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~27.

 和哉は、百瀬のことが好き。さっきの言葉が頭から離れないせいか、勝負に集中できない。先制点を取られたのは初めてであり、更に混乱していく。

 ――なんなんだよ、この勝負。目の前でいつもの軽い表情に戻った和哉が軽快にボールをついている。勝てない訳がないのに、勝てる気がしないのは何故?


「さっき保留ゆうてたけど、夏樹がさくらに告白するかどうかは自由ってことでええわ。俺は一切首突っ込まん」


 告白って……。俺は別に百瀬とはただの幼馴染で、ただ付き合いが長いだけで……。


「まさかアレか? 鈍感な奴っちゅうんは自分の気持ちにも鈍感なんか?」


 自分の気持ち。俺の気持ちってなんだよ。百瀬に対する想いってことか? 馬鹿言え。日頃の感謝はあれど、これまで変わらない距離を保ってきてる訳だし、そんなときめく恋心なんて……。


「とりあえず1点先取。次は俺からやな」

「サービスだ。お前にも希望をあげないとな」


 和哉はドリブルを続けながら開始位置についた。思考回路が上手く回らないまま、少し遅れて俺も開始位置につく。

 どうしたらいい。俺は……勝ってもいいのだろうか? まずいな。落ち着いて考える時間が欲しい。

 しかし、そんな時間が与えられるはずもなく、和哉はいつにも増してキレのある動きで俺を抜こうとする。時間がないのなら、こっちも点を取って時間を稼ぐしかない……。

 必死に和哉からボールを奪おうとするも、こちらの動きが読まれているかのようにかわされる。体格差も経験差も今まで感じたことはなかったが、今はそれが越えられそうにない大きな壁に感じる。

 焦る俺の動きを冷静に見切る和哉が、すっと横を抜けた。再び、あの綺麗なフォーム。ついさっき見た光景がまた繰り返されることは、デジャブと言ってもいいのだろうか。


「うっし! 2点目!」

「……」


 こちらが手も足も出ない状態で和哉のマッチポイント。まだ何も考えられていないのに、このままだとすぐに決着がついてしまう。何か喋って時間を稼ぎたくなる。


「なんか知らない間に上手くなってんじゃねぇのか? 今日は強いな」

「……声、震えとるで」

「……」


 ――動揺が隠せない。勝てねぇよ、こんなんじゃ。


「夏樹は随分と調子悪いんやなぁ」

「何言ってやがる。お前が上手くなっただけだろ?」

「……俺、怪我人やぞ」


 和哉はそう言って右足の裾を捲くると、その足首に巻かれた包帯が顔を出した。怪我をしているのにこんな勝負を挑むとは、コイツはやはり馬鹿なのだろう。


「昨日ひねってしもてな。結構痛いで」

「……俺の調子が悪いのかもな」


 こんな状態の馬鹿に、歯が立たない。そう思った瞬間に、どうしようもない程の動揺をかき消す術をひとつ思いついた。

 ――負けよう。もう、勝ちは諦める。

 最初から俺には何のメリットもなかった勝負だから、勝ちにこだわる必要もない。ていうか、親友の恋が実るならそれは俺にとってもメリットじゃないか。始めから、そう思えばよかったのさ。


「マッチポイントやな。ほれ」

「次は手加減しねぇぞ。怪我人でもな」


 和哉が投げ渡したボールを受け取り、自分でもわざとらしいと感じる程の台詞を吐く。思ったとおり、あっと言う間に気持ちが落ち着いてきやがった。簡単なことだったんだ。


「いくぞ!」


 出だしにキレのいいドリブルを始め、和哉の目をじっと見つめる。一対一で向き合った時は、相手の視線に意識を置いてみるものだ。反射神経と勘のいい和哉は、俺が初めに出る方向を確実に当ててくる。

 和哉は静かに守りの体勢をとっているが、動きだしたら速いのなんの。それと、俺がわざと負けようとしてることを悟られちまったらまずい。動きを少し甘くするだけで十分。


 右足を踏み出し、前に出る。予想通り俺の出た方向にきっちりついてきた和哉は、長いリーチでボールをもぎとろうとする。ここで取られてしまってもいいのだが、それではあまりに味気ない。

 先程のフェイントに近い動きで揺さぶりをかけ、和哉がボールを奪い返せるベストな体勢になるのを待つ。


 まだだ、まだ……。足を怪我しているから、あまりやりすぎた行為はしたくない。必死にボールを奪おうとする和哉の顔を見ると、コイツは本気で百瀬のことが好きなんだなと実感できる。いいんだ、お前になら安心して任せられ……任せる?


 おいおい、何を考えているんだ。任せるなんて言葉、俺が使うようなものじゃないだろ? 俺はコイツに、和哉に百瀬と幸せになって欲しいだけさ。こんな真面目で誠実な馬鹿なら、百瀬を幸せにしてくれる……。

 いや、待て! 幸せにして『くれる』って考え方はおかしいだろうが! 百瀬主体でこの勝負を見てどうすんだ! 今は目の前のコイツとの勝負で、コイツに負けようと決めただけで……!!


「いただき!」

「……っ!」


 再び焦り始めた俺の心理を見透かしたかのようなタイミングで、ボールが奪われた。手元に重みを感じなくなった直後、和哉が3度目のシュートを放ち、またしても嫌味な程綺麗にリングを通った。


「俺の勝ちやな」

「……初勝利、おめでとう」


 迷いは一瞬、勝負も一瞬。残るのは、星の明暗。理由がなんであれ、これで俺は和哉に初黒星というわけだ。こちらが一点も取れないという圧倒的な勝利で白星を飾った和哉は、薄い微笑みを浮かべてこちらを見つめている。

 --この『おめでとう』は、皮肉なんかじゃないさ。


「夏樹」

「なんだよ。敗者へのインタビューか?」

「……さっきの賭け、冗談やから」

「……は?」

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