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エピローグ


 「うむ。何の起伏もない、オチもない。実にくだらない」

 「そんなこと言わないの」

 「やっぱさ、ノンフィクションでの感動だなんてただの奇跡だよな」

 「うーん。まぁそうかもしれないけど」


 冷房の効いた図書館は、猛暑日のオアシスである。特に、本が大好きな俺のような人種にとっては。

 読んでいたノンフィクションの本を棚に戻し、どうにも腑に落ちない気分を言葉にしてみたのが『ただの奇跡』というものだったが、奇跡である以上『ただ』というのは間違っているのかもしれない。


 「で、夏樹くんは今何を全力でやらなければいけないでしょうか?」

 「……課題」

 「そうです。じゃあさっさと終わらせましょう」

 「うい」


 生まれて初めて目標を持って勉強に励んだ結果、見事に達成となったはいいのだが、いかんせん大学という場所は自由に囲まれすぎていて、俺の中に住む『自堕落の悪魔』が目覚めてしまいそうだ。無論、そこで目覚めさせてしまうような以前の俺ではないということだけは言っておきたい。


 「そういや和哉から連絡あったぞ」

 「お、遠征の件?」

 「そうそう。来週からアメリカに二週間だそうだ」

 「すごいなぁ。じゃあ送迎会しなくちゃね」

 「……二週間で帰って来るんだぞ?」

 「でも、大事な二週間じゃん」


 和哉は着々と目標へと歩み続けている。素晴らしい程に一貫したバスケットボールへの姿勢は、努力を会得した今の俺にも眩しく感じられる。きっと和哉の中でも明確なゴール地点は未だないだろう。奴の中で『一生バスケットボール宣言』がなされたことは確かだが。



 「--よし、終わった」


 物事は集中力で決まる。俺はそう思った。今。

 溢れかえる書物の誘惑を断ち切ると、課題は自然と進んだ。寄り道しないで帰ってきなさいという幼少期の教えは正しかった。


 「お疲れ様! じゃあ何か食べに行こうか」

 「もう昼飯時……ってもう2時か」

 「お腹空いたー」

 「近いところで、和食屋かファミレスかハンバーガー」

 「んーじゃあファミレス!」

 「あいよ」


 本当に平凡としか形容できないこの日常。春から夏へ、高校生から大学生へ。肩書きや季節なんかはそうやって変わっていったけれども、俺はやはり異世界に行くこともないし、モンスターに変身することもないし、急に何かの才能に目覚めたりもしない。ここが物語じゃなくて現実である限り、それは必然である。


 「……」


 並んで歩く幼馴染は歩みを止めると、無言で手を差し出していた。それが意味するものは、幼馴染から恋人へ変わった俺たちの肩書きであり、少し照れくさいものでもあった。

 それが幻覚でないことを確かめる為に、しっかりと手を取って繋いだ。強すぎず、弱すぎず、二度と手の届かないところへいってしまわないように。





 2009年に書き始めたこの物語ですが、書き溜めたまま3年の月日が流れてしまいました。今になって公開して完結させようと考えたのは気まぐれですが、物事を上手く進める為には勢いが大事だと、ひしひしと感じました。

 駄文でしたが最後まで読んでくださった方、一文でも目を通してくださった方、本当にありがとうございました。

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