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~16.

 高温、多湿、直射日光、炎天下、蝉時雨。これ以上ないと言う程に真夏色に染められた夏休み3日目は、映画の撮影日数で計算すると初日となる。今日は一体どこで撮影を行うのかという疑問の出所は、今回の映画で監督を務める百瀬である。

 言われるがままに百瀬家まで迎えに来たはいいが、今日の日程について俺は何も知らされていない。


「お待たせ!」

「百瀬、暑い」

「百瀬が暑いんじゃありません。夏が暑いんです」

「めんどくさいなお前」


 百瀬が自転車の鍵を開ける音。登校のある日の朝はほぼ毎日これを聞いている為、これから学校に向かう気がしてならない。

 昨日の夜、今日の日程を確認しようと百瀬に電話したときに返された言葉が『秘密』という単語だったときは先行きに不安を感じざるを得なかった。百瀬に限って何も考えていない等ということはまずあり得ないが、万が一、いや『億が一』の可能性というものは消えやしない。

 行き先も告げずに自転車を漕ぎ出す百瀬の横につき、昨晩と同じ質問を投げかける。


「今日は顔合わせね。私たち監督側は脚本を今日で完成させるからその後も残りだよ」

「私たちって、俺も監督側?」

「そうだよ。夏樹が創造したもののイメージを壊したくないから」

「そうか。地味に感謝しとく」


 元々この物語を創ろうと考えたのは百瀬であるから、こういう場合は俺でなく百瀬のイメージのほうが大事だと思うのだが。まぁあまりそこにこだわる必要もないだろうから、気を遣ってくれる百瀬の気持ちを深く考えずに受け取っておこうか。


 行き先を聞きそびれたまま百瀬に合わせてペダルを漕ぎ、ムシムシとした空気を切りながら辿り着いたのは勉学に勤しむ為の建造物だった。


「っておい。やっぱり学校じゃねぇか」

「だって部活動だもん。他の部活の人もいるからここが一番いいの」

「いやまぁ……そうだけど」


 夏休みになって間もなく校舎に足を踏み入れることになるとは思っていなかった。冷房も利いていないこの建物の中での大人数の会議とは、サウナに近いものになるんじゃないか。

 そんな憂鬱で素朴な疑問を解消してくれたのは視聴覚室というものの存在だった。


「初めまして、宮本先輩」


 かなり礼儀正しい言葉遣いで挨拶をよこしたのは映像部の部長だった。もし彼がいなければ、この校内でも限られた冷房完備の部屋を使用することはできなかっただろう。3年生がいないという少人数の映像部だが、頼りになることはこれで証明できたわけだ。

 そしてここにいる映像部の連中の表情を見れば、今回の映画制作にどれだけ意気を込めているかがわかる。


 同じくやる気満々の百瀬はバッグを机に置き、時計の針の位置を確認した。


「1時に集合って言ってあるから、あと15分くらいだね。美術部の人は皆で来るって」

「そうか。涼しい部屋なら何分でも待てる気がするけどな」


 冷房の心地よさに慣れてしまった俺の様な現代人は、夏はクーラーの利いた涼しい部屋で過ごす季節だという間違った認識を持っているだろう。わざわざ汗だくになって季節を感じるのはスポーツマンだけで十分だ。


「うーす。ここで主役登場や」


 そしてここにふざけたスポーツマンが現れる。コイツはどちらかとも言わず完全なスポーツマンであり、夏だからと言ってダラダラしているイメージはない。年中倦怠感にまみれているような俺とはまさに対極の位置にいるのではないだろうか。


「和哉君おはよう」

「お、こんにちはの時間やろ」

「『こんにちは』ってなんかよそよそしいんだもん」

「確かに。『おはよう』は軽い感じなんやけどな」


 それは俺も同意せざるを得ない意見だ。朝でない時間帯に友人にばったり遭遇した時に出る言葉が『うっす』や『よう』ではあまり美しさを感じない。この際『おはよう』と同等の位置に値する昼以降の挨拶を浸透させるべきだというどうでもいい意見に署名活動でも行うべきだろうか。


 そんなことを考えているうちに美術部の部員も揃い、冷房の効いた視聴覚室にて映画制作メンバー全員での顔合わせが始まった。涼しいというだけでここにいる理由は十分なので、ついでだからしっかり話も聞いておこうか。

 脚本の完成という今日の目安は百瀬がいる限りきちんと達成できるだろうな。こういうときに安心して仕切り役を任せられるというところは、昔から本当に変わっていないな。


 しっかり者の後輩達と百瀬のおかげで打ち合わせは効率的に進んでいった。この雰囲気なら心配ごともなさそうだ。

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