(更新5)
【ガンズ】
「皆、今夜は時間をさいてくれて感謝するぜ。取り合えず乾杯といこう」
パーティーを組む全員で顔合わせをしようとザップに誘われ、食堂で落ち合った。
ジョッキを打ち鳴らしエールを呑み交わしながら、俺は同じ卓につく面々を観察する。
以前風呂で会ったヴァンパイアと黒エルフの二人に加え、リザードマンとドワーフが一人、そしてザップ。
「じゃあ、お互い知ってる奴もいるだろうが、改めて自己紹介といこうぜ」
「……なら言い出しっぺのザップからね」
ヴァンパイア娘が気だるい口調で言った。
「俺の事は皆知ってるんだから」
「駄目よ、皆知ってるって事は貴方がリーダーでしょ?」
「……俺がリーダーか。ちょっと胸にくるものがあるな。よし」
ザップは立ち上がり、周りを見渡して言った。
「ザップだ。斥候をやっている……おい何て言やいいんだ?……あ~、俺の誘いに乗ってくれて皆には感謝している。ドラスと二人でやってきたが、面子を増やしたいと常々考えていた。それがやっと叶った、これからよろしく頼む」
ザップが座ると入れ替わりにリザードマンが立った。
……皆立つのか?
「ドラスでス。ザップ殿と同じく斥候でス。斥候は一人では作業が困難というザップ殿の考えに共感シて御一緒シております」
イグアナめいたリザードマンの顔からは表情が読めない。
口調や仕草から生真面目な感じは受ける。
次のヴァンパイア娘は立ち上がらなかった。
「ヴィーシャ。魔法使いだけど前に出て戦えない訳じゃないから。……専門は死霊術、他に元素術と錬金術も少々。精神魔法はヴァンパイアだから普通に使えるわ」
死霊術が専門とは驚きだ。結構嫌われてる分野と聞いている。
そして精霊魔法以外全部扱っておまけに前衛戦闘もいけると?
流石ヴァンパイアということか。
「ノラです、主人の従者として参加します。弓と……簡単な精霊魔法を」
「精霊は何と契約してるんだ?」
ザップが訊いた。
「サラマンダーとウンディーネ、火起こしと飲み水呼びくらいですが」
「そりゃありがたい、あんたの事は皆と同じに扱わせてもらうぜ、皆もそのつもりで頼む」
生活に使う魔法は地味だが便利だ。ザップの言う通り、奴隷扱いはするまい。
「儂の番だな、儂はクラウス。見ての通りドワーフだ。この前までヒューマンのパーティーにおったんだが、どうもいかん。で、こっちに来た」
クラウスというドワーフ、以前のパーティーと上手く折り合っていけなかったらしい。
俺の番か……
「ガンズだ。東のラムールから来た」
…………
「え?それだけ?」
「あぁ、そうだな……以前は軍にいた。部隊長をしていた……それくらいかな」
他に言う事はあるか?ないな。
「は~いおまちどおさま~」
大皿に盛られた料理が運ばれてきた。
いつものライカン娘と、他にいつもは厨房で働いているらしい全身鱗で覆われた種族の娘……というか子供が二人で運んでくる。
途端にドラスが立ち上がり、子供の方に向かって共通語とは違う言葉で話し掛け、頭を下げた。
子供の方も同じ言葉で応えた後、共通語で俺達に言った。
「本日はパーティーの結成おめでとうございます。さ、料理長が皆さんの為に腕を奮いましたわ、後堪能ください」
ドラスよりも流暢な発音だった。
物腰から育ちの良さが窺えたし、リザードマンにしては色々違う。
顔はヒューマンやエルフと同系統に見えるが体毛は無く人型と爬虫類を混ぜた様に見える。こめかみから後ろに流れる様に角が伸びていた。
「姫様申し訳ない!言って下さればこっちで運びましたものを」
「……ザップ、言われなくても気付きなさいよ」
ザップが子供にヘコヘコ頭を下げ、ヴィーシャが呆れ顔で言った。
「……ふ~、寿命が縮まったぜ」
ザップが冷や汗をかきながら座る。不思議に思って訊いてみた。
