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(更新9)

【ヴィーシャ】



「クラウス!親父さん!おい大丈夫か?」



倒れているクラウスにザップ達が駆け寄った。


クラウスは呻き声をあげながら右手を挙げる。


左腕が変な方向を向いている…折れたわね。



「済まねぇ、俺が先走ったせいで」


「儂が部屋に飛び込むのを提案したんじゃ、お主のせいではないぞ」



ドワーフの、太い腕が折れるなんてね。滅多にある事じゃないわね。


……使うしかないわ。



「……ちょっとどいて」



私はクラウスの傍に座ると術式を展開した。



「何するつもりだ?」


「黙って……」





死霊術基礎式

付属式・腐蝕

付属式逆転接続



魔法の光を放つ私の手で、クラウスの折れた腕に触れる。



「な、なんじゃ?」



クラウスの意志とは関係無く腕の筋肉が脈打ち、指先がビクビクと痙攣する。


数分後、額の汗を拭きながら私は立ち上がった。



「……これで……大丈夫。クラウス、腕を動かしてみて」



魔力の消耗が激しいせいで息切れがする。



「……なんと!?」



クラウスが驚いて私を見た。



「……おいヴィーシャ、どういうこった?」


「回復魔法…?主人!貴女は」


「驚きまシた」


「クラウス……まだ無理はしないで……後でまた掛け直さないと……」



立ち上がったのはいいけど、ふらふらだわ。


思わず躓く私をガンズが支えてくれた。



「……とりあえず、この事は内緒にしてて……後、休ませてちょうだい」




意識が……薄れていく……





【ガンズ】


意識を失ったヴィーシャを床に寝かせ、俺達は野営の準備をした。


ザップの言うにはヴィーシャは魔力切れによる失神だそうだ。


ゾンビ達はヴィーシャからの命令が無い為に、部屋の隅に固まっている。


ノラが火を起こし、晩飯の用意をする傍らでザップとクラウスが話し込んでいる。



「無理はいけねぇ親父さん。ヴィーシャもこんな塩梅だ」


「……仕方ないの、迷惑をかけてしもうた」



俺はドラスと一緒に魔物を解体していた。



「ガンズ殿、毛皮を持って帰りまショう。ソれから心臓を取り出シて下サい」


「心臓?何に使うんだ?生薬の材料になるのか?」


「魔物の心臓は魔力の回復薬に使うのだとかで高値がつきまス」



ドラスの話では魔力は血液と共に身体中を巡っていて、その為心臓には強い魔力が宿るのだそうだ。


魔物と呼ばれる生き物は、魔力量が高く、例え魔法を使わなくとも自然に身体強化などを行っている。


魔力の高い地域で産まれ育ち、その影響で突然変異した生き物=魔物という訳だ。



「鳥竜の心臓も確保シてあります」



抜け目ないな。



「ガンズ殿はこの魔物を知っていまスか?」


「こいつらは猿熊だ。見かけは熊だが、猿の様に群れで行動する。俺のいた国にも数は少なかったが、いたよ」



猿熊の毛皮を剥ぎ終えて、胸から心臓を取り出す。血は抜いていいらしい。



「結構寒い地方にいるんだがな、なんでダンジョンにいるんだか」


「公爵様の御力でショうか」



解体も終わり、晩飯を食っている時、ザップが皆を見ながら言った。



「済まねぇが皆、聞こえてただろうが、明日帰還する」



まぁそうだろう。クラウスとヴィーシャをかばいながら探索を続行する訳にはいかない。



「クラウスはそのまま寝てくれ、不寝番は俺達でやるよ」


「済まんの」



俺の言葉にクラウスが頭を下げる。


最初の不寝番は俺とノラになった。


五階層は湿気が多く肌寒い。


焚き火の火を強め、部屋の湿気をとばして皆が暖かく眠れる様にする。


ノラはヴィーシャの事が気になるらしく、その寝顔を見ている。



「律儀だな。主人を心配する奴隷を初めて見た気がする」



ノラは俺の言葉にきつい眼差しを向けた。



