面ファスナー革命伝
「ひっ!そ、それはワイシャツの中でも最強の...
ボ、ボタンダウウウウン!!」
ボクは物心ついた頃から何故だかボタンが怖い。
あのブタ鼻のような2つの穴...
4つ穴は麻呂眉につぶらな瞳...
そこにだよ。そこに糸を通すんだよ...!?
あ、あわわわわわわわわ...
だからボクはそんな憎憎しいボタンをこの世から駆逐するために
面ファスナー、一般的には「マジックテープ」と呼ばれる
アレを作っている会社に就職した。
バリバリバリバリ!!
「タナカくん!キミのマジックテープ愛は判ったから、
スーツとワイシャツはボタンでいいと思うよ。
もうなんだか外勤から戻ってスーツ脱ぐ度にバリバリうるさいし」
「なんでですか部長!バリバリうるさいって?!
なんでもかんでもボタンボタンのこの世界に響く、
この音が部長には心地よいと感じられないのですかっ?
だいたいマジックテープってライバル会社の商標じゃないですか?!
正式名称の面ファスナーって言って下さいよ!!」
「タナカ君、相変わらず過激だなあ。
でもさ、自分で売っといてなんだけどさ、
フックとループの起毛部分のワサワサに
髪の毛とかが付いちゃうと、もうこれが取りづらくって
取りづらくって なんだかマジックテープの限界感じちゃうよね。
もうね、タナカくん、そんなマジックテープの現実から
目を逸らしちゃっているキミは当分出世なしよ」
「タナカさん、キモ~。マジックテープなんて
コドモだましでダサダサじゃん。」
ココーン!!
脳天からつま先まで強い衝撃が走った。
面ファスナー、いわゆるマジックテープを売ってる側の人間が
こんなキモチでいるとは...
しかもボクの憧れの面ファス三課のカレンさんまで...そんな...
...これじゃ、これじゃあいつまでたっても
「ボタン至上」の世の中は変わらない...変わらないよ...!
...その日からボクのボタン帝国に挑む孤独な戦いが始まった。
ららりろりろすーばるー
ろろりろりろぎんがー
みんなどこへイーター
みおくられることもなくー
(※うろ覚え)
あれからボクは連日休みなく面ファスナーの研究に取り組んだ。
パシッ!
「...こ、これは...!
ボタンと違い、面ファスナーは着脱時に静電気を発生させる...
これだ...!」
バリバリバリバリ!
バリバリバリバリ!
バリ、バ、バリリリリリ!!
今や日本の発電量の35%は面ファスナーの静電気を蓄電したものとなり、
産業革命以来の大革命として世界中から注目をされるようになった。
また、ファッションとしても面ファスナーの衣服を着る若者は
「発電男子」「発電女子」としてすっかり定着した。
「タナカくん!君は2階級特進っ!!」
「部長!ありがとうございます!!」
その夜
「タナカさん、ワタシ、発電したい...」
「カレンさん...」
バリバリバリバリ!!