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素敵な片想い

作者: 雪の星

「誰かに一番に愛されるなんて、重たくって嫌なの。」


那奈は少し伸びた前髪を手で撫でながら言った。


浮気なんてやめなよ、という私の言葉に

彼女は、ずっと整理のされた頭で答える。


まるで、間違っているのは私の方みたい。


彼女にとっては簡単なことだ。

別に本命がいると思った方が楽に付き合える。

一直線に愛されるのが重荷なのだ。


「私にはあなた、あなたには私。

この図式に息が詰まりそうなのって私だけ?」


それは分からないけれど

あなたはきっと少数派。


私はパジャマに着替えると、

彼女の隣にちょこんと座った。


かく言う私も、少数派の恋愛をしていた。


その人と一緒に暮らしてはいるけれど

私の好意は気づかれていない。


いや、ある種の好意を持っていることは明らかだろう。

同居を持ちかけたのは私なのだし。


節約になるし、私とは幼馴染で気心も知れている。

彼女はふたつ返事で受けてくれた。


「最後に本命をつくったのはいつだっけ?」

私はごろんと布団に横たわる。


彼女と一緒に居られればそれで良かった。

彼女とご飯を食べて、たわいのないお喋りをして。


朝と夜の眠たそうな彼女。

社会から離れた場所にいる時の

少しだけ輪郭のぼやけた彼女。


嬉しいと瞬きが多くなることを

同居するまで知らなかったし

話したいことがある時は

首をかしげる癖も、知らなかった。


「本命はずっといるの。」


青天のヘキレキ。


私はがばっと体を起こした。


「そんな話知らない。」


彼女とは学校が離れた時期もあって

いつでも恋愛事情を把握していたわけではない。


むしろ、避けていたところがある。

多感な時期だったし、傷つきすぎてしまいそうだったから。


今はお互い社会人になって

もう少しだけ、物事を大きく見られるようになった。


時々、片思いは寂しくなるけれど。


毎日違った彼女が見られる今の生活は

私の思いが叶えられたということ。

高望みはしたくなかった。


「いつから?」


私は動揺を隠しながら尋ねた。

彼女は私の隣に寝転んで、首をかしげた。


「これは私の最大にして最強の秘密。」


茶化さないで、と言いたかったけれど

少し髪の乱れた彼女が猫みたいで

愛おしくて、言葉を止めた。


「結局私、怖いのよ。」


彼女は私を見上げながら呟く。


「私とあなた、あなたと私。

逃げ場がない。もしも失敗したら?」


「私にはあなたしかいない。

それでその人が居なくなってしまったら?」


心に刺さる言葉を言われてしまった。

その時、私はどうすればいいのだろう。


浮気をしている彼女を

本気で止めることができなかったのは

どこか安心だったからなのかもしれない。


相手の人には家庭があって

いつでも帰る場所がある。

彼女をさらって逃避行、なんて

リスクを取るようにも思えない。


愛人。

男性にとって、とても魅力のある響き。

みすみす逃したりしないだろう。


「秘密を話したら、由美子も私に教えてくれる?」


放心状態の私の頬をつついて

彼女は言った。


「私もあなたの本命、知らないんだけど。」


自慢じゃないけれど、家族に友達

ごまかし続けてうん十年。


今更、というか当の本人だ。

お願いだから隠し通させて。


「ねぇ。」


可愛らしくパジャマの袖をつかんで

お願いするなんて、卑怯だわ。


何十年も口をつぐんで来たのだ。

日記にだって彼女のことは書かなかった。


ただ、鏡の中の自分には問いかけた。

この気持ちは本物?って。


素敵な男の子に声をかけられて

一緒に遊びに出かけてみても

家に帰ると、彼女のことを思い出した。


恋人とすることを彼女と、したかった。


世の中の女の子と何も変わらない。

私も彼女達と同じように、恋をしていた。


ただ、相手が女の子だったというだけの違い。


私達は同じように恋の話ができる。


彼女の本命を知りたかった。

どんな人なのだろう。

ずっと片思いだったのだろうか。


こんなに近くで育ってきたのに

どうして気がつかなかったのだろう。


「わかった。」


「私も教えるから、那奈が先に教えてよね。」


いざとなったら走って逃げよう。

いやここは家の中だ、どうしよう・・・。


ぐるぐるそんなことを考えていると、

那奈が起き上がって言った。


「今、その人と一緒なの。」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 女と女が恋愛するところ [一言] ありがとう
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