異世界転生したら面倒なことになりました。
初投稿です。
緩やかに吹いてくる風、心地よい天気。
木の影に横になり、腕を枕に眠りにつく。
あぁ、平和だ。なんて素敵な日々なんだろう。
胸の上に乗った半開きの本は呼吸する度に微かに上下する。
何時間そうしていたのか、寝返りを打ってバサリと胸の上の本が地面に落ちた。
「……っ、姉さん!いた!」
どこからかバタバタと騒がしい足音が近付いてくる。
夢現な私は夢の中でぼんやりとそれを確認し、しかし反応せずに動かなかった。
うるさいなぁ。
どこかにいけばいいのに。
しかしそんな願いとは裏腹に、足音はどんどん近付いて来て私のすぐ傍で止まった。そして来る衝撃。
「っ姉さん、起きろ!」
「……んぅ……」
「シルク姉さんってば!」
「……あぁ?」
ゆっさゆっさと体を大きく揺さぶられ、おおよそ女の子とは思えない返事と共に私は目を開けた。
うっすらと見えた、明るい茶髪に、好青年を思わせる顔立ち。
それとハキハキした、元気のいい声。
瞳の色は優し気なブルーホワイト。
すぐに二つ年下の、弟のエルフェン・バートリーだと分かった。
だからこその、この対応な訳だが。
……うう、ちょ、やめてくれ。
それ以上揺らさないでくれ。
は、吐き気が。気分悪い。
「シルク姉さん!」
「……うるさい……何?」
気持ち良く寝ていたところを起こされ、私の機嫌は急降下。
イライラしながら顔をしかめて要件を促した。
くだらない用事だったらいくら可愛い弟でも、姉さん怒っちゃうぞ。そんな気分。
まぁくだらない用事で私を起こすような子じゃないけども。
「起きて姉さん。お父様が呼んでる」
「……お父様が?」
「国王も」
それはさすがに起きなくてはならない。
舌打ちを堪え、腕を突き出して弟に引っ張ってもらう。
「うー……ふぁあ」
「ごめんね姉さん。起こして」
「……別に、いいわ。仕方ないじゃない。起こしに来てくれてありがとう」
「うん」
まだ若干不機嫌ながらも礼をいえば、エルフェンは嬉しそうに笑った。
超可愛い。
もう大きくなってしまったけれどすごく可愛いです。
誰がなんと言おうと可愛いのです。
もうすぐ背も抜かれそうな……むしろもう抜かれてるけれども可愛いことに変わりはないのです。
と、弟にデレデレしてる場合じゃなかった。
急がなければ。
私はエルフェンの後を追って、急いでお父様と国王の元へ向かった。
***
私、シルクことアシェルク・バートリーは貴族の娘である。
公爵家の次女に生まれ、兄や姉、弟や妹もいるわけだが。
どうやら私は異世界転生とやらをしたらしく、赤ん坊の時からその自覚はあった。
しかもどうやら前世の記憶だけでなく、チート能力もそのまま持って転生したらしいのだ。
まぁ強いに越したことはないんだけど。
しかしまぁ戦争の世界において力が強すぎるというのはいろんな意味でよろしくない。
バランスが傾くでしょ?
とかいう正論を盾に、私は力を使いません。
本当の理由?
面倒くさいからに決まってる。
いや、前半の理由も嘘じゃないです。
本当です。
まぁ兎に角、小さい頃から大人しく、女の子らしくしてきたお陰で極一部にしかバレてないはず。
そんな私に国王が何の用だろうか?
