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(更新3)

【ザップ】



「ふぃ~、お疲れ」



食堂の椅子にドッカリと座り、俺は相方に声をかけた。


ダンジョンから脱け出し、たどり着いたのはいつもの宿屋。



「今日も無事帰ってこれまシたね、お疲れサまでス」



相方のドラスが頭を下げる。礼儀正しいのはいいが、俺にはちょっと他人行儀っぽく感じる。


まぁまだ組んで半月だ、俺が砕け過ぎかなのかね。


俺はビーストマンのザップ。そして相方はリザードマンのドラス。



「お疲れさま、おかえりなさい」



こっちが頼む前に給仕のライカン娘がエールを持ってきた。ありがたいね。



「サンキュー♪いいかみさんになるよ」


「私はもうかみさんですよ」


「え?そうなの?」


「料理番が亭主」


「あれま。残念」



カウンターに戻っていく彼女の後ろ姿を横目で見ながら、ドラスが声をひそめて訊いてきた。



「……ザップ殿、あの方はザップ殿とは違う種族では?」


「あぁ、ビーストマンとライカンは近いから。よくくっつくんだよ」


「ほう、ソうなのでスか」



例えばヒューマンとエルフならハーフエルフというあいのこが産まれるが、ビーストマンとライカンの間に産まれるガキは母親と同じ種族になる。あいのこにはならない。



「ま、取り合えず乾杯」


「乾杯」





……くぅ~っ!


いいねぇ、この一杯があるからダンジョン潜りをやってられる。



「ザップ殿」


「ん?」



ドラスが姿勢をただして言った。



「……今回、五階層まで進みまシたが、忌憚なく言いまスれば我々二人では」


「限界、だなぁ」


「やはり」



ダンジョン探索をするにはパーティーを組むのが基本だ。


しかし……



「問題はほとんどの連中が既にパーティーを組んでて、そこからの引き抜きは難しいって事だな」



俺達が例えば四人で組んでいるなら、他から引き抜くのも可能だろう。一人入れば五人、パーティーとしてはそれなりに安心出来る人数になる。


今居る組に不満がある奴はそれなりにいるはずだから、四人組になら入る奴はいる。


だが現実はというと俺達は二人だ。


二~三人いっぺんに加入してくるならありがたいが、そんな可能性はなかなかないだろう。となると二人組に混ざろうって奴は大概間抜けな奴だ。


三人じゃ危険度はさほど下がらない。三人目がたとえまともな奴でも。そして三人目が間抜けな奴なら?危険度は逆にはね上がる。


間抜けは要らない。


馬鹿は馬鹿なりに頑張るが、間抜けは何やっても抜けてるから間抜けなんだ。


自覚無しに他人の足を引っ張る奴と組めるか?無理だ。



「やはり、他のパーティーに参加スるのはダメでスか?」


「せっかく組んだのにもうお別れかい?俺はあんたと組めて嬉しかったんだが」


「それは私もでス。ザップ殿とこれからも一緒がいいでス」


「ならその案は却下だな、必ず別々のパーティーになる」



何故かというと、俺達はどちらも斥候役だからだ。


斥候役。ひとによっては『盗賊』だの『鍵屋』だのと呼ぶ仕事だ。


ダンジョン探索には欠かせない役目だが、パーティー内での地位というか、扱いは低い。というかぶっちゃけ酷い。


何故か悪者の様に見られるし、戦力外と思われるし。


パーティーに先行して様子を見にいけば冗談のつもりか人身御供呼ばわり。


罠解除を成功しても感謝もされず、失敗すれば『使えねぇ』だと。


カナリアか?炭坑のカナリアなのか俺達は?


そしてパーティーの安全確保と所得増加を引き受けているというのに、『二人以上要らない、一人いればいい』と言われる。


危険作業を単独でやれと?