「誰だ?厨房に居るのを見掛けた事はあるが……」
「ありゃあドラゴニュートのお姫様だよ、ドラスの主筋なのさ」
ドラゴニュート!そういえば背中に翼があったな。
「なんでお姫様が宿屋でおさんどんしてるんだ?」
「……あの方は陛下の婚約者なのよ」
不満げに横からヴィーシャが口をはさむ。
「ヴァンパイアとドラゴニュートは永い間争ってきたわ、とても永い間。あの方は和平の証に輿入れしてきたの」
「……ヴィーシャ、そんな御方がなんで宿屋にいるのかが解らないんだが?」
「あの方が望んだからよ、王宮は暇だって。陛下は離宮をお造りになるご予定だったのだけど、故郷では草むらに寝ていたんだから自分一人の為だけに建物建てるなんて勿体無いって。で、身体を動かせる仕事はないか?ってここに来た訳」
ヴィーシャはつまらなそうに話した。自分達ヴァンパイアの王の話だ、思うところがあるのだろう。
「ドラスは?どう思ってるんだ?」
「我々リザードマンにとってドラゴニュートは皆お育てする若君姫君です、サきほどもご機嫌を伺っただけでスよ」
「……リザードマンのそういうところ、よく解らないわ」
「ヴィーシャ殿とザップ殿は、現在主従ではないでショう?それと変わりまセん、ただ昔からドラゴニュートの御子を我々の子と一緒にお育てシているだけでス」
ヴァンパイアがビーストマンを品種改良で作出した様にドラゴニュートがリザードマンを作出したという話にまで発展した頃。
「狐!夕食を食いに来てやったぞ!」
聞き覚えのある声がしたので入口の扉を見ると、見覚えのある姿が……
「あそこが空いてるな、おい小猿、狐の手伝いをしてこい」
……全身鎧の骸骨を従えて隅の卓を占領した。
「……なんでいるんだ?」
思わず呟いた俺にヴィーシャが囁いた。
「……週に一度は来られるわよ、婚約者がいるんだから」
ヴィーシャはあの方が誰か知っているらしい。小声で訊く。
「なんであんたはあの方を知っているんだ?」
「……従姉だもの」
は?いとこ?
「……一応、伯爵令嬢なの私。家督は兄が継ぐけど」
「恐れ入りましたお嬢様、って言えばいいのか?」
「言わなくていいわよ、馬鹿らしい」
ヴィーシャは立ち上がると俺についてこいと促した。
そのままあの方の前まで進む。
「お久しぶりです陛下、御健勝そうでなによりですわ」
優雅に頭を垂れるヴィーシャに、しかしあの方、国王陛下はギョッとした顔をする。
「お、おぅ。従姉殿か……そなたも息災でなによりだ」
「はい。家督も無事に阿呆の長兄が継ぐ事になりましたわ、これもひとえに陛下の御威光の賜物。私晴れて家を逐電致しました」
なんだろう、言葉にトゲを感じる。俺はこの場にいていいのか?
「い、いや余がなにかした訳では……」
「いえ良いのです、今は研究三昧の日々を過ごしておりますから……家産の分配がだいぶアレでしたけど」
あ~、これは相続の話か。陛下は何かしたのではなくて……何もしなかった、と。
「あ!そうでしたわ!後れ馳せながら御婚約おめでたく存じます……ドラゴニュートを正妃にしたら御子など産まれますまいに。誰ぞ愛妾を囲いますか?継承権争いの予約が入りますわね。私を愛妾にお考えかもしれませんが御辞退申し上げますわ、では」
言いたい事は全部言ったとばかりにヴィーシャは踵を返した。
陛下……真っ青だな。
「なぁ、俺を連れていった意味あったか?」
「……私だって一人であんな事そうそう言えないわよ……付き添いよ付き添い」
「愛妾云々てのは」
「……陛下に歳が近いの私だけだから」
そう言った後、恥ずかしそうにヴィーシャは言った。
「ちょっとスッキリした……付き合ってくれてありがと」
そんな話をしながら席に戻る。皆には知り合いに挨拶してきたと誤魔化した。




