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タダシイ冒険の仕方5  作者: イグコ
四章 夢の国、時の砂
52/98

5

「この恥さらしが!」

ベッドの上でいびきをかくデイビスをセリスが足蹴にする。デイビスは嫌そうな顔で横を向くものの、起きる気配はない。

「まあまあ……お説教もお仕置きも明日でいいわよ」

わたしは鼻息荒い彼女をそうなだめる。セリスは髪をかき上げた。

「当たり前でしょ、意識無い相手にやっても面白くないわよ」

「……そう」

怒りの治まりを見ると二人でデイビスの部屋を出る。向かうのはサラの部屋。今日一日、ばらばらに行動していたのでその報告会だ。少々眠いが仕方が無い。

廊下の角を曲がるとちょうどサラの部屋の扉を開けるところのフロロと目が合う。

「おす、もう皆揃ってるってよ」

そう言うフロロと三人で部屋の中に顔を出すと、椅子に座り本を読む姿のサラがいた。傍らにあるテーブルの上にはフローラちゃんが首を傾げている。サラがにっこり微笑んでそのフローラちゃんを指差した。



フローラの中に入るとアルフレートを筆頭にメンバーの半分が揃っている。後の半分は各自の部屋で待機中だ。

床に円を作って座るメンバーの中、一番奥にいるトマリを見る。たった一日の軟禁でも大分憔悴しているようだ。

「風呂とトイレ、済ませといたよ」

イリヤのトマリを指差しながらの報告に「ペットかよ」とセリスが突っ込んだ。

「旦那ー、まだ出られないのかよお。俺もう限界」

顔を覆うトマリにアルフレートが舌打ちする。

「しょうがないだろう、まだ石の秘密が分からないんだ。大体出て困るのはお前なんだぞ」

「そういや、あの黒集団は出てこないんで?」

トマリがはっと顔を上げた。わたしは頷く。

「さすがに城の中じゃ暴れられないでしょ。今日、わたしが町に出た時も大丈夫だった」

それを聞いてトマリは「いいなあ」とぼやく。人間だったら無精髭とクマでも出来ていそうな顔に少し気の毒になる。

「で、誰からいく?」

わたしが輪の中に投げかけた言葉にセリスが手を挙げた。

「私とイリヤからで。……っていっても大した報告無いんだけど。イリヤがビビッちゃって『ただの人』になってたから」

酷い言い様にイリヤが肩を落とす。それを横目に見ながらセリスは続けた。

「ぶらぶらとお城の中見て回るだけになっちゃったのよね。もちろん入れないところも多かったし。噂の礼拝室は見せてもらえたわ。想像よりでかかった。ちょっとした教会ってかんじ。あと聞いてた通り、立派なフロー様の像と……手には何も無かった」

それにトマリが反応する。「ここにあるもんねー」と石の玉に頬ずりするのをセリスは冷めた目で見ていた。

「使い道が分かんなかったらただの石ころよ。あとは蔵書室があったわよ。ここは明日サラと一緒に探ってみようと思って」

セリスが「おしまい」と言うと、フロロがイリヤを突く。

「アンタ本当に何もしてないんだな」

「……俺も自分の身は可愛いんだ」

まあ、あまり責める気にはなれないな、と思う。皆が再び目線を合わせる中、ローザが手を挙げた。

「じゃあ次はあたし。リジアには言ったけど家のコックのお知り合いがここで働いてるっていうから、会いにいったのよ」

イリヤが「家のコック……」と案の定な反応を見せる。

「そ、でも会いに行ってびっくりよ。その人料理長だって言うんだもの!だからあんまり時間取れなくて……。急に行ったのはこっちだし、無理も言えなくてねえ。個人的には面白かったけど、大した話し出来なかったわ」

「何を話したんだ」

アルフレートが舌打ちしてイライラしたように足を揺らす。オカマの話しが長いのは今に始まったことではないというのに。

「んもう!気が短いわねえ。……王室の方の好き嫌いよ。もちろん食事のね」

全員が微妙な顔をする中、意外にもアルフレートは身を乗り出す。

「どんなだ?」

「えっとね……正直な感想としては『結構好き嫌い多いのねー』って思ったわね。王子と国王様は好き嫌いまで似てるんですって。二人とも野菜が苦手なもの多いらしわよ。王妃様も日によって変わるんで困るとか何とか。イザベラが細かい感じだったわあ!見るからに神経質そうだものね!鳥が好きだけど皮が少しでも残っていたらもう食べないとか、トマトは火が少しでも入ると駄目!とか、珍しいわよね?あたしが一番嫌だなーって思ったのは王太后のグレース様ね!とにかく味にうるさいらしいのよー!昨日と同じ味付けなのに『辛い』って手を付けなかったりとか、サラダを所望したのに『冷えるから』って不機嫌になるとか……王室の方相手ってやっぱり大変よお」

ぺらぺらとよく喋るなあ、と感心してしまった。そういえばレオンも初めて会った時はレストランでケチつけまくってたっけ。彼の場合は神経質になってた時期なのもあるけども。

「レイモンもよくここで食事取るらしいけど、あれこれ注文するくせにおしゃべりに夢中で味わってるんだか、ってぼやいてたわね。まあ彼の場合は全部食べるだけ良い、とも言ってたけど」

