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~15.

「アホか。俺がお前らの頼み断る理由がどこにあんねん」

「あれ? 急だから考えるとかどうとか……」

「そんなん定型句やん。ちょっと渋る雰囲気を醸し出したかったというか」


 和哉は予想を遥かに超えるいい奴だった。元々何の下心もなく買ったバッシュをネタに頼みごとをしようとした自分が恥ずかしくなったので、プレゼントはその件に絡ませずに普通に渡すことにした。

 受け取った箱からバッシュを取り出すや否や、目を輝かせる和哉の姿はまるで幼い小学生のようだった。


「うお! やっぱめっちゃカッコええな! てか軽っ!」

「だろ? 履けよな、明日から」

「どうも、この度はありがとうございました」

「やめろよ気持ち悪いな」


 純粋に喜ぶ和哉を見ると、急に消えていった諭吉がどこかで微笑んでいるような気がした。誰かへの贈り物というのは決して無償ではない。相手が喜んでいる顔が何よりも見返りだろう。まぁそれも親しい人間に限るがな。見知らぬ人間にそれをできる程の寛大さを俺は持ち合わせていない。


「主役ってことは台詞も多いんやろなぁ……」

「本物の銀幕とは違うから安心しとけ。長い台詞なんかもない」

「それに標準語やろ? 未だに慣れてへんねやけど」

「別に関西弁のままでもいいじゃねぇの? 物語に支障はないし」

「『服』とか『靴』のイントネーションなんてもう染み付いてしまってるしなぁ。直そうとも思わんけど」


 主人公のイメージとしては標準語が適切かもしれないが、より自然体で演技に臨むには普段の関西弁のままのほうがいい気がする。

 まぁその辺は百瀬との相談も必要になってくるし、俺としてはどちらでも構わないと言ったところか。

 撮影は明日から夏休み最終日までする予定とのこと。正確には『終わらなければ最終日まで』というものなので、ミスもなく順調に進むことを願うばかりだ。

 そして俺は撮影の際に何をするのかよく聞かされていない。行く意味があるのかどうかもよくわからないが、原作者は作品に口出しできるという特権を持っているような気がしたので、とりあえずは百瀬の言うことに従って現場に参加しようと思う。


「夏樹が書いた物語っちゅうことは、なかなか期待ができるな」

「期待すんなよ。裏切ってしまった際に俺は何もできんぞ」

「ハードル下げようとしても無駄やぞ」

「目一杯下げておきたいね。膝の高さくらいにな」


 まさかとは思うが、他の部の奴らはこいつみたいな変な期待はしていないよな。そんなことを考えながら今更になって感じるプレッシャーを華麗に回避する方法を頭の中で検索してみたのだが、俺の脳と言う検索エンジンがまだ規模の小さいものだということを思い知らされるだけで終わった。


「そや。夏樹、ハンバーガー奢るわ」

「いいのか? バッシュのことなら別に気にしなくていいんだぞ」

「気にせんようになってからやったら遅いやろ。今のうちに受け取ったって」

「そうか。じゃあお言葉に甘えて」


 昨日は百瀬と、そして今日は和哉とのランチタイム。今や日本の庶民的な食べ物として上位に食い込むであろう某チェーン店のハンバーガーは、なかなか俺の舌に合うということで俺の中で評判である。

 朝からバッシュを受け取りに目を輝かせてやってきた和哉は、今度は何故か堂々とした表情で自転車にまたがり、立てた親指で自分の背中を指差した。


「乗れ。今なら特別快速や」

「ったく、何が嬉しくて男と二人乗りしなきゃいけないんだか」

「……友情?」

「何言ってやがんだ。早く漕げ。運賃はタダだろうな」


 女との自転車二人乗りはロマンであるが、男との二人乗りはただの交通法違反でしかない。今日は和哉が自転車と一体化した特別快速になるらしいので、これは紛れもない一人乗りだ。そういうことにしておこう。


 特別快速の名にふさわしいスピードを見せてくれた和哉だが、到着後の息切れに関してはまさに人間そのものだった。やはり二人乗りはよくない。真似をするなら悪い子だけにして欲しいものだ。

 暑苦しい真夏のアスファルトを走り抜けた和哉を労わるように、店内の室温は快適そのものだった。汗だくになった和哉は店内に足を踏み入れた瞬間、従業員よりも先にスマイルを浮かべていた。


「えー。ダブルハンバーガー4つとチーズバーガー4つ」

「っておい! そんなに食うんか?!」

「いや、和哉の分も頼んでおこうかと」

「なんでやねん。勝手に決めたら気が利いてるんか利いてないんかわからんわ」


 くだらないボケに逐一ツッコミを入れてくれるとやはり安心する。俺の身の回りでは和哉だけにこなせる業であり、そういった面においてはかなり信頼度の高いパートナーだと言えるだろう。認めたくはないが失いたくない相方だと実感させられる。


 真面目に働いている店員の態度を見て少し気まずくなった和哉は、結局先程の注文をキャンセルすることができず、俺の軽い冗談は合計8個のハンバーガーとなって目の前に現れることになってしまった。

 ハンバーグが12枚、パンが20枚、そこまで計算して俺はようやく後悔という先に立たないものを実感した。これからは状況に配慮した冗談を言おうという想いをピクルスと一緒に噛みしめ、堪え切れない笑いを相方と同じタイミングで吹き出した。

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