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~12.

 午前から昼にかけて行われた百瀬の買い物が終わり、早くも両手いっぱいの荷物を持たされた俺は、くそ暑い真夏の太陽の下で盛大に水分を放出していた。百瀬も両手に荷物を持っているから文句は言えないが、よくもまぁ短時間でこれほどのものを買い漁れたものだ。ていうか何を買ったんだ。

 百瀬の性格を踏まえて考えると、あらかじめ買うものを全て決めておいたという説が有力である。そして荷物持ちを俺に手伝わせるということもまた百瀬の中では規定事項なのだろう。いや、迷惑なんだが。


「夏樹、このままじゃご飯食べに行くのも嫌だよね」

「確かに。どこの店でも席を余分に用意してもらう羽目になるな」

「じゃあこのまま一旦帰って、荷物置いてから家の近くで」

「そうだな」


 そう遠くない駅の改札口。どちらかというと荷物のせいで通るのに苦労した。電車に乗ってしまえば1駅間だが涼むことができる。こんな田舎の電車でも冷房だけはしっかり利いてるもんだから大したもんだ。その調子で学校の教室にも冷房を完備してくれるといいんだが。暖房はいらないから冷房をよろしく頼む。


 そんな叶わぬ願いを込める為の流れ星が欲しいところだが、あいにくまだ日本は真昼間で、紫外線を止めどなく発射する太陽ばかりが鬱陶しく輝いている。今年は真夏のこの炎天下で映画撮影とやらの作業をこなさなければならないというのだから、さぞかし冷房が恋しくなろう。甘酸っぱい青春を感じさせるひと夏の恋は、どうやら冷房に捧げることとなりそうだな。


「電車が来るまであと5分。5分あったら何ができるでしょう?」

「なんだよいきなり」

「いや、なんとなく」

「5分あったら4分寝れるな」

「……もっといい答えを期待してたのに」


 あり得ない話だが、実際にこの世があと5分で消滅するというときが来たら俺は何をするだろうか。飯を食うか、大切な人と会うか。大切な人? 家族? 友達?


「……私の顔になんかついてる?」

「え、あぁ。アレがついてるぞ、鼻」

「うえ、ホントだ。呼吸できる」

「無理に乗ってこなくてもいいんだぞ。呼吸は口でもできる」

「意地悪だなぁ」


 ――5分あったら。何事もなければ60年くらいは生きられるような人間にはその僅かな時間の大切さがわからないかもしれないが、生まれてからすぐに死んでしまうような小さな虫などの生き物にとっては壮大なスケールの時間なのかもしれない。俺だってもし、自分の人生がたった15分しかなかったらそれはもう5分間と言う時間を大事にするさ。多分。


 ガラガラに空いた電車がホームに停まり、ドアが開いた途端に漏れる冷たい風が逆に心を温めてくれる。この感覚は夏にやたらと職員室の前に行きたがる小学生の頃のものに似ているな。いたずらをして怒られる最中でもあの涼しさにやられて説教なんか聞いていられなくなる。


 そんな癒しの風とも一駅でお別れし、見慣れ過ぎた小さな駅に到着。たった一駅で随分と街の様子は変わるもので、だからこそ土地に愛着が湧き、郷愁に駆られたりする。あの物語の主人公がバスケを続けるのも、様々なものが変わりゆく自分の人生の中で一貫したものを持ち続けたいという潜在意識がそうさせているのかもしれない。


 人間の潜在意識というものはかなり奥深くに眠っていることもざらにあり、これまでの人生で全く興味がなかったものがいざ触れてみるとそれ無しでは生きていられない程のものへと変化を遂げてしまう。

 俺が小さい頃から書いてきた小説というものには、俺の潜在的愛着があるのだろうか。俺の中に眠っているはずのアイディアが中々物語として創作されないのは何故なんだろう。時間が俺をそうさせたと言えば間違いはないのだが、それではあまりにも寂しすぎて憂鬱さえ感じられてしまう。


「ほら、もうすぐ着くからシャキっとして!」


 背筋を伸ばして前を歩く幼馴染を見ると、今は目先の原稿について考えることが第一だと思わされた。そうだな。とにかく今は、明日の自分を想像して、明日の行動を計画することの方が大事なんだ。

 不意に訪れる難関な迷路に陥りそうな時、入口に戻る勇気も時には必要なのである。

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