「レイモンが城によく来る、って話しは今ちょうど聞いてきたわ」

わたしの返事にローザは目をぱちぱちとさせる。

「じゃあ今度はリジア達の話しお願い。昼の後から全然聞いてないもの」

そういえばそうだった。わたしは頭をかく。アルフレートとフロロの顔を見ると、今日一日の長い話しを聞かせることにした。



翌朝の朝食の席、アントンが急に低い呟きを漏らす。

「ローラスに帰りたい」

呆気に取られると同時にわたし達だけの席で良かったと思う。

「……確かにそろそろお家が恋しいですよねえ。まだ五日もあるなんて信じられない」

ヴェラがぼーっとした顔で頷いた。ナイフにささった目玉焼きの黄身が皿に斑点を作っている。ぼたぼたという音で気がついたのか「おっと」と言ってすくい上げた。

「購買のミルクパンが食べたい」

アントンが再び真顔のまま呟く。

「学園の購買の?アレあんた『まずい』って言ってたじゃない」

セリスの問い掛けにもアントンは「食べたい」と返すだけだ。これは重症だな。

「意気揚々と乗り込んできて『ミルクパン食べたいから帰ります』はねえだろ」

デイビスが呆れたように言うのには同情の念を送ってしまう。彼が意気込んだ経緯にはアントンの怪我があったというのに。

「それどころか失礼よ。元々は王妃様のお誕生日会に招かれたから来たのよ?」

サラがフォークを置いて身を乗り出すとイリヤが「ああ、そうだった」と呟く。何か駄目だな、この人達。

どこか抜けたデイビスパーティの会話を聞きながらの食事も終わり、ばらばらに席を立つ。アルフレートがフロロを手招きし、それをフロロが嫌そうな顔で見る、なんていつもの光景を横目に部屋を出ようとすると後ろから声を掛けられた。

「リジア」

ヘクターの少し囁くような声にどきどきとするが、壁際に寄ると彼の話しを聞く。

「今日も町に出ないか?」

「いいけど、どうしたの?」

「……ちょっと付き合って欲しいんだ」

にやにや顔のローザとセリスがヘクターの後ろを通っていく。恥ずかしいけどやばい、嬉しい。心臓が口から出そうで上手く発声出来ないわたしは、黙って頷いた。

「じゃあ後で」

そう言って部屋の方向へ去っていくヘクターを暫し見届けると、わたしも自分の部屋へと走る。何度か躓きそうになりながらも部屋に着くと、ドアを開け放った。

中にいるのはベッドメイクを終わらせた直後らしきファムさんの姿。いつもの冷静な顔に怒涛の勢いで今しがたのことを説明していく。

「デートよ!」

「デートですね」

「デートだ!」

「素晴らしい」

叫ぶわたしと静かなファムさんの声が繰り返される。一度頷き合うと、わたしは衣服を詰めたカバンに飛びついた。

「ああ、そのカバンの中身はこちらに」

そう言って立派な衣装棚を差される。ぼさっとしてる間にやってくれたらしい。本物のアンティークの衣装棚にわたしの衣類では釣り合わないが、今気にする問題ではない。

「ありがとう……着替えて行くのって気合入りすぎで引かれるかな!?良いよね、別に!」

上の段のハンガー掛けから衣服を引っ張り出すわたしの横から、ファムさんが黙って手を伸ばしてくる。下の段の引き出しになっている部分をがらっと開けると、わたしの持ってきた下着が並んでいた。

「気合を入れるならこちらから、かと」

「……それはちょっと先走り過ぎじゃないかしら」

どうにか赤面を抑えながら言うが、ファムさんはびしりとわたしの顔を指差した。

「リジア様、こういうのは実際に『役立つか』どうかは別なのです。問題なのは『こんなところから気合を入れている!』という過程なのですよ」

「おお……何か説得力あるわね」

わたしは思わず唸る。少し考えると引き出しから自前の下着を取り出し、ベッドに並べていった。

「実はわたし『使い道』は無いけど下着は好きなのよ。上下揃いは基本よ!どう?かわいいでしょ」

わたしは胸を張りながら並べた下着類を指し示す。が、ファムさんは眉間にしわ寄せた。

「なんだかいかにも女の子は好きだけど男受けはいまいち、な下着ばかりですね」

ファムさんの言葉が胸にさくっと刺さる。そこを突かれると何も言い返せない。

「……まあ今回はしょうがないでしょう。せめて服のラインに響かないものにするべきだと思いますけど」

ファムさんはフリルの多い下着を持ち上げて首を振る。そして打って変わった素早い動きで振り向くと、再びびしりとわたしの顔を指差す。

「では最低限の工夫で男を虜にさせる魔法を教えて差し上げます。……実はリジア様はそれをお持ちなのですよ?」

肩を掴み、耳元で囁く声にわたしは目を瞬かせた。

「……何だろう?わたしにも使えるお色気術ってことかしら」

チビで胸が無くてもいけますかね?と余計な事まで言いそうになる。ファムさんはにっこりと微笑んだ。

「かなり強力かと。あなたは知らぬ間に仕込まれていたのですよ。それを今解放してやりましょう」

そう言って指の長い手がわたしの頭に伸びてくる。わたしは思わず目をつぶってしまった。

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