俺達が組んだ理由を解ってくれる既存のパーティーは皆無だ。


斥候役が二人いれば索敵や罠解除が確実になり、戦闘なら伏兵挟撃が容易になるというのが解らないらしい。



「手詰まりでスな」


「まぁ、声をかけたい奴ならいるが」


「いるのでスか?」


「ただなぁ……魔法使いだぞ?そいつと組むと必然的に俺達が本業だけじゃなく前衛もやるはめになる」



戦えるよ?そりゃあ戦えるさ俺達でも。

斥候やって戦闘やるとなると身が持たないだけで。俺達は基本的に戦闘は避けている。



「壁役の戦士が必要でスな」


「無い物ねだりだな、ついでに回復役もねだるか」


「光神教僧侶が私達と組むはずがありまセん」



光神教の僧侶は『神の奇跡』と称して怪我を治す、らしい。


アイツ等はヒューマンのパーティーには参加するが、それ以外のパーティーには加わらない。


だからこの目で直に『神の奇跡』とやらを拝めていないから確かな事は言えないが、ぶっちゃけアレは回復魔法だと当たりはつけてる。


魔法を研究してる連中が発明出来ていない回復魔法を独占しておいて奇跡とぬかすんだから、面の皮が厚いよな。


東の国々から『魔国』と呼ばれているこの国でも光神教の神殿があるし、奴ら冒険者用の宿屋までやっている。もちろんヒューマン専用。


ヒューマンの冒険者が全員信者な訳ではないが、平信者扱いになってるらしい。聞いた話だが。



「ま、無い物ねだりはこの辺にしとくか、部屋戻って風呂入るわ」



俺はドラスと別れて部屋に戻った。ドラスはそのまま晩飯にするそうだ。




荷物を置いて風呂場へ。


この宿屋は元々兵士用の宿舎だった。今は寝泊まりする兵士がいない。歩兵は寝る必要の無い骸骨兵に替わったので十棟もある兵舎が余った。で、国営の宿屋になった。


俺達ヒューマン以外の冒険者用宿屋。俺達もそうだがここを利用してる冒険者は、大抵は月極めで部屋を借りている。


風呂に改築された棟に入る。まだ誰も来ていない。


一番風呂とは嬉しいね。


でかい風呂場だ。兵舎まるまる一つ風呂場にしてるんだからな、まぁ広い。


湯船の脇にある洗い場で汗を流す。石鹸を泡立て全身泡だらけにして身体を洗う。


ビーストマンは身体中毛に覆われてるから、ダンジョン帰りにはこうしないと黴臭さが抜けない。


身体を擦っていると扉の開く音。次いで俺の横に座る人影。


チラリと覗いて驚いた。


でかい。


いやナニじゃなくてガタイがな。3メートルは優にある。


更にそんなでかいのが全身筋肉まみれでおまけにスキンヘッドだ、いきなり現れたら俺だって驚く。


筋肉まみれのガタイにこれまたよく似合うゴツゴツした顔。


ソイツが何故かきょとんとした顔で俺を見た。俺もソイツを見た。


お互いに会釈をする……なんだこれ?



