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タダシイ冒険の仕方5  作者: イグコ
一章 少年は仮面を被る
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暗がりに伸びる階段を転げそうに、いや半分転がりながら降りていく。地下三、四階分は下ったのではないかという段数に太股が張ってきた時、先に扉が現れた。その前で皆が足を止め、お互いにぶつかり合いながら崩れ落ちる。

「……はあ、焦ったー!」

乱れる呼吸の間に声を漏らすわたしを、隣りで床に俯せになったフロロが睨んできた。

「俺のグローブ!弁償しろ!」

「わ、わたしぃ!?消し炭にしたのはアルフレートじゃない!」

弁償が嫌、というよりも責任を負うのが嫌なわたしは思わず言い返す。するとアルフレートが指先をわたしに突き付けてきた。

「原因を作ったのはお前じゃないか」

「どっちでもいいよ!あのサイズでちゃんとした盗賊用のグローブ探すの大変なんだぞ!」

ああ、確かに大変そうだな、と叫ぶフロロの小さな手を見てわたしとアルフレートは頷いた。その様子を見ていたローザがぱんぱん、と手を叩く。

「喧嘩は後でいいわよ!先に進みましょ。イルヴァが限界に近いわ」

その言葉に壁に身を預けて座り込むイルヴァを見る。焦点が定まらない目をしていて頭にはヒヨコが舞っていそうだ。かわいそう、と思うよりもイルヴァって一日どのくらいのエネルギー使ってるんだろう、なんて疑問が沸いてしまった。

「……後でしっかり追及するからな」

フロロはぶつぶつ呟くと飾りけの無い扉のノブに手を掛けた。鍵穴も無いし開いているようだ。軽い音を立てながら開く扉の先、また暗闇が続いている。わたしは指を振ると自分の出現させた『ライト』の光を先行させた。

「なんだ、ここ?」

先頭のフロロがぽかん、と辺りを見回す。広い部屋にクッションがいっぱい落ちているのだ。何だろう、と思った時、自分の間違いに気付き総毛立つ。

「スライムよ!」

わたしの叫びと同時にヘクターのロングソードを抜く音がする。うぞうぞと気味の悪い動きを見せる透明のモンスターはわたし達を囲みだした。

「き、気持ち悪ーい」

ローザが後ずさる先にもスライムの集団がいる。ヘクターがローザの腕を引っ張るとスライムの一匹に剣を走らせた。すぱっと簡単に切れた体だったが、

「うわ、なんだこれ」

ヘクターが驚いた声を上げる。二つに分かれたスライムはそれぞれが綺麗な球体に戻り、別々にまた動きだしている。

「数を増やすだけだ、止めておけ」

アルフレートが冷静に答えると呪文を唱え始めた。が、何か思いついたように動きを止めるとわたしを見る。

「勝負しないか?」

「な、何で?」

嫌な予感に小声になってしまうわたし。

「グローブの弁償を賭けて勝負しようじゃないか。こいつらには魔法しか効かない」

そう言い終わるなりアルフレートは光球をスライムの集団に向けて投げ放つ。すぱぱん!と景気の良い音を立てて弾ける無機質のモンスターはそのまま溶けて蒸発していった。

「ちょっと待ってよ!……ローザちゃんは?」

アルフレートとガチ勝負なんて冗談じゃない、と親友を巻き込もうとするが、

「あたし?判定員になってあげるわよ」

そう言って指を折りだす姿に更に慌てる。

「ちょちょちょっと待ってってば!それもう数えだしてるってこと!?」

「騒いでないでさっさと呪文唱えだした方が良いと思うぜ」

フロロの冷静な声に振り返ると、アルフレートが鼻歌混じりにスライムを消していく姿があった。にこにこと指を掲げるローザに困った顔のヘクター、我関せずのフロロとイルヴァに味方がいないことを確信する。

「く、やってやるわよ!」

そう叫ぶ間にもアルフレートの呪文によって弾け飛んでいくスライム達の姿に気を取られながらも、必死でわたしも呪文に取りかかり始めた。

「エネルギーボルト!」

暴走気味の不安定な形をした光球がわたしの手元から離れ、勢いよく飛んでいく。始めこそ床を這うように進み無数のスライムを巻き込んでいくが、すぐに上昇気流に乗ったかのように天井に跳ね上がっていく。ばうん!と激しい音を立ててぶつかったが特殊な素材で出来ているのか天井は無傷だ。ほっとするも、

「ファイアボルト」

アルフレートの静かな声にまた幾つものスライムが消えていく。まずい、とてもまずい。咄嗟に浮かんだ呪文の断片を口に出した瞬間、ローザの顔色が変わった。

「何唱えようとしてんのー!」

わたしを羽交い締めするローザにはっと我に返るも、焦りしか沸いてこない。

「やらせて!このままじゃ負けちゃうじゃん!」

「『サラマンダー』って聞こえたわよー!ファイアーボールでも唱えてあたし達全員消し炭にする気!?」

悲鳴に近いローザの声に結界でも張ってろ、と答えそうになるがフロロが冷静に言い放つ。

「言っとくけど、少しでも俺らにダメージあったら即、負けにするからな」

至極真っ当な突っ込みにわたしは口籠るしかなかった。



「圧勝という快感は私にこそ相応しい」

うっとりとした顔のアルフレートに、さっきまで「リジアの負けー」とはしゃいでいたフロロも引き気味だ。がっくりと肩を落としながら続く暗い通路を歩くわたしにヘクターが声を掛けてきた。

