺されるために召還されるとか、そんな未来のない話、ガチ悪夢じゃん。
しかし、この話があるからはじめに神野郎様は土下座から入ったんだな。
そこは納得したが……けど。
神様なら、この召還待ったーーー!!とかできなかったのかよっ!
「まっ!安心してくださいっ!殺されないために、ちょっとした策を授けます!」
すげぇ、イケメンでもドヤ顔するとすごい腹立つ顔になるのな。
あ、イケメンの時点で腹立ってたわ。
「そんな策とかよりまず、召還なかったことにしろよっ!」
「残忍ですが、神様でもできない事はあります。いえ、むしろできない事だらけですともっ」
だから、ドヤ顔やめろっ!何んにもいばれないからね!
むしろTPOに沿った申し訳なさそうな顔でもしてくれよ。
「私ができることは、ほんとに少ないのですよ」
ふいに、ストンと音がしそうなほど声のトーンが落ちた。出会い頭から高めののりで話していたから気がつかなったが、顔に似合わず低音の声で、言葉に含まれた感情は疲れた老人の独り言のような不安定なものだ。
雰囲気が一気に暗くなった気がして、俺は思わず「そうなんですね」なんて語尾を高くして返事をしてしまった。だからといって、明るくもならなかったけどね!!!
しかし、神様とやらは訥々と話の続きを始めた。感情の小波の余波を沈黙で語る余裕すらないと思わせる隙の無さだ。
神様なのに、余裕ねぇなぁ。
あっ、余裕あったら、土下座からはいんねーか!
「まずは召還された先で案内をつけます。国や宗教、大陸が違っても物理的や法則は変わりませんが、世界が違えば現在お持ちのそういった『常識』というものはまったく通用いたしません。なので、あなたの持つ知識との差違の説明やこれからの行動の指針を行いますので大事にしてくださいね」
大事にしてって事は、手に触れられるものなんだろうか?
ここは、ここは一つ可愛い女の子にナビゲートされたい!!!
って、おい。だから心読むな!
なんだ、その憐れむような目は。
こちとらサッカー一筋すぎて、女の子の手を握るのすら幼稚園を卒園してから今まで一度もないわ!!!
「『子』ではありませんが、『女性』ですよ」
お?まさか、まさかの年上のおねーさまっ!?
く、なんだそれ。ドキドキしてきた。
「それから、喚びだされる時間と場所を少しずらします。本来の時間よりきっかり二年前。そして場所は魔族の住まう土地ではなく、人の領地です。そこで殺されない程度に基礎を磨いてください。本来の時間になれば、魔族の召還師達の元へ転送されるので気をつけて」
え?過去にいくって、事?
「次に、あなたの見たも人に馴染む程度に少しいじります。ま、そこは現地確認で」
おい、なに適当な感じで流してんだ。
見た目大事だろっ!あ?
「あとはこれを」
伸ばしてきた手の中には、まるで蜂蜜を宝石にしたような綺麗な石が収まっていた。宝石なんかに興味はないけど、純粋に綺麗だなって思う。
差し出されたそれを、反射的に受け取ると、途端にどろりと溶け出した。
「うわっ!」
今や蜂蜜と言われても頷いてしまうレベルで粘液と化したそれが、指の間から滴り落ちそうになる。けれど手の甲にたどり着く前に、するりと消えていった。
まるで肌に染み込むみたいに……
「きもちわるーーーーっ!!!!なんだよこれぇえっ!」
水気を払うように手首をぶんぶん降ってみるが、飛び散ってほしかった液体はすっかり俺の手の中に入り込んだ後だった。
「神様の恩恵を『気持ちが悪い』とは、失礼な魔王ですね」
ありがたいものなら、渡す前にちゃんと説明しろっ!普通こんな粘度のあるもの渡されたら振り飛ばすわっ!
ってか恩恵って……?
「それはついてからのお楽しみで」
こ、こいつ。
神様らしいけど、殴ってもいいかな?
ちょっとだけ、小突くだけだから。
「ダメに決まってます!暴力反対っ!握って振り上げた拳はそっと下ろしてください!」
ちっ
「あっ」
俺が心底悔しそうな顔で握り拳を下ろしたのを見て、ほっと胸をなで下ろした奴は、何かに気がついたかのように声を上げた。
「すみません。もう時間のようです。渡せるものはお渡ししましたので、後は案内と一緒に頑張ってください。たぶん、おそらく、メイビー大丈夫なはずです」
え?待って?最後になんで不安を煽るような副詞????
言い訳でも聞かせてもらおうかと、実を前に乗り出した瞬間。俺は膝から力がガクリと抜け落ちるのを感じた。反射で手が前に出て、転倒を防ごうとする。
けれど、その手が床に触れる事はなかった。そもそも床がなかったのだ!
だから、膝がガクンってなったんだな。納得!
じゃ、ねーーーからっ!!!
床が抜けるなんて経験したことのない俺は焦った。とにかく焦った。コンマ何秒。まさに一瞬の時だったのに、ぶわりと全身から冷や汗が溢れでたのを感じる。
ふわりと浮いて、不安定になった体はバランスを失ってすわ真っ逆さまに落ちていくっ!?かと思いきや、すぐに手のひらに何かが触れた。
「私にできるのはここまで。あとのことはすべてあなた次第。
得るものも、失うものも多いでしょう。けれど、勇者に選ばれたあなたなら、きっと生き残れるはずです。ま、実際は魔王なんですけど。
ただ、一つだけ。あたなの可能性を私は信じたいのです。
勇者になるはずのものが、魔王として生きていくことで、世界がはきっと変わる。
私は『神』
あなたの生き様を見守りましょう。
さぁ、いってらっしゃい。
大貫 忠人 くん」