くだらない用事じゃないだろうな。
***
「……召喚、ですか」
私の隣には甘いマスクの男性がにこにこと笑っている。綺麗で大人の色気駄々漏れなこの人はこの国の国王である。
27才、父親から王座を譲り受けた、優しげな顔立ちとはかけ離れた性格。なかなか食えない、国王としてはピッタリな人。
金色の髪に、碧眼の瞳を細める。長い髪は斜めに三つ網に編んで、肩から前に流している。王族の御長男のブラディス・ファウンドはこくりと頷いた。
「そうだよ。君のお父さんに、君にも見せてあげてくれって頼まれてね。彼にはお世話になってるし」
「……そうでしたか。それは、ご迷惑を……」
その、世話になったってのは、多分私がやったやつだけどな。
とは、言いません。
ここは城の、王座のある広い間。
王は王座から降りて、私と同じ床に立っている。
今からここで召喚をするらしい。
あとこの場にいるのは宰相と護衛であろう騎士、お父様とエルフェン。……私だけ場違いな気がするのは気のせいか?
邪魔なら別に断ってくれても良かったんだけど。
別に好き好んで見たいとは思わない。
まぁエルも一緒だからいいけどさ。
あんまり悲劇は見たくないんだけど。
だって今から喚ばれる人は帰りたくても帰れない。
喚ぶことは出来ても送り返すことなど出来ないのだ。
え、今から何をするのかって?
違う世界から、力の強い人を喚び出すようですね、はい。
理由は、ここ最近著しくない国戦状況にある。
ここの国は一番の国力を持つ。
しかし最近隣国が敵国と手を組んでちょっかいを出してくるようになった。
そしてあろうことか押され気味のなのだ。
そこで、戦力増強の手段として違う世界から連れてこようという反則技に出た、見た目を裏切る中々にえげつないブラディスさん。
うん、最低だと思う。
とはいえ、どうにかできるのに傍観してる私の方が酷けれども。そこら辺は知りません譲りません。
第一、帰りたいと言えば私は送り返すことができる。
まぁしないけど。
……つまり、私にブラディスに文句を言う資格はないのです。
てなわけで、傍観します。
元々文句言うような性格じゃないからね。
演技上、かなり大人しくてお嬢様、な私なので。
不安気に隣に立つ弟の心配もあるし。
余所の見知らぬ奴の事などぶっちゃけどうでもいい。
知らないです。
しかし異世界から人を喚び出すなんてかなりの魔力が必要だ。そんな人いるの?
「……もういいか?」
「っっ!!?」
と思ってたら、紺色のマントをかぶり、顔の見えないなんとも怪しげな人が何時の間にか背後に立っていた。
心臓に悪すぎるんだけど!
考え事していたせいか、全く気付かなかったわ。
思わず少女らしからぬ声を出しかけたよ。危ねぇ。
ぐっ、と反射的に声を抑えた私、超偉い。
ドキドキしながらそのマントの男を見る。
声からして男なのは間違いない。
背は高いけど声音は若々しい。ブラディスと同じぐらいか、もしくはもっと下か。
声変わりは終わってるっぽい。
低いし。
「ああ、頼むよ」
「…………」
謎男は無言で前に出ると、しゃがみこんで床に片手をつけた。
すると、魔方陣のような円形の陣が床に浮かび上がった。
「……っ、きゃあっ、」
「姉さん!」
揺れたのは城だけなのか、全体なのか。分からないけれどぐらついた拍子にバランスを崩した私を、エルが支えてくれた。ちなみに先程の悲鳴はわざとだ。あんな女の子らしい反応、実際にはしない。できない。
弟よ、ありがとう。
そして強い光を放った、大人が縦に寝転がっても収まるような巨大な魔方陣はますます光を強めていき、次の瞬間ーー
カッと真っ白な光が全体を覆って、目を強く瞑った。
「……」
もう何も起こらないのを確認して、私は目を開けた。
先程まで何もなかったーー正確には魔方陣しかなかった広間の中心部に、二つの影があった。
魔方陣は消えている。
……彼らが今回選ばれた"生け贄"だろうか。
てか、二人?一人じゃないの?
エルに掴まったまま、私はその人影をよく見てみた。
片方は、濃い茶髪に黒と見間違えそうなほど濃い蒼の瞳、吊り気味の目つきの悪い青年。しかし顔立ちは整っていて、女子が騒ぎそうなお顔をしてらっしゃる。高校生かな?
(……ん?)
