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~13.

「ごちそうさまでした。相変わらず料理がお上手ですね」

「主婦なんて料理くらいしかすることないからねぇ」


 百瀬の母親は謙遜したが、お世辞ではない。荷物を置きに百瀬の家に着いた時刻が昼ドラ前。自然な流れで百瀬の家でお昼ご飯を頂くことになったのだが、外で金を払って食う飯よりも断然うまいものを胃に収めることができた。うちの母親も見習ってほしいものだ。


「こら夏樹。なんでテレビ見てんの」

「何、構って欲しいの?」

「ち、違う! 今日は打ち合わせが目的でしょ!」

「まだ飯食ったばっかりなんだから別にいいじゃんか」

「光陰矢のごとし! 呑気にテレビを見ている間にも着々と限りある時間が過ぎていくんだから!」


 そこで百瀬の好きな俳優がこの番組にゲスト出演という名目で登場。気付いた百瀬はハッとした顔でおもむろに視線をテレビに向ける。


「……とにかく、始めよっか」


 テレビが気になって仕方ないという様子が顔にはっきりと表れているぞ。ていうか目がちらちらとテレビのほうに動いてるし。

 そんな幼馴染に意地悪したくなるのはおそらく当然のことだろう。リモコンを手に取り、すかさずテレビを消す。


「えぇ、いきなり消さないでよ」

「百瀬がテレビ見んなって言ったんじゃん」

「消せとは言ってないもん」

「さてさて、さっさと打ち合わせでもしますか」

「ちょっと待って! あ、あと20分だけ……」


 未練から出る数字にしては随分贅沢な数字だな。百瀬がそうやって好きな俳優の為に見る時間は、人生の中での掛け替えの大切なものなんだぞ。

 立場が逆転したこのおかしな状況に笑いを堪え切れず、争う間もなく百瀬にリモコンを渡して俺は床に寝転がった。


「これ見たらすぐやるからね。ちゃんと準備しててよ」

「テレビ見てる奴に言われたくねぇなぁ」

「う……」


 まったく、百瀬はきっと人生最後の5分をこうやって過ごすタイプだな。間違いない。でもまぁ悪くはないと思う。自分の命がなくなる直前まで、俺は自分の好きなものを見ていたいからな。そういった意味では幸せな最期の迎え方かもしれんな、テレビは。


 結局番組が終わるまで40分程アナログ管を活動させ、いつしかテレビに興味のなくなっていた俺に午後の睡魔が襲う。食事の後は血糖値が上昇するからな、今の俺ほど睡眠欲が顕著に表れている人間はいないのではないだろうか。


「寝たらさすがに怒るからね」

「そんときは怒るんじゃなくて起こしてくれ」

「しょうがないなぁ。まぁ私もテレビ見て時間とっちゃったし、耐えきれないときは睡眠を許可します」

「ということで今から眠りに落ちます……」

「その間に原稿読んどく」


 睡眠薬でも盛られたんじゃないかと思うくらいに眠い……。眠りに落ちる瞬間がくっきりとわかった。



 ――何分、いや何時間経っただろうか。体のだるさから考えると中途半端な昼寝だったに違いない。うっすらと目を開けてはいるものの、まだ夢うつつ。そうだ、ここは百瀬の家だった。

 夢の中での俺は何かの物語の主人公だったな。なんの物語だったかは覚えていないが、少しファンタスティックな夢だった。主人公らしい大きな剣を背負う俺が、どっかの国の王様の指令を受けた。何の使命だったのかもよく覚えていない。

 夢ってのは不思議なもんだ。夢の途中で目が覚めたりすることだってあるのに、内容をほとんど覚えていない。脳の活動によって見るものなのにメモリーに痕跡を残さないとは、誰かから逃げ回ってでもいるのだろうか。


 目覚めに考えごとをすると次第に睡魔が消滅していく。俺の場合、何かしらの夢を見た後の目覚めがいいのは夢の内容を思い出そうと考え込むからである。どれだけ体がだるくても2度寝に陥ることがないという究極の目覚まし時計であるが、夢を意識的に見ることができないのが欠点である。


 ゆっくりと起き上がり振り返ってみると、俺が持ってきた原稿を真剣な顔で見つめる百瀬がいた。冬になるとコタツに変身する便利なテーブルの上には、昼食時の麦茶がそのままグラスに残っている。やはりあまり時間はたっていないようだ。


 そしてゆっくりとページをめくる百瀬の異変に気付いた。

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