「失礼。お宅はどんな種族です?」



ソイツは本当に困惑してるらしい。


いや見りゃ判る……って無理か?こんな格好じゃあ。



「ビーストマンだよ泡だらけの」



そう言って湯を頭からかぶってみせる。な?ビーストマンだろ。



「あぁ、なるほど失礼した。なにぶん最近こちらに来たもので」



笑った顔はわるくない。気はいいのだろう。



「俺はザップ」


「ガンズだ、よろしく」



お互い挨拶を済ますとそれぞれしばらく身体を洗う作業に戻る。


でかい奴は長旅をしてきたらしく、身体の垢をゴリゴリ擦っていた。


「……身体を洗うのも二週間ぶりだ」



でかい奴……ガンズが気持ち良さげに言った。



「あんた、王都は初めてかい?」


「あぁ、というかこの国が初めてだ。東のラムールから来た」


「東の果てじゃねぇか、何でまた?」



ガンズが言うには国を逐われたらしい、一族ごと。


あらましを聞けば、なんとも酷い話だ。やっぱり光神教は面倒事の種だな。


先に身体を流した俺は広い湯船に浸かると、ガンズに訊いてみた。



「それでガンズさんよ、これからどうするか決めてるのかい?」


「そうだな。一族がこの国にたどり着くまではこの宿に居るさ」


「……その後は?兵隊辞めたんだろ?」


「まぁ決まってはいないな。その内ダンジョンとやらを覗いてみるのもわるくないとは思っているが」


「ならよ、俺達と組まねぇか?俺と相方と二人で潜ってるんだが手詰まり気味でな、ぶっちゃけ腕の立つ奴を探してたんだ」



ガンズがこちらを向く。



「一族が着くまでは動けんぞ?出迎えてやらないと義理が立たん」


「あぁ義理は大事だ。その後の話さ」





【ガンズ】


ザップと名乗った男は早々と風呂から上がり出ていった。


相方とやらに俺の話をしに行ったのだろう。



「さて、髭をあたるか、頭も剃らんと」



小刀で髭を剃る。たいして伸びていないが身だしなみは大事だ。


これからやってくる一族の為、俺が評判を悪くする訳にはいかない。


髭剃りを済ませ、頭を剃り始めた頃、脱衣場の辺りから女の声が聴こえてきた。



はて?



扉に顔を向けると湯気の充満した風呂場に女が二人入ってきた。何故だ?



「主人、私は風呂というものには入った事が無いのだが、入らないといけないのか?」


「ノラ……貴女身体を洗った事が無い訳?」


「いや、身体なら川で……」


「原始人ね……陛下がエルフを猿呼ばわりする訳だわ」



片方が呆れた様にため息をつくと、二人してこちらに近付いてきた。


先頭に立つ背の低い方と目が合う。もう一人の肌の黒いエルフが小さく悲鳴を上げるが、そんな事はお構い無しという風情で背の低い方、紅い瞳が俺を見て笑う。



「あら貴方、お風呂場でレディの裸を凝視するものではないわ」


「……裸でふんぞり返って言う台詞でもないな。まぁ他種族でも非礼は詫びるよ」


「良いわ。謝罪を受け入れましょう」



お互いに目を逸らす。


実際、裸体など見ている余裕はなかった。物憂げな眼差しだが、強い力を感じる紅い瞳だ。こちらから目を逸らすのは負けだとにらみ合う格好になっていた。


取り合えず引き分けだろう。



「さ、ノラ、背中を流してあげるわ」


「主人、立場が逆だ、それにここは男性用の風呂では?」


「生憎ここは混浴なの。お湯を沸かすのは大変なのよ、主に経費的に。あぁ、こちらの殿方は気にしなくていいわ。オーガは他種族に欲情なんかしない、食欲はわくかもしれないけれど」