「……彼女は私を『共に生きる者』と言った」


「なるほど。悪かった。気にさわったなら謝る」


「……いや、確かに主人を心配する様な奴隷は居ないな」



くすり、とノラが笑った。



「公式には彼女と私は主従の関係だ、強制的な。だが彼女は不満らしい、彼女の種族の特性のせいで私を解放出来ない事が」


「皆が起きている時と口調が違うな」


「こっちが本来さ、これでも皆には気をつかっている」


「俺には気をつかわないらしい」


「丸裸を見られた相手に気をつかうか」



思わず噴き出した。


ノラは、声を殺して笑う俺からプイと顔を背ける。



「……しかし不思議だ」



笑いを抑えて話を変えた。



「何が?」


「ヴィーシャだ。回復魔法なんて誰も開発出来ていないと聞いている」


「光神教以外では?」


「まぁそうだ。が、ヴィーシャは何故内緒にしたいのかな?」



解らない事は他にもある。



「それからヴィーシャの衰弱ぶりだ。ヴァンパイアの魔力量は俺達オーガやヒューマンに較べたら無尽蔵と謂えるくらいのはず。光神教の僧侶がたった一度の回復魔法で戦線離脱するとは聞いてない」



ノラは俺の話を聞きながら、ヴィーシャの寝顔を見る。



「その辺りの事は、ダンジョンを抜けてからの方がいい」




─────────


翌日、未だ魔力の回復が足りていないヴィーシャを担ぎ、俺達はダンジョンを抜けた。


途中、魔物を上手くかわし、戦闘を回避出来たのはザップとドラスのお陰だ。さすがに斥候二人だけでダンジョンに潜っていただけの事はある。


ダンジョンの出入口のところで予定通り三体のゾンビを骸骨兵に引き渡す。


骸骨兵は何やら護符の様な物に向かい、それに話し掛けた。護符からも声が聞こえてくる。


誰かと連絡を取る道具なのか。


程なくして、骸骨兵は俺達に銭袋を寄越した。


……ゾンビの引き取り代、いや骸骨兵を造る材料代という訳か。


銭袋には金貨三枚、銀貨十五枚が入っていた。臨時収入としては有りがたい。


宿屋に着き、ヴィーシャを部屋に連れていくと、ヴィーシャはクラウスに回復魔法をまた掛け直した。


ヴィーシャ曰く、完全に治すには後一度は回復魔法を掛けないといけないらしい。


当然の如く、またヴィーシャは倒れた。無理をするなと言いたいところだが、クラウスの腕を自然治癒に任せると二~三ヶ月はかかる。魔法を使えば数日だと言われれば、小言も言えない。


翌日、ザップが皆に分け前を渡した。魔物の素材等も換金してきたそうだ。



「ガンズ、旦那ちょっと付き合ってくれ」



自分の部屋へ戻ろうとしたところ、ザップに呼び止められた。



「ヴィーシャとノラの分け前を渡しに行こうや」



一人で行けばいい様なものだが、まぁヴィーシャの見舞いに行くつもりではあったので、ついていった。


ヴィーシャとノラは二人で部屋を使っている。元兵舎だったモーテル型の建物をいくつも通り過ぎ、一番端のさらに端の部屋。



「……ったく、空き部屋なら食堂から近いとこにいくらでもあるってのに、何だって一番遠い部屋使うかねぇ?」


「魔法の実験で爆発とかするんじゃないか?」


「ぉお怖っ」



二人で馬鹿な事を言いながら部屋の前に着く。


軽くノックをするとノラの返事が聞こえてきたので扉を開けた。


「ようお二人さん、調子はどう……だ……ぃい?」



ザップも俺も目の前の光景に暫し絶句する。


ベッドの上にヴィーシャが半身を起こして…


……ノラの脛にかぶり付いていた。



「……お邪魔だったかな?」


「……食事中か?」


「食事じゃないわよ」



ヴィーシャがノラの足から牙を外して憮然と答えた。



「ノラ、もういいわ……ありがと」


「お茶を淹れます」



俺達はお互い目を合わせると、部屋に入った。




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