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~44.

 駅前の本屋には建設機械の教本がなかった。携帯で少し調べたところ、講習の際にもらう教科書で学習が充分らしく、市販ではなかなか手に入らないということだ。

 ネットで少し調べ、実際に乗ってみて感覚を掴むしかないということか。本屋の自動ドアをくぐりながら、決行までの時間を気にした。


 ユンボで穴を掘りつつ、桜の木を根から浮かす。太い根を切ってしまわなければ、幹が死ぬことはないはず。しかし、あのソメイヨシノは高さがおそらく4メートルから5メートルほど。樹齢にしては多分小ぶりな方であると思うが、それでもフォークリフトで持ち上げるには大きすぎる。イメージではうまくいきそうなものだが、やはり困難な事態である。


 本屋のすぐ近くにある市民図書館でパソコンを借り、方法を模索すると同時に建設機械の運転操作を調べていたが、こちらはおそらく問題はない。マニュアルがある、正解がある物事ならば、既に一本通ったその筋を辿ればいいだけなのだから。


 右ポケットから振動が伝わる。和哉からの電話だ。急いで外に出る。


「もしもし。どうだった?」

『この市で一番の腕の植木屋、よしみ造園ちゅうとこに行ってきた』

「木の植え替えは、可能なのか?」

『結論から言えば、不可能ではないらしいで』

「そうか……。とりあえずよかった」


 それが不可能と言われてしまえば、それだけで計画の意味がなくなってしまう。ひとまず可能性がゼロでないことに胸を撫で下ろした。


『よしみ造園は樹齢23年の桜の木を植え替えたこともあるらしいで。ただ、樹木に関する経験や知識があって初めて可能と言えるもんで、それがなければ不可能っちゅうことらしい』

「なるほど。俺らが生半可な知識で立ち向かうものじゃないってことか」

『あとな、庭に植えるのはアカンらしい。近所迷惑とか、そういう条件をクリアしても、根が張って家の土台や配管を刺激するとか』

「……そうか」


 思ったよりも、素人が手を出すことが困難で、計画が絶望的なものなのかもしれない。もし失敗してしまったら、そう考えると震えてしまう。


『そんで、こっからが本題や』

「本題?」


 和哉の声色が少し変わった。聞きなれたその声から想像される表情は、見慣れたあのニヤけ面だった。


『よしみ造園はな、あのお花見公園の取り壊し作業に関わっとる』

「……ということは」

『あの木、もともと植え替えられる予定やったらしいで』

「……」


 --言葉が出てこなかった。嬉しいとも悲しいとも違う意味で、膝から崩れ落ちそうな感覚。『助かった』と言えば的確なのだろうか。


『とりあえず夏樹もこっち来てくれや。吉見さんが話したいことあるらしいで、夏樹に』

「わかった。すぐ行く」

『場所は--』



 やっぱり、絶望的なんかじゃない。早とちりをしていた。数時間前、にわか雨に打たれながら必死でペダルを漕いだ時のようにまた、一秒でも早く目的地に着くことだけを考えてペダルを漕いだ。

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