云いたい放題だな。


ヴァンパイア……紅い瞳なのだからそうなのだろう娘が黒いエルフの背中を擦る。


ヴァンパイアもエルフも高慢なイメージだが、肌を晒してエルフは恥ずかしがりヴァンパイアは全く意に介さずというのは、生まれ育ちの差か、それとも個人の性格か。




頭を剃り終えて湯船に浸かる。


二人の事は無視しよう。疲れた身体を湯船で伸ばす。



「ちゃんと前も洗うのよ。髪もね」



そうエルフに声をかけながらヴァンパイア娘が湯船に入ってきた。


湯船の縁にもたれながら俺を見る。



「強そうね……」


「そうか?」


「私達に見詰められて、平静でいられるのは珍しいわ」


「蛇に睨まれた蛙というヤツだろう」


「謙遜ね」


「……ガンズだ」


「さっき聞いたわ、ザップから。聞こえてたろうけどあの子はノラ、私の名はヴィーシャ」


「ザップから?すると彼の相方というのが」



ヴィーシャはコロコロと笑った。



「私じゃないわ、ザップの相方はリザードマンよ。私も誘われているの」





風呂から上がり、食堂へ。


カウンターで晩飯を頼むとありがたい事に山盛で出てきた。


相手に合わせて食事の量を出してくれるという。割高にはなるそうだが。


さて、と見渡すが俺の座れそうな椅子はない。うっかり座ったら椅子が壊れそうだ、壁にもたれて床に座るとしよう。



「あ~!お客様すみません、今度椅子をあつらえますね」



エールを運んでいた娘が俺に声をかける、この国にオーガがいないのだから俺に合った椅子が無いのも不思議ではないか。


……はて?確かミノタウロスやサイクロプスはいるはずだが。


王都にはいないのか?と訊けばミノタウロスは農村、サイクロプスは鉱山町に住んでいるらしい。


王都には用事があれば来る程度だとか。





「よ、旦那」



ザップだ。呑んでいたらしい。エールを両手に持って俺の前で床に座ると片方を差し出した。



「椅子に座れよ。付き合うことはない」


「それで旦那を見下ろすのかい?そいつぁ無礼だろ」



椅子に座っても俺を見下ろす程高くはならないだろうに。



「ところで、ヴィーシャには会ったかい?」


「あぁ、なかなかたいした女だ。エルフを連れていたが?」


「あれは初めて見る面だ……首輪を付けているから、買ったのかね」



首輪付き、つまり奴隷という訳だ。



「この国にもいるんだな『万民協和』というんじゃなかったか?」


「物事はそう簡単に進まないさ。まぁおかげでパーティーが五人になる、この事の方が俺には大事だね」



それから二人で話をした。


俺としてはこの国の常識なり習慣なりを訊いておきたい。


ザップから出る言葉はダンジョン寄り、冒険者寄りの話が多いが、それでも得る処はある。



「俺達が潜っているダンジョンは、すぐそこにある第一城壁の西門を出て目の前にあるんだが……」


「ちょっと待て、城壁だと?ここから5分もかからないぞ」



なにしろこの宿屋はいくつもの元兵舎を改装して使われている、いわゆるモーテル型。


本来兵隊の職場である城壁・城門が近いのは当たり前なのだが……城門の目の前にダンジョン?



「まぁ聞けよ、そこは我が国王陛下の叔父上にあたる公爵様の持ち物、謂わば領地なのさ」


「公爵領が王都に隣接?普通離れるだろう」



普通、地方をまとめる為に大貴族の領地は遠方にあるものだ。国境の護りという面からみても。



「公爵様は大魔法使いでな、政治とかからは離れて研究に没頭してる。で、ダンジョンの最下層に住んでいる。研究なんて御屋敷でも出来る気がするが、公爵様の魔力がハンパないせいで魔物が湧くからダンジョンに隠っている」



要するにダンジョン探索とは公爵の魔力を元に生まれてくる魔物の駆除、魔物の素材集めと財宝探しだそうだ。


……財宝?



「公爵様がダンジョンのあちこちにばら蒔いているのさ。客寄せだな、魔物が増え過ぎると研究がはかどらなくなる、旨味が無けれゃ冒険者は潜らない」


「聞いているとなにやら掃除夫か家政婦みたいだな、ダンジョン管理が仕事か?」



ザップはゲラゲラ笑って応えた。



「そりゃあうまい喩えだ、ただしずっと危険だがね」




【ノラ】


風呂場から出て二人で食堂へ向かった。


買って貰ったばかりの服、履いた事の無い靴、馴染むのに時間がかかりそう。


食堂に入ると隅の方に先程の巨人が獣人と床に座って話込んでいるのが見える。



「あちらに座りましょう」



主人が指差したのは巨人達とは離れた卓だった。



「邪魔してはいけないわ」



主人が席につき、注文をする。



「座りなさいな、椅子があるのだから」



正直、私の立場で自分の主人と同席してよいのか判断に悩むが、主人が椅子の座面をトントンと叩く。


仕方ない。私は座った。



「ここは煮込み料理が美味しいの、他も美味しいけれど」



主人は微笑みながら出された料理に口をつける。



「どうしたの?お食べなさい、美味しいわよ?」



私は口をひらいた。



「主人、普通奴隷が同席するべきではない。何故この様な扱いをしてくれるのか?」



先程も私の身体を洗い、今度は食事を共にしようとする。


理解不能だ。



「そうね……つまらない理由を付けるなら汚れた肌に牙をつけたくないから?十全な体調を整えないと血が美味しくないから?」



主人はそう言って鼻を鳴らす。さも気に入らない様に。



「私としてはこれから共に生きる貴女を雑に扱いたくないって気持ちがあるからだけよ」



共に生きる……



「それとも『輸血袋』って呼ばれるのが好きっていう特殊な趣味があるのかしら?趣味は尊重するわよ?」


「いや、そんなことは」


「なら良いわ。貴女と出逢えた今日という日を神々に感謝するわ、もちろん光神以外の神様にね」




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