「グローブが駄目になったのも、皆リジアが悪いと思ってるわけじゃないから、気落とさないで」

優しい言葉にぐっとくる。この人がいなかったらとっくに冒険辞めてるんじゃないだろうか、わたし。

「フロロはグローブの代金より探すのがめんどくさいんですよね?イルヴァが一緒にお買い物に行きましょうか?」

イルヴァの可愛い声に、

「い、いや、それは遠慮したいかな」

とフロロが柔らかく断った。それをにやにやと見るアルフレートを眺めながらわたしはさっきまでのことを考え始める。

やっぱり状況に相応しい魔法を咄嗟に、次々に唱えていくって想像より難しいんだな。今だったらあれ唱えておけば良かった、とか思いつくんだけど。わたしの場合、慌てることでいつも以上に魔法が暴走気味になっちゃうし。そう考えると学園での魔術師クラスってお勉強ばっかりで何で実践が無いんだろう。まずは知識、ってことかもしれないけど、今のこの足の引っぱり様を考えるとちょっとねえ……。でもアルフレートがいない所だと『火事場の馬鹿力』的に上手くやってる気もする。っていうとやっぱり甘えてしまっているんだろうか。

わたしの考えも知らずにアルフレートは歩きながら、

「飽きた」

と呟く。わたし、そしてローザも大きく溜息をついた。

「飽きたって、ねえ……。そういう問題じゃないでしょうが」

呆れるローザに顔色変えずにアルフレートは答える。

「飽きたものは飽きた。何で毎回こんな無機質な迷路を歩かされるんだ。せめて壁に絵でも描いとけばいいのに」

いいか?と聞き返したくなる台詞にわたしとローザが顔を見合わせた時だった。

「あ、また扉だよ」

いつの間にかヘクターに肩車されているフロロが前を指差す。廊下の突き当たりに大きな扉が見える。足を進めるにつれ『ライト』の光が届き、全貌が見えてきた。色とりどりの折り紙で星を象った物や猫の形の物がぺたぺたと張られた壁は幼児のお誕生日会の会場のような雰囲気。左右に伸びる弾幕には妙に下手糞な字で『いらっしゃい』と書かれている。

「……ここでゴールみたいね」

ここまで分かり易いお出迎えも珍しい、と思いながらわたしは呟いた。はあやれやれ、と扉に手を伸ばしたがふと思う。

「また変なロボット用意して待ち構えてたりしないかな」

振り向くわたしに皆も「あー……」と考えるような顔になった。

「さっき出てきたんだし、もう無いんじゃない?」

ローザが眉を寄せる横でヘクターも頷く。

「用意してあったらあったで考えよう。さっきと同じ性能だとちょっとキツいかもしれないけど」

「これで名前も分かるかもしれないですねー。何か長い名前だったのは覚えてるんですけど」

イルヴァには記憶力は期待していないが、わたしも覚えていない。

「何だっけ、ジャック・ウィルシャー?」

「それもう完全に人の名前じゃん」

アルフレートとフロロの会話を横にゆっくりと扉を開いていく。予想以上に明るい室内に目を細めた。するとぽけっとした顔のバレットさんと目が合う。

「あ、遅かったねー」

ビールグラス片手に安楽椅子でくつろぐ姿にいらっとした。しかし良い匂い、と空腹のお腹が鳴りだす。

「皆さん、いらっしゃいにゃー」

「お久しぶりだにゃー、ご飯用意してあるにゃー」

「早く席に着くにゃー、待ってたにゃー」

にゃーにゃーとまとわりつくのは懐かしい姿。猫そっくりだけど二足歩行の不思議な種族、その中に白猫タンタの姿もあった。わたしと目が合うとにやー、と笑い恥ずかしそうに身をよじる。

「お久しぶりだにゃ」

うふふ、と笑う姿に顔がほころぶものの、やっぱり男の子か女の子かは謎のままだった。

「あー、お腹空いた」

案内されたテーブルに着くなり、ローザが珍しいぼやきを吐く。地下だというのに明るいのは綺麗なランプシェードに包まれたいっぱいの魔晶石のお陰なんだろう。広いテーブルに全員が着くのを見るとバレットさんが口を開いた。

「王子のお使いで来たんだよね。お疲れさまー。遠いのにご苦労さん」

思わず頷きそうになるが、あれ、わざわざ『遊び』に付き合ってやったことは流しちゃうの?と非常にもやもやした気分になる。が、わざわざ話しに出すのも面倒くさい、とお腹が鳴りっ放しのわたしは思う。皆も同じ気分だったらしく疲れた顔のまま、運ばれてきた飲物を一斉に飲み干す姿があった。

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