もう一人も同じぐらい若いけれど、こちらの方が年上に見える。栗色の髪に、金色の瞳。大人な感じがするお兄さんだ。
こっちも端整な顔立ち。面白くない。
……つーか んな事どうでもよくて。
あれ……?……ええっと。
なにやら見覚えのあるような気がして、全然無関係ではないような気がして、私は首を傾げた。
「……あ?どこだここ」
「…………」
柄の悪い青年と、大人なお兄さんがこちらを確認して怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
いや、意味分かんないよねそうなるよね。
しかし私にとって、今それはどうでもいい。
あっれー?
私、起きたと思ってたんだけどな。
起こされたような気がしてたけど、どうやら私はまだ起きていなかったようだ。というわけで、これは夢だ。そうに決まっている。
二人とも不機嫌そうだね、そんな顔しても綺麗な顔は綺麗なままなんだね。
……とか言ってる場合か!
……オーケーオーケー。
一旦落ち着こうじゃないか。
テンパってる場合じゃない。
エルのおかげでバレずに済んだが、支えがなかったら私多分卒倒してたかもしれない。いや、大袈裟でなく。
だって、目の前にいるこの二人は私の前世での知り合いだったのだ。しかも、"兄"と"弟"ね。
バリバリ血の繋がった兄弟でした。
うわああ、何コレ夢ですか?嫌がらせですか?
両方ですね魔法使い許さない殺す。
グラグラガンガンする頭を押さえ、しばし現実逃避。
え、なんで?なんでよりにもよって知り合い?
二人揃ってて別人ということはまず無いだろう。
嫌だ何コレ。マジありえねぇ奇声上げそう。
そりゃ二人とも強いけども。
かなり腕はたつけれども。
わざわざこの二人じゃなくてもよくない?
つーか二人とも見た目全く変わってないんだけど。
なんで?時間の流れが違うとか?
そんな事を思いながら私は目の前の"知り合い"を見つめた。
しかしあちらは変わっていなくとも私は全くの別人。
"アシェルク・バートリー"で、この世界の住人で、大人しくてお嬢様な女の子なのだ。兄弟もいるし、私は"私"だ。
彼らの兄弟ではない。
そのことを再確認して、私はやっと少し落ち着いた。
かなり動揺した。驚いた。
けれど彼らの"妹"も"姉"ももういない存在なのだ。
消えた存在を、演じるわけにはいかない。
心の底から沸き上がる何かを圧し殺し、私はぎゅっと手を強く握った。ここで、揺れるわけにはいかない。
彼等には教えない。私が"私"であることを。
「すまないね、急に喚び出してしまって。私が君達を喚び出したブラディス・ファウンドだ」
自己紹介を始め、彼等に説明を始めたブラディスを横目に私はそれをぼんやりと聞いていたーー。
でも、知り合いであったなら話しは別だ。
二人とも鋭いから隠れて手助けしてもバレるかもしれないけど絶対に死なせるわけにはいかない。
今すぐ帰らせるわけにもいかないから、彼等が死なないようにしなければ。
そしてその後は、彼らを元の世界に送り返す。
言ってたことと全然違うって?
確かに"他人"にするにはおかしな事かもしれないけど、いくら無関係でも、赤の他人でもさ。私にはやっぱり、記憶があって。どうしようもないぐらい、感情もあって。
やっぱり、放っておくなんてできないから、私は守りたいんだよ。生きてほしいんだ。
そんな顔をしてほしいわけじゃない。
"私"の事なんて忘れるぐらい、明るく笑っていてほしかった。だから、手を貸す。あっちに戻ってから前を向けるように。
※短くしようといろいろ省いた結果、説明不足等があるかもですが細かくは書けませんでした。実は設定とかいろいろあるけど短編だし略してます。
召喚に関する悲劇はこれで留まらなかったりします。長編書こうかなと悩み中。どうしよう。
とりあえず今のところ書く予定はないです。
気が向いたら書くかも。短編じゃ分かりにくいし。